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 昭和55年版 犯罪白書 第4編/第4章/第2節/3 

3 ドイツ連邦共和国

(1) 犯罪の概観
 ドイツ連邦共和国の犯罪者処遇の実情を見る前に,同国の犯罪情勢を概観すると,IV-27図のとおり,犯罪発生件数(交通犯罪を除く,以下同じ。)は,1974年から1978年の5年間に,約274万件から338万件へ23.3%増加し,検挙人員は約99万人から117万人へ18.3%増加し,有罪人員は,約38万人から41万人へ6.6%増加している。
 次に,刑事裁判について,刑法の適用による有罪人員の自由加と罰金刑の比率を見ると,IV-28図のとおり,近年,罰金刑が82%ないし83%,自由刑(Freiheitsstrafe)が16%ないし17%である。また,少年刑法の適用による有罪人員のうち,教育処分(Erzie11ungsmassregel),懲戒処分(Zuchtmittel)及び少年刑(Jugendstrafe)の各比率を見ると,IV-29図のとおり,近年,教育処分の比率が高まって1978年では20%を超え,懲戒処分の比率が低くなって同年で約69%になっているが,少年刑の比率は,10%ないし12%台で推移している。
 有罪人員の刑種,刑期及び執行猶予率について見ると,IV-96表のとおり,自由刑のうち,刑期1年以下の比率は,1978年で87.2%であり,また,1969年の第1次刑法改正法による6月未満の短期自由刑の制限の規定(刑法第47条)にもかかわらず,6月未満の自由刑が,48.9%と半数近くを占めている。自由刑の執行猶予率は,同年において,総数で64.3%である。6月未満の自由刑のうち,実刑を受けた者が1万人を超えている事実は,前記の有罪人員中に占めるこの刑期の者の高い比率と併せ考えると,同国では短期自由刑がかなり重視されているように思われる。無期刑は,同年において52人である(同国では,死刑は廃止されている。)。

IV-27図 犯罪発生件数・検挙人員・有罪人員の推移

IV-28図 刑法適用による有罪人員の自由刑と罰金刑の比率

IV-29図 少年刑法適用による有罪人員の教育・懲戒処分と少年刑の比率

IV-96表 有罪人員の刑種・刑期及び執行猶予率

IV-97表 日数罰金の運用状況.(日数別金額の構成比)

 日数罰金の運用状況を見ると,IV-97表のとおり,1978年において,罰金納付者総数約51万人のうち,日数では5日ないし90日が大部分であり,1日分の金額は20マルクを超え50マルク以下が最も多い(1978年の外国為替レート1マルク107.3円で換算すると,90日で1日分50マルクの罰金額は,約48万円になる。)。高額の方を見ると,日数181日以上360日以下で1日分101マルク以上のものが60人いる。
(2) 犯罪者の処遇
 行刑施設(Justitzvo11zugsanstalt)に収容中の受刑者数の推移を見ると,IV-30図のとおり,1971年の3万3,015人を最低として,以後,おおむね増加傾向を示しており,1978年では4万1,557人である。次に,受刑者の年齢層・刑種・刑期別の比率を見ると,IV-98表のとおり,1978年において,年齢層別では,25歳以上40歳未満の者が51.5%と最も高いが,25歳未満の若年成人・少年も28.5%とかなり高い比率を占めている。刑種別では,同年で,自由刑が83.9%,少年刑が15.5%,保安拘禁が0.6%である。常習累犯者に対する保安処分としての保安拘禁は,近年,その適用が著しく減少しており,1965年には1,430人であったのが,1978年には268人になっている。自由刑について刑期別に見ると,1978年では,9月未満が36.2%,9月以上2年未満が33.6%を占めており,さきに有罪人員の刑期別の箇所で述べた短期目白刑重視の傾向を反映しているようである。無期刑は,2.8%(979人)である。同国では,無期刑の受刑者に対しては仮釈放制度がなく,恩赦の対象になるのみであるが,死刑に代わる最高の刑であるだけに,その適用は慎重に行われているようである。

IV-30図 刑事施設収容中の受刑者数ドイツ連邦共和国(1969年〜78年各3月31日現在)

IV-98表 刑事施設収容中の受刑者の年齢層・刑種・刑期別構成比

 ドイツ連邦共和国の行刑施設数は1978年において165であるが,その収容・出所状況を見ると,IV-99表のとおり,1978年12月31日現在における収容者数は約5万人,収容能力に対する比率は86.7%である。また,独居房と雑居房の各収容者の割合は,ほぼ6対4である。しかし,約5万人の収容者のうち,未決拘禁者が約1万4,000人(27.7%)を占めていることが注目される。同国には,我が国のような起訴前の勾留期間の制限がなく,実際の勾留期間もかなり長い。例えば,1978年において,一審判決までの勾留期間が3月を超える者は,勾留被告人総数(3万8,361人)のうち,34.2%を占め,1年を超えるものは3.6%(1,395人)である。なお,自由刑執行のうち,罰金の換刑処分によるものが1,408人いる(ただし,これは12月81日現在の人員であり,同年中に換刑処分で入所した人員は2万7,724人である。)。受刑者の出所状況を見ると,1978年において,満期釈放と仮釈放の割合は,7対3である。

IV-99表 刑事施設の収容・出所状況

 次に,保護観察の対象人員と保護観察官の人員の推移を見ると,IV-31図のとおり,1969年から1978年の10年間に,保護観察対象人員が約3万3,000人から8万1,000人へ2.5倍に増加しており,これに対応して保護観察官の人員も538人から1,523人へ2.8倍に増加している。

IV-31図 保護観察の対象人員と保護観察官の人員

IV-100表 保護観察対象者の刑の執行猶予・仮釈放の取消率

 保護観察対象者の刑の執行猶予・仮釈放の取消し状況を1974年から1978年の5年間について見ると,IV-100表のとおり,各年に保護観察を終了した対象者総数のうち,執行猶予又は仮釈放の取消しによって保護観察を終了した者の占める比率(取消率)は,1978年において,執行猶予では43.0%,仮釈放では45.1%である。なお,執行獄予又は仮釈放を取り消された者のうち,再犯によって取り消された者の占める比率は,1978年において,執行猶予では81.7%,仮釈放では86.0%であるから,保護観察の遵守事項違反による取消しは,全取消し人員の約14%ないし18%となっている。
 以上,ドイツ連邦共和国の犯罪者処遇の実情を公的統計資料によって概観した。同国では,1969年の第1次,第2次刑法改正法,1974年の刑法施行法等によって,自由刑の種類の単一化,短期自由刑制限,日数罰金の導入,保護観察付執行猶予の拡充,保安拘禁の要件の厳格化,社会治療施設収容処分の立法など重要な改革が行われてきた。特に,危険な累犯者対策の大きな柱である社会治療施設収容処分は,施設・スタッフ(精神分析医,心理学・教育学の専門家,ケースワーカー等)などの物的・人的資源上の問題から法律の施行が延期されているが,現在,各州の10の行刑施設で行われている試験的実施の結果は,おおむね良好と言われている。また,1976年3月に成立した行刑法(自由刑並びに自由剥奪を伴う矯正及び保安の処分の執行に関する法律,1977年1月施行)は,行刑の目的,受刑者の法的地位,外出・休暇制,作業報酬金など,施設内処遇の諸問題に関する重要な内容を含んでいる。ドイツ連邦共和国の犯罪者処遇の動向は,今後も注目に値するであろう。