前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 昭和55年版 犯罪白書 第1編/第2章/第1節/4 

4 覚せい剤濫用の危険性

 覚せい剤の濫用が,自信過剰,攻撃性,注意力の欠乏,いらだち等の徴候をもたらし,犯罪や事故に結び付き易いこと,関係・被害妄想,幻覚・幻聴などの妄想型精神分裂病と同様の症状を起こし易いこと,使用中止によって陥る抑うつ状態のもとて自殺の危険があること等の危険な薬理作用を有することは,一般に承認されている。覚せい剤が反社会的な行動や妄想・幻覚による異常行動によって暴力犯罪や重大犯罪を誘発させ易いという点で,社会的危険性においてはむしろヘロインよりも危険とされているのは,覚せい剤のこのような薬理作用によるものである。また,覚せい剤は,その密輸・密売等の不法取引に関連してさまざまな社会的害悪を生み出している。不法流通する高価な覚せい剤の入手資金を得るための犯罪や経済的・家庭的な崩壊,取引による巨額な不法利得を独占的に資金源とする暴力組織,あるいは営利目的や債務返済のために密輸事犯を犯す個人など,覚せい剤は,今や我が国の犯罪現象全体に大きな影響を及ぼしている。昭和54年における覚せい剤関連犯罪の検挙人員は,I-40表のとおり,総数で791人(前年770人,以下同じ),うち薬理作用によるものが478人(469人)であり,特に,殺人25人(15人),強盗8人(4人),強姦28人(11人),放火16人(15人)など覚せい剤の薬理作用による重大犯罪が前年より増加している。また,死亡人員は54年において,自殺8人(11人),中毒死7人(3人),その他の事故死10人(5人)の計25人(19人)で,自傷は32人(16人)である(警察庁調べ)。この種の犯罪や事故は,濫用者が自ら一種の精神異常に陥り,その異常状態のもとで犯されるという点で,社会と個人の安全に対する危険が極めて大きいと言わなければならない。

I-40表 覚せい剤に関連する各種犯罪検挙人員