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 昭和56年版 犯罪白書 第1編/第2章/第5節 

第5節 選挙犯罪

 昭和55年における公職選挙法違反の検察庁新規受理人員は,前出I-16表のとおり,1万9,161人で,前年の5万812人から大幅に減少した。54年には統一地方選挙,衆議院議員総選挙等が行われたが,この両選挙ともいわば予定されていたものであったため,違反事件が多数検挙されたのに対し,55年には参議院議員通常選挙,衆議院議員総選挙が行われたものの,特に後者は,前回の選挙から間がなく,しかも,衆議院の突然の解散によるものであったためか,前回に比べ受理人員は大幅に減少している。55年における選挙犯罪の内容を見ると,違反事件の大半が買収事犯で,その規模が高額化,大規模化している。特に買収事犯では,後援会,企業,労働組合等各種組織の合法的活動を仮装するなど全体的に手段・方法が一層悪質巧妙化していること,衆議院議員総選挙では,突然の解散による選挙であることもあって,違反事件の多くが事前運動ではなく選挙運動期間中のものであったこと及び参議院議員通常選挙では,労働組合幹部による全国的規模の文書頒布,戸別訪問事犯が見られたことなどが挙げられる。
 I-44表は,最近行われた3回の参議院議員通常選挙について,全国区,地方区別に公職選挙法違反の検察庁受理人員(検察庁間の移送,再起を含む。)を違反態様別に見たものである。受理人員総数は,毎回減少を続け,昭和55年には前回より1,707人減の7,554人となっている。違反態様別に見ると,いずれも買収事犯が大半を占めていることに変わりはなく,その占める比率も前回とほぼ同様である。全国区,地方区別に見ると,55年では,前回に比べ,全国区が87人増加しているのに対し,地方区では1,794人と大幅に減少している。違反態様別では,全国区の買収事犯が64.3%であるのに対し,地方区のそれは74.9%とかなり高くなっている。

I-44表 参議院議員通常選挙関係公職選挙法違反の検察庁受理人員(昭和49年,52年,55年)

 I-45表は,昭和55年の参議院議員通常選挙について,違反態様別に検察庁処理状況を示したものである。これによると,55年12月31日現在における起訴及び不起訴人員総数は5,644人である。そのうち起訴された人員は,2,051人で総数の36.4%である。違反態様別に見ると,買収が3,862人(68.4%)を占めており,そのうち公判請求された人員は163人で,公判請求人員総数の71.2%となっている。
 I-46表は,最近行われた3回の衆議院議員総選挙について,公職選挙法違反の検察庁受理人員(検察庁間の移送,再起を含む。)を違反態様別に見たものである。受理人員総数は,昭和55年の選挙では前回(54年)の2万8,641人から1万6,698人と大幅に減少している。違反態様別では,買収が前回の2万6,455人から1万4,357人へと1万2,098人(45.7%)減少し,比率でも,前回の92.4%から86.0%へと6.4%低くなっている。文書違反は前回の3.4%から55年は8.7%と大幅な増加を示している。特異な事例としては,企業ぐるみの大規模買収事犯,現職市長及び市議会議員らによる高額買収事犯,県知事の署名等を偽り表示した県知事名の推薦文書を偽造した上,郵送頒布した事犯等が挙げられよう。
 I-47表は,昭和55年の衆議院議員総選挙における違反態様別の検察庁処理状況を示したものである。これによると,55年12月31日現在における起訴及び不起訴人員総数は1万1,290人である。そのうち起訴された人員は6,892人で総数の61.1%となっている。前回の選挙では,起訴人員が総数の63.2%を占めていたが,今回はそれより2.1%低くなっている。違反態様別に見ると,買収が9,696人(85.9%)で,そのうち公判請求された人員は1,719人で,公判請求人員総数の95.9%を占めている。
 I-48表は,昭和50年以降の5年間について,第一審において公職選挙法違反により有罪となった者の科刑状況を刑種別に見たものである。これによると,54年では,第一審において懲役及び禁錮に処せられた者は1,400人で,そのうち99.4%に当たる1,391人に執行猶予が言い渡されている。50年以降の5年間について見ても,懲役及び禁銅の実刑に処せられた者は62人で,全体の1.1%にすぎない。
 1-49表は,昭和54年の通常第一審における公職選挙法違反事件の審理期間を全事件と対比して見たものである。全事件では,3月以内に終局したものが65.2%,6月以内では87.9%になっているのに対し,公職選挙法違反では,3月以内が31.5%(前年は10.7%),6月以内で61.3%(前年は26.5%)となっており,この種事件についても前年に比べ審理の促進が顕著に認められるが,1年を超えるものが31.0%を占め,特に,3年を超えるものが16.3%を占めているなど,依然としてこの種事件の審理に長期間を要する傾向が残っている。

I-45表 昭和55年6月施行の参議院議員通常選挙の際の違反態様別処理人員(昭和55年12月31日現在)

I-46表 衆議院議員総選挙関係公職選挙法違反の検察庁受理人員(昭和51年,54年,55年)

I-47表 昭和55年6月施行の衆議院議員総選挙の際の違反態様別処理人員(昭和55年12月31日現在)

I-48表 公職選挙法違反の第一審有罪人員(昭和50年〜54年)

I-49表 通常第一審全事件と公職選挙法違反事件の審理期間別終局人員(昭和54年)