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 昭和55年版 犯罪白書 第1編/第4章/第5節 

第5節 要約と展望

 欧米先進工業諸国の大都市が高い犯罪水準を示している原因については,各都市の社会的・経済的・文化的な諸要因,例えば,ニュ-ヨークに象徴されるアメリカの多民族都市の人種,失業,スラム,銃器,薬物濫用等の諸問題,欧州各都市の外国人労働者問題と過激派問題,西ベルリンの特殊な地政学的位置,パリ等の近代的大都市圏への開発過程の問題など,多様な要因が複雑に作用していると考えられる。これに対し,我が国の都市における犯罪発生率及び犯罪増加率が外国都市に比べて著しく低く,治安が良好な原因については,一般に言われているように,民族・言語・文化の同質性,家族・地域社会など社会集団の連帯性,経済の発展と所得水準の向上,各社会階層の中流化,教育の高い水準と機会均等,全般的な社会的安定性など,我が国の社会的,経済的,文化的特質が都市犯罪に対しても抑止要因として作用しているものと見られる。特に,我が国では,法執行機関に対する市民の信頼感・協力度が高いと言われており,この特質が都市警察の高い検挙率に寄与するとともに,警察を中心とする行政的な防犯活動の有効性にも影響を及ぼしていると思われる。しかし,欧米諸都市の犯罪動向にかんがみ,我が国の都市犯罪の動向についても,特に薬物濫用の流行を中心として,警戒を怠ることができないであろう。