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I-101表は,日本の3大都市である東京,横浜及び大阪における刑法犯総数(交通関係業過を除く,以下同じ。)及び主要5罪種の発生件数の昭和50年から53年の4年間の推移を示すものである。東京は人口が減少しつつあるのに凶悪犯の殺人・強盗がやや増加傾向にあること,横浜は逆に人口増加にもかかわらず殺人が横ばい,強盗が減少傾向にあること,大阪は人口の減少傾向と殺人・強盗の減少傾向がおおむね平行的な関係にあること,粗暴犯の傷害は,いずれの都市も減少ないし横ばいの傾向にあること,財産犯の窃盗は,東京と大阪が増加傾向にあるが,横浜は横ばい傾向にあること,性犯罪の強姦は,大阪が減少傾向を示しているのに対し,東京及び横浜は横ばい傾向にあることなどが指摘できる。
次に,東京の犯罪動向を更に詳しく見ることとする。I-102表は,東京における刑法犯総数及び主要5罪種の発生件数を昭和53年について,都心・城北・城東・城西・城南の5地域別に示したものであり,I-17図は,刑法犯総数及び主要5罪種ごとに5地域別の犯罪発生率について,50年から53年の4年間の推移を示したものである。この図及び表から,東京の犯罪状況には,かなりの地域差があることが分かる。都心(千代田,中央,港,新宿及び文京各区)は,刑法犯総数及び主要5罪種のすべてにおいて,各年とも犯罪発生率が最も高い。総数においては,都心に次いで発生率が高いのは,52年までは城東(台東,墨田,荒川,江東,江戸川及び葛飾各区)であったのが,53年には城北(豊島,北,板橋及び足立各区)が第2位になり,城東は第3位になった。続いて,城西(世田谷,渋谷,中野,杉並及び練馬各区),城南(品川,目黒及び大田各区)の順になっている。殺人及び強盗について見ると,都心が53年に特に強盗が増加していること,城北が殺人において51年以降,強盗において53年にそれぞれ増加していること,強姦については,城西が52年から増加していることなどが注目される。傷害は,全地域とも減少傾向を示している。窃盗は,城北,城西及び城南における急増傾向が顕著である。なお,窃盗のうち乗物盗の占める比率は,53年において,城北の44.2%から都心の19.8%まで,かなりの地域差を示している。 I-101表 日本の三大都市の主要犯罪発生件数 I-102表 東京(特別区)の刑法犯主要罪名・地域別発生状況 また,各地域のうち,主要警察署管内の犯罪発生件数を見ると,同表のとおり,特に,新宿署管内の発生件数が相対的に高い比率を占めており,昭和53年において,都心地域を管轄する22警察署のうち,1署だけで同地域内の刑法犯総数の20.7%,殺人の38.5%,強盗の36.8%,傷害の21.9%,窃盗の21.1%,強姦の32.0%を占めている。以上のような都市犯罪の状況が,最近における大都市圏化傾向,特に都市人口の減少傾向と周辺部人口の増加傾向に対してどのような関連があるかを見るため,東京都及び周辺3県の犯罪状況(刑法犯総数の発生率)の推移を昭和44年から53年の10年間について見たのが,I-18図である(都市人口の減少傾向は東京特別区で強いが,都全体でもほぼ同様である。)。東京都の人口は,51年の1,137万人をピークとしてやや減少傾向にあり,44年の人口に対して53年は3.4%増加しているにすぎないが,周辺3県の人口は,この10年間,一貫して増加を続けており,44年を基準とすると,53年には,神奈川県は29.9%,埼玉県は43.3%,千葉県は41.8%それぞれ増加している。これに対し,刑法犯発生件数は,53年において,同じ基準で東京都は11.2%,埼玉県は21.6%,千葉県は26.6%増加し,神奈川県は逆に2.9%減少している。したがって,発生率で見ると,図のように,神奈川県における53年の上昇など若干の起伏はあるが,全般的には,各県とも下降傾向を示しているのに対し,東京都の発生率は,高い水準を維持しつつ,人口の減少傾向の始まった52年以降,急上昇を示している。大都市圏化による人口の周辺部拡大現象は,住宅問題,都市への通勤・通学時間等の社会的要因に制約されるので,この図は,この傾向と犯罪動向との関連を正確に示すものではもちろんないが,概して言えば,犯罪発生率で見る限り,東京都圏においては,犯罪の周辺部拡大現象は,必ずしも明瞭には現れていないように見える。発生件数で見ても,前記のように,埼玉県及び千葉県では刑法犯総数の増加傾向が顕著に見られるが,それは主として窃盗の増加に起因している。殺人については,埼玉県で44年の64件から53年の82件へ,千葉県で同じく46件から64件へ増加しているが,強盗,傷害及び強姦は,全般的には減少傾向を示している(例えば,強盗は,埼玉県において,同じく142件から74件へ,千葉県において98件から50件へ。)。むしろ,前記のような東京の犯罪状況,特に,新宿のようなターミナル駅を中心とする大消費・享楽センターを管轄する警察署管内の犯罪状況等を見ると,都市と周辺部をつなぐ交通網の発達,モータリゼーション,都市文化の拡散等によって,周辺部人口を含めた大都市圏人口による都市犯罪への集中化現象が生じているようにも思われる。 I-17図 東京(特別区)の主要犯罪の地域別発生率の推移 I-18図 東京都及び周辺3県の刑法犯発生率の推移 |