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 昭和55年版 犯罪白書 第4編/第4章/第2節/2 

2 イギリス(連合王国)

(1) 犯罪の概観
 イギリス(ただし,イングランド及びウェールズに限る。)における,我が国のほぼ刑法犯に当たる要正式起訴犯罪(indictableoffences)の発生件数及びその人口比の推移を1970年以降1978年までについて見てみると,IV-26図のとおりである。発生件数は,1970年では約157万件であったが,1978年では約240万件へと約53%増加し,また,人口10万人当たりの発生件数では,1970年は3,221件であったが,1978年は4,878件に増加している。
 1978年における要正式起訴犯罪の検挙相当人員(イギリスについては,検挙人員の数字がないため,有罪が認定された者及び警察で警告がなされた者を,我が国における検挙人員に相当するものとして用いる。)は,約53万1,000人であり,検挙率は41.7%となっている。要正式起訴犯罪及び正式起訴を要しない犯罪(non-1ndictableoffences,以下「略式犯罪」という。)を合計した1978年における検挙相当人員は,約207万5,000人である。1970年から1978年までの要正式起訴犯罪・略式犯罪別の検挙相当人員は,IV-90表のとおりである。

IV-26図 要正式起訴犯罪発生件数及び人口比の推移

IV-90表検挙相当人員の内訳

 次に,要正式起訴犯罪について,治安判事裁判所(Magistrates, Court)及び刑事裁判所(CrownCourt)における判決言渡し状況を,1970年から1978年までについて見てみると,IV-91表のとおりである。判決言渡し人員は,1970年は33万8,981人であったが,1978年では42万3,943人であって,25.1%増加している。1970年と1978年とを比較して見ると,罰金は,人員で5万4,438人増加するとともに,比率でも46.9%から50.3%へと増加しており,拘禁及びその執行猶予では,人員で拘禁が5,483人,執行猶予が1,519人増加したが,比率では拘禁が9.5%から8.9%へ,執行猶予が8.0%から6.8%へとそれぞれ減少している。また,保護観察は,人員で2万2,189人減少し,比率で13.1%から5.2%に減少している。なお,社会奉仕命令(communityserviceorder)は,1974年では969人にすぎなかったが,1978年では1万1,781人に増加している。

IV-91表 要正式起訴犯罪における言渡処分名別構成比

 1978年における略式犯罪を含めた言渡人員は,IV-92表のとおりであり,略式犯罪においては,罰金が,交通事犯97.6%,その他89.2%と高い比率を示している。
(2) 犯罪者の処遇
 イギリスにおける矯正施設である刑務所(77施設),拘置所(14施設),ボースタル訓練所(27施設)及び短期収容所(detentioncenter,18施設)の1978年末現在の収容定員は,3万7,735人であるが,1日平均収容人員は4万1,796人であって,定員を10.8%超えており,特に,男子地方刑務所(刑務所には,地方,閉鎖,開放の3種類があり,男子のそれは,24,36,9の計69施設がある。)においては,定員1万1,650人に対し1万7,164人を収容し,47.3%の過剰状態となっている。なお,1968年以降における1日平均収容人員の推移を見ると,IV-93表のとおりであり,1968年では3万2,461人であるので,大幅な収容人員の増加が見られる。

IV-92表 治安判事裁判所及び刑事裁判所における言渡人員及び構成比

IV-93表 矯正施設における1日平均収容人員

 矯正施設職員数は,2万2,277人であるが,管理業務等に携わる者及び研修中の者を除く常勤の刑務官は,1979年1月1日現在1万4,847人であり,刑務官1人当たりの平均収容者担当人員は,2.8人である。
 1978年における成人受刑者新規受理人員について,刑期を見てみると,IV-94表のとおりであって,1月以下の者が5.2%おり,41.5%の者が6月以下である。
 次に,刑期別の構成比を5年間にわたって見てみると,3月以下の短い刑期の者が占める率が逐年上昇し,1974年では14.0%であったが,1978年では19.9%と5.9%増加している。一方,6月を超え1年6月以下及び1年6月を超え4年以下の刑期の者の占める率は,反対にいずれも減少し,1974年では,前者が38.8%,後者が22.1%であったが,1978年では,35.8%及び18.8%と,それぞれ3.0%ないし3.3%減少し,緩刑化が見られる。

IV-94表 新規成人受刑者刑期別人員

 イギリスにおいては,無期刑を除き刑期が1月を超える者にあっては,刑務所内における規律違反がない場合は,刑期の3分の2(ただし,31日以上)を服役した時点で,減刑により釈放される。また,刑期の3分の1を減ずるこの減刑の制度に加えて,刑期が1年6月を超える有期刑の者にあっては,刑期の3分の1(ただし,1年以上)の服役後に,仮釈放が考慮されることとなっている。1978年では,4,808人が仮釈放を許可されている。
 1978年末において,保護観察官の監督を受けている人員は,13万8,195人であるが,件数では,1人が複数の処分に付せられているため,15万3,114件となっている。その種類別件数は,IV-95表のとおりであり,保護観察が4万2,627件,社会奉仕命令が1万5,366件,仮釈放が3,869件,執行猶予監督命令(suspendedsentencesupervisionorder)が2,978件である。

IV-95表 保護観察等監督種類別件数

 常勤の保護観察官は,1970年には3,352人であったが,逐年増加して,1978年は1970年に比べて,1,819人増加し,5,171人となっている。
 前述の社会奉仕命令は,1972年の刑事裁判法(第14条ないし第17条)によって新設されたものである。これは,17歳以上の者で,拘禁刑に処せられる罪で有罪と認定された者に対し,裁判所が,その者の同意を得て,40時間から240時間の範囲内で定めた時間数の社会奉仕作業を1年以内に行うことを命ずるものである。その作業は,老人ホームの塗装,児童公園の造成等であり,保護観察官の指示に従って行われる。なお,この命令に違反した場合は,罰金等の刑罰に処せられる。