1-90表は，各都市における犯罪発生件数と発生率(人口10万人当たりの発生件数)を，1978年における殺人，強盗，傷害，窃盗及び強姦の主要5罪種について示したものであり，併せて各国の全体的な数字をも表示した。
　この表から指摘できることは，第一に，都市の犯罪発生率の高さである。例えば，殺人及び強盗を見ると，ニュ-ヨークは，殺人の発生率が全アメリカの約2倍，強盗が約5倍，ロンドンは，殺人の発生率が全イギリス(ただし，イングランドとウェ-ルズ)の約2倍，強盗が約4倍，パリは，殺人の発生率が全フランスの約2倍，強盗が約9倍，西ベルリンは，殺人の発生率が全ドイツ連邦共和国の約1.6倍，強盗が約3倍，東京(特別区をいう。以下本章において同じ。)は，殺人の発生率が全日本の約1.3倍，強盗が約2.6倍である。このように，殺人・強盗という凶悪犯の発生率が，特に，欧米の都市においてそれぞれの国の平均発生率の約1.6倍ないし約9倍であるという高い数値は，犯罪現象全体に占める都市犯罪の重要性を示している。第二に，各都市の犯罪水準における顕著な較差である。例えば，ニュ-ヨークと東京を比べると，ニュ-ヨークは，殺人の発生率において東京の約10倍，強盗で約225倍，強姦で約14倍である。両都市は，人口においてほぼ同じ水準にある(ニューヨークは約750万人，東京は約830万人)ので，実数によって1日当たりの発生件数を見ると，ニューヨークでは殺人が1日に4件(東京0.4件)，強盗が203件(東京1件)，傷害が119件(東京10件)，窃盗が1,226件(東京431件)，強姦が11件(東京0.8件)発生している。また，ニュ-ヨークは，殺人の発生件数が全日本の発生件数の約8割，強盗では実に約38倍，強姦では約1.3倍という異常に高い数値を示している。欧州の都市も東京に比べるとかなり高い発生率を示しており，ロンドンは殺人において東京の約2倍，強盗で約21倍，パリは同じく殺人で約3倍，強盗で約109倍，西ベルリンは同じく殺人で約3倍，強盗で約27倍である。
　I-16図は，10都市のうち，ニューヨーク，シカゴ，ロサンゼルス，ロンドン，パリ，西ベルリン及び東京の7都市における主要5罪種の発生率について，1975年から1978年の4年間の推移を示したものである。特に，ロサンゼルスにおける強盗，傷害，強姦の激増状況が注目される。東京の犯罪水準は，各罪種のすべてにわたって，極めて低い(東京の犯罪動向については，第3節参照)。