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 昭和55年版 犯罪白書 第4編/第3章/第2節/1 

第2節 少年院収容者の処遇

1 少年院における処遇

(1) 新収容者及び1日平均収容人員
 IV-9図は,昭和24年から54年までの間に少年院に新たに送致された者の人員及び1日平均収容人員の推移を見たものである。
 新収容者の人員は,少年法適用年齢の18歳未満から20歳未満への引上げを延期していた措置が昭和25年12月末日をもって経過したことにより,26年には1万1,333人と少年院史上最大の数字を記録し,その後,41年までの15年間は緩やかな増減を繰り返しながら推移していたが,42年からは減少傾向が続き,49年には1,969人と最低の人員になっている。しかし,50年からは再び増加傾向となり,54年には4,074人になっている。

IV-9図 少年院新収容人員及び1日平均収容人員の推移

 次に,1日平均収容人員の推移を見ると,昭和24年には2,028人であったのが,3年後の27年には,5.3倍の1万815人と激増し,その後は,おおよそ9,000人台で41年まで推移している。42年からは減少傾向となり,49年には前年比で初めて20%を超える減少率を示し,2,515人となっているが,50年からは再び増加傾向となり,54年には,3,195人と3,000人を超えて,前年比でも10.1%増とかなりの伸びを示している。
(2) 新収容者の特徴
ア 性別及び年齢
 IV-10図は,昭和24年から54年までの新収容者について,男女別構成比の推移を見たものである。女子の比率は,おおむね10%前後を推移しているが,51年以降は増加傾向が見られ,54年には12.7塵と過去最高の比率を示している。

IV-10図 新収容者の男女別構成比の推移

 昭和24年から54年までの新収容者について,年少少年(14歳・15歳,ただし,24年については14歳未満の者を含む。),中間少年(16歳・17歳),年長少年(18歳以上)の3段階に区分して,男女別の年齢層別構成比の推移を見たのが,IV-11図である。男子少年では,少年の年齢が20歳未満に引き上げられた26年以降年長少年の占める比率が高率で推移してきたが,39年に中間少年の比率が年長少年をわずかに上回った後,41年から再び年長少年の増加が著しくなり,54年では全体の半数以上を占めている。女子少年については,各年齢層とも増減を繰り返しながら推移し,54年では,中間少年,年少少年,年長少年の順となり,低年齢化の傾向を見せている。
イ 保護処分歴及び非行名
 IV-54表は,新収容者の保護処分歴別人員を昭和25年から50年までの5年ごと及び54年について見たものである。男女共に,保護観察歴のある者の占める比率が最も高く,54年には,男子54.8%,女子28.0%となっている。次いで,少年院歴のある者の占める比率が高くなっている。また,保護観察歴のある者及び少年院歴のある者の占める比率は50年ころまで減少傾向にあったが,その後は増加傾向を示している。なお,教護院・養護施設歴のある者は最も少なく,近年は更に減少傾向にある。

IV-11図 新収容者の年齢層別構成比の推移

IV-54表 新収容者の保護処分歴別人員

 保護処分歴回数別構成比を,昭和40年から52年までについて見たのが,IV-12図である。保護処分歴1回の者が最も多く,新収容者の30%から35%の間を上下して推移しており,2回及びなしの者がそれに次いで20%台で推移している。4回以上の者の占める割合は10%前後で最も少ないが,3回の者を加えると,52年には25.3%になっており,4人に1人は3回以上の保護処分歴を持っている。
 IV-13図は,新収容者の非行種別構成比を,昭和25年から50年までの5年ごと及び54年について見たものである。男女共に,財産犯の占める割合が逐年減少しているが,女子の場合その傾向が著しく,25年に72.2%であったが,54年には19.7%と激滅している。逆に増加傾向にあるのは,男女共に,毒物及び劇物取締法違反,覚せい剤取締法違反等の特別法犯で,女子の場合虞犯がそれに加わっている。また,粗暴犯及び凶悪犯は,40年をピークに減少傾向にあるが,なお,男子は54年に16.6%を占めている。

IV-12図 新収容者の保護処分歴回数別構成比の推移

IV-13図 新収容者の非行種別構成比の推移

IV-14図 新収容者の教育歴別構成比の推移

ウ 教育歴及び保護者
 IV-14図は,新収容者の教育歴別構成比を昭和25年から50年までの5年ごと及び54年について見たものである。男女共に,義務教育未修了者(不就学,小学校在学・中退・卒業,中学校中退の者)が激滅しており,54年には,男子で0.7%(26人),女子で0.4%(2人)となっている。また,中学校卒業者の占める割合は,義務教育未修了者の激減に反比例して激増していたが,45年ころを境に減少傾向に転じ,54年には男子50.3%,女子43.2%となっている。これは,男子の場合は高等学校在学・中退者の増加に起因しており,女子の場合はそれに加えて中学校在学者の増加が原因となっている。とりわけ,女子の場合は中学校在学者の占める割合が逐年増加し,54年には,全体の30%近くに達している。
 IV-15図は,新収容者の保護者別構成比を昭和25年から50年までの5年ごと及び54年について見たものである。新収容者の保護者が実父母で占める割合は45年ころまで増加していたが,その後は減少し,実父,実母及び実父母以外の者の占める割合が増加している。なかでも,保護者が実父母以外の者の占める割合が,54年に22.0%で,実父母を除いて最も高い比率を示している。

