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 昭和54年版 犯罪白書 第3編/第2章/第5節/2 

2 少年の保護観察

 ここでは,保護観察処分少年及び少年院仮退院者に対する保護観察について述べる。
  (1)概  況
 昭和44年以降における保護観察処分少年及び少年院仮退院者の年間受理人員は,III-80表のとおりである。保護観察処分少年は,49年まで減少していたが,その後50年から逐年増加し,53年には4万4,934人となっている。少年院仮退院者も減少傾向にあったが,保護観察処分少年より一年遅れて,51年から増加に転じ,53年は3,066人となっている。これらの少年について,非行の種類を,業過及び道路交通法違反(本節では,両者を併せたものを「交通犯罪」という。),業過を除く刑法犯,道路交通法違反を除く特別法犯及び虞犯の4種に大別して,49年以降の受理人員の推移を見ると,III-81表のとおりである。49年を100とする指数で見ると,最も増加傾向の著しいのは,保護観察処分少年・少年院仮退院者の両者を通じて,道路交通法違反を除く特別法犯であり,交通犯罪がこれに次ぐ。ただし,52,53年の保護観察処分少年の交通犯罪には,交通短期保護観察処分少年の1万2,452人,2万3,963人がそれぞれ含まれており,これを除くと,52年は1万1,942人,53年は9,872人であって,53年は49年よりも減少している。これは,52年4月から発足した交通短期保護観察がその後着実に成果をあげているので,家庭裁判所は,従来ならば通常の保護観察処分に付したような交通犯罪少年に対しても,短期の保護観察相当の旨の処遇勧告を付した保護観察の処分を行うことになったものと思われる。

III-79表 不定期刑仮出獄者及び定期刑仮出獄者の刑期・刑の執行率別人員構成比(昭和53年)

III-80表 保護観察処分少年及び少年院仮退院者の受理人員(昭和44年〜53年)

III-81表 非行の種類別受理人員(昭和49年〜53年)

III-82表 非行の態様等による類型別保護観察対象者の人員(昭和51年8月,52年4月,53年6月,54年4月)

 保護観察対象者のうち,暴力団関係者,暴走族成員,シンナー等濫用者,精神障害者等の処遇は容易でないとされている。法務省保護局の最近の調査によると,最近4年間におけるこの種の保護観察処分少年及び少年院仮退院者は,III-82表のとおりである。各調査時点の保護観察処分少年総数,少年院仮退院者総数を100とする比率によって見ると,暴力団関係者の比率は,保護観察処分少年においては,0.6ないし0.7%と横ばいであるが,少年院仮退院者の場合,若干の起伏を示しながら54年4月末には2.6%となっている。精神障害者の比率は,保護観察処分少年・少年院仮退院者のいずれにおいても減少の傾向が認められる。保護観察処分少年と少年院仮退院者の両者を通じて比率の増加の傾向が認められるのは,暴走族成員とシンナー等濫用者であるが,特に,シンナー等濫用者の比率は高く,54年4月にあっては,保護観察処分少年の8人に1人弱,少年院仮退院者の6人に1人弱の割合となっており,シンナー等濫用者に対する処遇は,少年の保護観察にとって大きな問題となっている。
  (2)保護観察の終了
 昭和44年以降の10年間に保護観察を終了した保護観察処分少年(交通短期保護観察処分少年を除く。)及び少年院仮退院者の終了事由別人員の構成比を見ると,III-83表及びIII-84表のとおりである。終了者総数のうち,再非行等により保護処分を取り消された者の割合は,保護観察処分少年の場合,49年までは減少していたが,50年以降上昇に転じており,少年院仮退院者の場合も,若干の起伏はあるものの,同様の傾向を示している。ただ,少年院仮退院者については,53年の取消率は前年の18.7%よりやや低くなっている。一方,満期又は満齢に達する以前に,社会の順良な一員として更生したと認められたときは,保護観察処分少年にあっては保護観察を解除され,少年院仮退院者にあっては退院の許可決定により保護観察を終了する。解除による終了者の割合を見ると,52年までは逐年増加していたが,53年は前年よりやや減少して60.8%となっている。退院による終了者の割合は,49年まではせいぜい3%台でしかなかったが,その後急速に増加し,53年には16.3%に達している。
 III-85表は,昭和53年に保護観察を終了した少年院仮退院者について,出院した少年院の処遇区分別に終了事由別の人員構成比を見たものである。保護処分取消しによる終了者の割合は,長期処遇少年院の仮退院者に最も多く,一般短期処遇少年院の仮退院者がこれに次いでいるが,退院による終了者の割合は,交通短期処遇少年院の仮退院者が49.7%で最も高く,長期処遇少年院仮退院者の9.1%が最も低い。
 最近5年間に解除又は退院によって保護観察を終了した者について,実施された保護観察期間の区分別の構成比を見ると,III-86表及びIII-87表に示すとおりである。解除による終了者のうち,保護観察実施期間の6月以内及び6月を超え1年以内の者の割合は,53年はやや減少したものの,51年以降増加の傾向にある。退院による終了者も同様の傾向を示している。
 昭和53年に退院によって保護観察を終了した者について,出院した少年院の処遇区分別に実施した保護観察期間の区分別の分布を見ると,III-88表のとおりである。保護観察期間6月以内の者は,長期処遇少年院仮退院者の場合は0.5%であるが,一般短期処遇少年院仮退院者は24.2%,交通短期処遇少年院仮退院者は36.4%となっている。また,保護観察期間1年以内で退院を許される者は,交通短期処遇少年院仮退院者で94.8%,一般短期処遇少年院仮退院者で84.9%であるのに対し,長期処遇少年院仮退院者にあっては,18.7%にすぎない。

