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 昭和54年版 犯罪白書 第4編/第2章/第2節/2 

2 暴力団関係受刑者の実態

 まず,最近の暴力団関係受刑者について,犯罪態様の特徴から見ることとする。IV-15表は,昭和41年,46年及び最近3年間の暴力団関係新受刑者について,暴力団に関連すると思われる主要な犯罪を選んで,その構成比を見たものである。53年におけるその構成比が最も高いのは,麻薬・覚せい剤犯罪の30.5%であり,その大部分は覚せい剤取締法違反によるものである。41年以降の推移を見ても,覚せい剤取締法違反の占める比率の増加が顕著であるが,恐喝及び窃盗の占める比率は減少傾向を示している。
 次に,法務総合研究所が昭和53年1月に行った調査によって,暴力団関係受刑者の犯罪反復の態様及び諸特性を見ることとする。
 この調査は,昭和51年に全国のB級系統受刑者収容施設に収容された新受刑者から無作為に抽出した1,001人を対象としている。この中には,暴力団加入歴のある者390人(39.0%),暴力団加入歴のない者606人(60.5%),暴力団加入歴について不明の者5人(0.5%)が含まれている。なお,暴カ団加入歴のある者の中には,調査時点で暴力団から離脱している者108人が含まれている。

IV-15表 暴力団関係新受刑者の罪種・罪名別構成比(昭和41年,46年,51年〜53年)

 IV-16表は,この調査の対象となった暴力団関係受刑者(以下本節で「暴力団関係者」という。)の刑期について,暴力団から離脱している者(以下本節で「離脱者」という。)及び暴力団加入歴のない者(以下本節で「加入歴のない者」という。)との対比を示すものである。暴力団関係者の場合,刑期5年以下の者の占める比率は88.0%であるのに対して,離脱者の場合は93.4%,加入歴のない者の場合は92.4%となっているが,刑期5年を超え10年以下では,暴力団関係者の占める率がほぼ2倍程度に高くなっている。

IV-16表 暴力団関係受刑者等の刑期別構成比

IV-17表 暴力団関係受刑者等の犯罪反復の状況別構成比

IV-18表 暴力団関係受刑者等の諸特性

 IV-17表は,これら三者の対比において,刑法上の累犯・非累犯別,入所度数別及び再犯期間別の態様を見たものである。刑法上の累犯・非累犯別では,暴力団関係者の累犯の比率が他二者より低くなっているが,暴力団関係者の幹部と組員との間の比較では,幹部の方が累犯の比率が高くなっている。入所度数別では,入所度数が増加するにつれて,暴力団関係者の構成比が規則正しく減少する傾向が見られるのに対し,離脱者及び加入歴のない者は,入所度数が増加するにつれて,若干の例外はあるが,おおむね,その構成比が増加する傾向にあるように見える。また,再犯期間では,暴力団関係者は,3月未満で再犯する者の比率は極めて低いが,5年未満の全体で見ると,この期間内に再犯する者の比率が高くなっている。
 IV-18表は,暴力団関係者の諸特性を,離脱者及び加入歴のない者との対比において見たものである。年齢については,暴力団関係者の40歳以上の構成比が10.0%で,離脱者(18.5%)及び加入歴のない者(23.2%)に比べて著しく低くなっている。特に,50歳以上の暴力団幹部は,本調査では皆無であった。知能検査の結果では,知能指数69以下の者の占める比率は,暴力団関係者の場合は,他二者に比べて低く,普通域(知能指数90〜109)の範囲では,暴力団関係者は42.6%と離脱者の38.0%,加入歴のない者の31.5%に比べて高い。入所以前の生活程度では,全体的に暴力団関係者の方が生活程度は高いが,生活程度が下に属する者の中で生活保護を受けている者の比率が,暴力団関係者に2.5%含まれており,加入歴のない者についての2.3%より高くなっていることが注目される。入所前の職業については,暴力団関係者の場合無職の比率が50.0%を占め,離脱者の場合の38.9%及び加入歴のない者の場合の45.0%よりも高くなっている。再入した者についての前刑時の行刑成績の対比では,総体的に暴力団関係者の成績が良くない。行刑成績が良好及びやや良好である者の比率は,暴力団関係者では17.8%を占めるにすぎないが,離脱者では25.3%,加入歴のない者では42.8%を占めている。逆に,行刑成績が不良及びやや不良の者の比率は,暴力団関係者では39.1%を占めるのに対し,離脱者では27.5%,加入歴のない者では19.1%となっている。
 以上のことから,加入歴のない者との対比において暴力団関係者の特徴として次のことが言える。まず,刑期の点では,刑期5年以下の者の占める率が低く,刑期5年を超え10年以下の者の占める率が高い。刑法上の累犯・非累犯別では,累犯の占める率が低く,入所度数別では,入所度数が増加するに従い,逆にその中に占める率が低くなっている。また,年齢については,相対的に若く,知能指数の普通域の者が多く,入所前の生活では,無職の率が高く,しかも生活程度は概して高い。前刑時の行刑成績は相対的に不良である。より端的に言えば,暴力団関係者は,加入歴のない者に比べて,年齢的により若く,知能指数が高く,社会にあっては正業に就かず非合法の機会構造の中で生活し,所内生活でも成績不良の者が多い。