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 昭和56年版 犯罪白書 第1編/第1章/第1節/3 

3 我が国の犯罪動向

 以上のように,昭和55年を中心とする我が国の犯罪動向を見ると,業過を除く刑法犯の認知件数は,49年から53年まで連続5年間増加し,54年にはやや減少したものの,55年には再び増加して,最近15年間で最高の約136万件に達した。
 特に,昭和55年における犯罪動向の特徴として,強盗,なかでも強盗傷人等の凶悪事件の多発と金融機関強盗の激増,通り魔的な殺人,身代金目的誘拐と被拐取者の殺害,保険金目的の殺人及び放火の多発,詐欺・横領及び贈収賄の増加など,犯罪の凶悪化と知能犯化の傾向が顕著に現れてきたように見える。CD犯罪のような金融機関のコンピュ-タ・システムに関連する新しい形態の犯罪も増加を続けている。薬物犯罪も,後述のように,覚せい剤濫用を主体として激増状態が続いている。
 このような犯罪動向のもとで,少年層が犯罪に関与する度合いはますます高まっており,第4編少年非行で詳述されているように,昭和55年における交通関係業過を除く刑法犯の全少年(触法少年を含む。)検挙(補導)人員について見ると,検挙人員,少年比(全検挙人員に占める少年の比率),及び人口比(各年齢層の人口10万人又は1,000人当たりの検挙人員)のいずれにおいても,41年以後の15年間の最高を記録するに至り,また,少年非行の粗暴化・悪質化の傾向は,学校内暴力,暴走族による犯罪の増加などに現れていると言えよう。
 我が国の犯罪動向を欧米先進主要4箇国と対比して,犯罪認知件数の最近10年間の推移を図示すると,I-7図のとおりであり,1970年の認知件数を100とする指数で見ると,1979年において,アメリカは150,イギリスは152,ドイツ逢邦共和国は146,フランスは203,日本は101であり,欧米諸国において犯罪が10年間に約1.5倍ないし2倍に激増しているのに対し,我が国の犯罪増加率はかなり低い。また,犯罪発生率(人口10万人当たりの犯罪認知件数)を見ても,1979年において,アメリカは5,521,イギリスは4,833,ドイツ連邦共和国は5,761,フランスは4,367であるのに対し,日本は1,109である。このように,我が国の犯罪水準は,欧米諸国と対比して,犯罪発生率と犯罪増加率の双方において,最も低いことが明らかである。
 しかし,少年非行の動向を見ると,状況はかなり異なる。I-8図は,欧米諸国と日本の少年(18歳未満又は17歳未満。同図の注2参照)検挙人員の最近10年間の推移を図示したものである。1970年の検挙人員を100とする指数で見ると,1979年において,アメリカは143,イギリスは135,ドイツ連邦共和国は140(フランスについては1971年以前の統計が入手できないが,1972年を100とする指数では136)であるのに対し,日本は141であり,少年非行の増加率において,我が国は欧米諸国とほとんど変らないだけでなく,少年比については,1979年においてアメリカは38.8,イギリスは28.5,ドイツ連邦共和国は22.3,フランスは15.4であるのに対し,日本は39.0であり,欧州諸国をはるかに超え,アメリカ並みになっている。
 このような我が国の犯罪動向,特に,少年非行の激増状況は,昭和48年秋の石油危機以降の経済的・社会的情勢の変化と関連するものと見られるが,豊かな社会(都市型・大衆消費社会)における物質主義,価値観の変化,規範(倫理・法)意識の低下など,欧米で指摘されている犯罪増加の諸要因と共通する要因が我が国にも現れてきているように見える。今後の動向について一層の警戒を要するとともに,特に,少年非行の防止のためには,全国民的な視野から,有効な対策を確立すべき時期に来ているように思われる。

I-7図 犯罪認知件数の推移(1970年〜79年)

I-8図 少年検挙人員の推移(1970年〜79年)