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 昭和54年版 犯罪白書 第4編/第1章/第2節/2 

2 覚せい剤の密輸・密売

 近年,覚せい剤の供給源はほとんど国外に移ったと言われている。覚せい剤事犯の第一の流行期であった昭和28年から30年までにおける製造事犯による検察庁新規受理人員は,それぞれ616人,1,045人及び803人であり,一方,輸入事犯に関する当時の統計資料は見当たらず,これらのことから,当時の覚せい剤供給源は,ほとんど国内にあったと思われるのであるが,最近においては,例えば,52年及び53年においては,製造事犯にかかる検察庁への送致人員が9人及び5人と激減し,他方,輸入事犯については56人及び101人が計上されているのであって,これらのことから,供給源がほとんど国外に移っていると推定されるのである。
 覚せい剤が国外から密輸入される場合には,外国の暴力団がその配下の運び屋を使用して我が国に搬入し,我が国の暴力団に譲渡する方式と,逆に我が国の暴力団が外国で覚せい剤を買い付け,これを直接暴力団員が我が国に搬入するか,あるいは観光旅行者等を運び屋に仕立てて搬入させる方式などがあり,いずれにしても,密輸入については暴力団が関与している事例が圧倒的に多い。また,近時の不況下で経営不振に苦しむ中小企業者等が,起死回生をはかって覚せい剤の密輸入を敢行する事例も見られる。しかし,この場合でも,覚せい剤を我が国で密売するには,結局,暴力団に依存しなければならないことが多く,その利益の大部分を暴力団に吸い上げられてしまうことが多いとされている。
 このように,暴力団は,覚せい剤の密輸入のみならず,組織をあげてその密売ルートをも支配し,密売に深く関与していると見られる。しかし,その手口が潜在化・巧妙化するに至ったためと思われるが,昭和49年以前は,覚せい剤事犯の検挙者中暴力団員の占める比率は60%以上であったものが,50年に60%を割って以後も次第にその比率が下降し,昭和53年においては52%となっている。いずれにしても,暴力団が覚せい剤事犯による収益を組織の有力な資金源としていることは明らかであり,警察庁の資料によれば,53年における暴力団員約10万8,000人の総収入は約1兆円で,このうち覚せい剤による収入が約4,600億円と推計されている。