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 昭和56年版 犯罪白書 第1編/第3章/第2節/2 

2 精神障害のある犯罪者の取扱い

(1) 刑法による取扱い
 精神障害のために,行為の是非善悪を弁別することができないか,その弁別はできても,それに従って行動する能力がない者は,刑法上,心神喪失者として刑罰を受けることがない(刑法第39条第1項)。また,このような弁別能力又は弁別に従って行動する能力の著しく低い者は,心神耗弱者として刑が減軽される(同条第2項)。
 I-71表は,犯罪を犯した精神障害者のうち,検察の段階で心神喪失を理由として不起訴処分に付された者及び裁判の段階で心神喪失を理由として無罪とされた者又は心神耗弱が認められて刑を減軽された者の数を最近5年間について見たものである。昭和55年において,心神喪失を理由とする不起訴人員は548人,心神喪失を理由とする無罪人員は19人となっている。

I-70表 刑法犯検挙人員中精神障害者の罪名別人員(昭和55年)

1-71表 心神喪失・心神耗弱者の人員(昭和51年〜55年)

(2) 精神衛生法による取扱い
 精神衛生法は,精神障害者を精神病者(中毒性精神病者を含む。),精神薄弱者及び精神病質者に分類し(同法第3条),精神障害又はその疑いのある者を知った場合の都道府県知事への一般人からの申請(同法第23条,対象者は犯罪者に限らない。)並びに警察官,検察官,保護観察所長及び矯正施設の長の通報義務,精神病院の管理者の届出義務(同法第24条ないし第26条の2)について規定している。これらの申請・通報・届出を受けた都道府県知事は,精神衛生鑑定医の診察の結果,診察を受けた者が精神障害者であり,かつ,医療及び保護のために入院させなければ,その精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあることが2人以上の精神衛生鑑定医によって一致して認められた場合には,精神病院にいわゆる措置入院させることができる(同法第29条)。
 I-72表は,最近5年間における精神衛生法の規定に基づく申請・通報件数及び精神障害者数を見たものである。総数は,逐年,いずれも減少傾向を示している。しかし,検察官,矯正施設の長及び保護観察所長からの通報件数及び精神障害者数は,各年で多少の増減はあるものの,ほぼ横ばいの状態であるが,特に,昭和55年における検察官からの通報のうち,精神障害者数及び措置入院者数は過去5年間の最高となっている。

1-72表 精神衛生法による申請・通報件数及び精神障害者数(昭和51年〜55年)