IV-15図 新収容者の保護者別構成比の推移

(3) 処遇の推移
ア 収容期間
 少年院送致の決定を受けた者の収容限度は,現行法制上20歳に達するまで(ただし,送致決定時から20歳に達するまでの期間が1年に満たない者については,送致決定時から1年間に限って収容を継続することができることとなっている。)の不定期のものである。

IV-16図 少年院出院者の平均収容期間の推移

 IV-16図は,少年院から退院又は仮退院によって出院した者の平均収容期間の推移を,昭和32年から54年まで見たものである。退院による出院者の平均収容期間は,仮退院による出院者のそれより51年までは短く,350日から400日の間で推移している。仮退院による出院者について見ると,ほぼ,中等,初等,特別,医療の順に長くなっているが,いずれも51年以降は急激に短くなっている。これは,仮退院後の保護観察と一貫性を保つことにより処遇効果を上げることが認識されたことによるものと思われる。
イ 教科教育
 在院中に中学校の課程を修了した者に対して,少年院長は,学校教育法により設置された中学校長が授与する卒業証書と同一の効力を有する証明書を発行することができることになっているが,少年院長の発行する卒業証明書よりも,出身中学校長又は最寄中学校長が授与する卒業証書を取得させることのほうが,本人の社会復帰上好ましいという考えから,実際には,これら中学校長の授与する卒業証書を可能な眼,り取得させるよう努めている。IV-55表は,この中学校卒業証書授与の状況について,昭和54年から54年までの推移を見たものである。出身中学校長から卒業証書を授与された者の全体に占める比率は逐年増加し,54年には97.8%(359人中351人)に達している。
ウ 職業補導
 IV-56表は,昭和40年から54年までに少年院を退院又は仮退院によって出院した者が在院中履修した職業補導種目の推移を,その構成比によって見たものである。農耕・園芸等を履修した者の比率が最も高く,近年更に上昇傾向にあり,54年では45.6%を占めている。また,洋裁・和裁等の主として女子少年を対象とした種目を履修した者の構成比が激減し,54年ではわずか0.8%となっている。なお,職業補導を履修しなかった者の占める比率が,52年から急増しているが,これは,短期処遇を実施する少年院からの出院者の増加と,少年院における処遇内容の特色化・多様化が推進され,処遇の個別化が図られたことなどの理由によるものと思われる。
 職業補導を受けた者のうち,職業訓練法に基づく一般の専修職業訓練校と同内容の職業訓練を履修した者には,昭和38年から,労働省職業訓練局長から職業訓練履修証明書が授与されることになったが,IV-57表は,43年から54年までの間にこの証明書を取得した人員の推移を見たものである。52年以降,取得人員及び履修種目数の減少が認められ,54年では,88人(木工26人,溶接23人,板金22人,電気工事17人)となっている。

IV-55表 中学校卒業証書取得状況

IV-56表 出院者の職業補導種目別構成比

IV-57表 職業訓練履修証明書取得人員

 次に,昭和34年から54年までの間に職業補導に関連した各種資格・免許の取得状況を示したのが,IV-58表である。1日平均収容人員に対する資格・免許取得総人員の占める比率は若干の増減はあるものの逐年増加しており,54年には48.1%になっている。種目別に見ると,溶接技術者(溶接技量検定を含む。)の増加が著しい。また,外部の事業所又は学識経験者等に委嘱して,少年院外で実習を受けさせる院外委嘱職業補導の制度が設けられているが,IV-59表は,この実施状況について,34年から54年までの推移を見たものである。40年から46年までは,補導人員の1日平均収容人員に占める比率が1割を超えているが,47年以降減少した後,51年から再び1割を超え,54年には14.8%と最高の比率となっている。

IV-58表資格・免許取得人員

エ 篤志面接等
 IV-60表は,篤志面接委員及び教晦師の活動状況について,昭和29年から54年までの推移を見たものである。篤志面接委員及び教海師の人員は,若干の増減を繰り返しながら推移し,54年では,篤志面接委員575人,教海師321人となっている。篤志面接委員の面接件数はおおむね逐年増加し,54年では8,784件となっているが,教海師の教海実施回数は横ばいで,54年で2,264回である。個々の在院者の持つ精神的な悩みや,家庭,職業,将来の生活設計等をめぐる諸問題について適切な助言指導を行うことは,生活指導の重要な領域の一つであり,これら民間篤志家による奉仕活動は,在院者の更生とその社会復帰に大きく寄与している。

IV-59表 院外委嘱職業補導実施状況(昭和34年〜54年)

IV-60表 少年院における篤志面接委員及び教海師の活動状況(昭和29年〜54年)

(4) 出院者の成行き
 昭和32年及び49年に全国の少年院を出院した者のその後3年間の成行き,並びに,少年院運営の改善が正式に実施された52年6月以降に新たに少年院に収容された者で,53年12月末日までに全国の少年院を出院した者のその後1年間の成行きについて,法務総合研究所で行った調査の結果は,IV-61表のとおりである。戦後,世相の混乱が続き,少年院も著しい過剰収容の状態にあった32年当時は,出院後3年間に出院者の54.1%の者が非行や犯罪を犯して,少年院,刑務所等の矯正施設に再収容されていたが,49年の出院者の再収容者は17.6%となっており,また,少年院運営改善後に出院した者については成行き調査の期間が1年であるが,その再収容率は8.7%にすぎない。

IV-61表 少年院出院者の成行き