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 昭和56年版 犯罪白書 第1編/第4章/第2節/2 

2 自由刑の罪名別量刑の推移

(1) 凶悪犯
 I-87表は,凶悪犯の殺人,強盗致死傷,強盗について,昭和31年以降の有期懲役の実刑の平均刑期及び実刑率を年次別に見たものである。殺人について平均刑期を見ると,31年の72.3か月から起伏を示しながら推移し,55年では,77.0か月となっている。次に,実刑率について見ると,各年次ともおおむね70%前後であるが,最高は38年の81.0%,最低は33年の58.9%となっており,55年は74.3%である。
 ここで,殺人により実刑となった者について,死刑,無期懲役を含めた刑期区分別にその分布状況を見ると,I-88表のとおりである。懲役7年を超え10年以下の者が多数を占めている年次は,昭和31年,38年,41年ないし43年及び45年であり,5年を超え7年以下が多数を占めるのは,33年,44年であり,その他の年次は3年を超え5年以下が多数を占めている。平均刑期では,おおむね70か月,すなわち,5年10か月を超えているが,刑期区分で見ると,それより短い3年を超え5年以下のところに集中している現象が現れている。無期懲役に処せられた者は,30年代前半は毎年4人ないし5人いたが,その後はやや減少している。死刑は,36年,47年,51年及び54年に各1人となっている。
 強盗致死傷について見ると,平均刑期では,昭和31年,33年及び34年に70か月を超えていたが,その他の年次は39年まで60か月台を推移し,40年に70か月を超えた後は50年までおおむね70か月台を推移してきた。ところが,51年から再び下降して60か月台になり,55年では67.0か月で,最近はやや下降傾向にあると言えよう。実刑率について見ると,法定刑の下限が高いこともあり,最低が48年の92.6%である。

I-87表 凶悪犯有期懲役実刑者の平均刑期及び実刑率(昭和31年〜55年)

I-88表 殺人による実刑者の刑期等別構成比(昭和31年〜55年)

 次に,強盗について見ると,平均刑期では,38年から42年まで50か月を超えていたが,その後は,起伏はあるが全体的には下降していると言えよう。最高は39年の55.4か月で,最低は49年の42.7か月である。実刑率について見ると,31年から46年まではおおむね70%を超えていたが,47年以降60%台に低下し,51年には58.9%と最低になったが,52年からは再び70%台に上昇し,55年では79.3%となっている。
(2) 粗暴犯
 I-89表は,粗暴犯のうちの傷害について,昭和31年以降の懲役の実刑,保護観察付執行猶予,単純執行猶予の各平均刑期及び執行猶予率を年次別に見たものである。実刑の平均刑期を見ると,31年に9.2か月であったのが,多少の起伏を示しながらも長期的には上昇し,55年で11.9か月となっている。保護観察付執行猶予及び単純執行猶予とも長期的にはいずれも平均刑期は上昇している。
 次に,執行猶予率について見ると,昭和42年まではおおむね50%前後であったが,その後,起伏はあるものの上昇し,51年に60.8%と最高に達したが,以後は下降傾向を示し,55年では50.6%となっている。
 I-90表は,粗暴犯のうちの恐喝について昭和31年以降の懲役の実刑,保護観察付執行猶予,単純執行猶予の各平均刑期及び執行猶予率を年次別に見たものである。実刑の平均刑期について見ると,31年の10.8か月から長期的には上昇傾向を示し,55年では,14.8か月となっている。保護観察付執行猶予及び単純執行猶予も長期的には平均刑期が上昇している。執行猶予率は,各年次とも50%を超えており,最高が50年の63.8%,最低が39年の51.3%となっている。
(3) 財産犯
 I-91表は,財産犯のうちの窃盗について,昭和31年以降の懲役の実刑,保護観察付執行猶予,単純執行猶予の各平均刑期及び執行猶予率を年次別に見たものである。実刑の平均刑期について見ると,31年の15.5か月を最低におおむね上昇を続け,46年以降は18か月台を推移している。保護観察付執行猶予では,31年から37年まで12か月台を推移した後,38年からはおおむね13か月台となっており,単純執行猶予では,31年以降おおむね12か月台を推移している。執行猶予率は,31年から41年までは40%台であったが,42年以降は50%を超えている。

I-89表 傷害事犯懲役実刑者等の平均刑期及び執行猶予率(昭和31年〜55年)

1-90表 恐喝事犯懲役実刑者等の平均刑期及び執行猶予率(昭和31年〜55年)

I-91表 窃盗事犯懲役実刑者等の平均刑期及び執行猶予率(昭和31年〜55年)

I-92表 詐欺事犯懲役実刑者等の平均刑期及び執行猶予率(昭和31年〜55年)

 I-92表は,財産犯のうちの詐欺について,昭和31年以降の懲役の実刑,保護観察付執行猶予,単純執行猶予の各平均刑期及び執行猶予率を年次別に見たものである。実刑の平均刑期について見ると,31年から35年までは13か月台,36年から47年まではおおむね14か月台又は15か月台であったが,48年から16か月台に上昇し,52年及び53年には18か月を超えた。しかし,54年では16.7か月,55年では15.3か月と大幅に下降している。保護観察付執行猶予及び単純執行猶予とも,長期的には平均刑期が長くなっている。執行猶予率について見ると,50年以前は50%を超える年次が相当数あったが,51年以降は40%台となっており,長期的には低下している。
(4) 薬物犯罪
 I-93表は,薬物犯罪のうち,覚せい剤取締法違反について,第一の流行期である昭和27年から32年までと,第二の流行期である47年から55年までの懲役の実刑,執行猶予の各平均刑期及び執行猶予率を見たものである。実刑の平均刑期について見ると,第一の流行期では,28年及び29年の5.8か月を最低にその後上昇し,32年に9.8か月となっているが,第二の流行期では,47年の12.4か月から起伏はあるが,長期的には上昇傾向を示し,55年では14.9か月となっている。執行猶予の平均刑期は,第一の流行期では,おおむね5か月台であったが,第二の流行期では,50年の7.9か月を最低として,その後上昇を続け,55年では10.1か月となっている。次に,執行猶予率について見ると,第一の流行期では,27年の70.1%を最高にその後急激に低下し,32年では22.9%となっている。ところが,第二の流行期では,51年の63.5%を最高に下降傾向を示してはいるが,55年でも54.4%と50%を超えている。

I-93表 覚せい剤事犯有期懲役実刑者等の平均刑期及び執行猶予率(昭和27年〜32年,47年〜55年)

(5) 過失犯
 I-94表は,過失犯のうち,業務上過失致死傷について,昭和40年以降の懲役・禁銅の実刑,執行猶予の各平均刑期及び執行猶予率を年次別に見たものである。業務上過失致死について見ると,実刑の平均刑期では,40年の9.5か月から長期的には上昇傾向を示し,55年では13.1か月となっている。執行猶予率では,50年以前はおおむね60%台であったが,51年以降は70%台となり,55年では76.6%となっている。次に,業務上過失致傷について見ると,実刑の平均刑期では,各年次により起伏はあるが8か月台の年次が多く,全体としては横ばい傾向と言えよう。執行猶予率は,48年以前はおおむね60%台であったが,49年に70%を超えた後上昇傾向を示し,55年では82.7%の高率になっている。

I-94表 業過事犯懲役・禁鍋実刑者等の平均刑期及び執行猶予率(昭和40年〜55年)