III-83表 保護観察処分少年の保護観察終了事由別人員構成比(昭和44年〜53年)

III-84表 少年院仮退院者の保護観察終了事由別人員構成比(昭和44年〜53年)

III-85表 少年院の処遇別少年院仮退院者の終了事由別人員構成比(昭和53年)

III-86表 解除による終了者の保護観察実施期間別人員構成比(昭和49年〜53年)

III-87表 退院による終了者の保護観察実施期間別人員構成比(昭和49年〜53年)

III-88表 退院による終了者の少年院の処遇別保護観察実施期間別人員分布(昭和53年)

  (3)交通短期保護観察
 交通犯罪で保護観察処分に付された少年に対しては,従来,個別処遇にあわせて,講習会や座談会などの集団処遇が実施されていたが,この方法による保護観察の実施を受けた者の場合,比較的短期間に保護観察を解除される者の割合が逐年増加した。そこで,法務省と最高裁判所家庭局との協議の結果,交通犯罪で保護観察処分の決定を受けた少年のうち,短期の保護観察が相当である旨の家庭裁判所の処遇勧告が付された者については,保護観察官が集団処遇を中心とする特別の処遇を集中的に実施し,特段の事情のない限り,3,4箇月で保護観察を解除する交通短期保護観察制度が昭和52年4月1日から実施された。同年4月から12月までに全国の保護観察所が受理した交通短期保護観察処分少年は1万2,452人,53年の受理人員は2万3,963人である。53年2月20日から同月28日までの間に交通短期保護観察の処遇勧告を付されて保護観察所に出頭した731人について,非行名,犯罪処分歴,行政処分歴別の構成比を見ると,III-89表からIII-91表までのとおりである。非行名別では,道路交通法違反が76.3%で最も多く,業務上過失致傷の23.3%がこれに次いでいる。犯罪による処分歴を見ると,交通犯罪以外の罪によって何らかの処分を受けた者は10.2%にすぎず,83.2%の者は処分歴がない。他方,交通犯罪によって処分を受けたことのある者は47.3%,処分を受けたことのない者は46.9%である。また,行政処分歴を見ると,運転免許を停止された者が59.1%で最も多く,行政処分歴のある者は74.7%となっている。総じて,車両運転には問題があるが,その他の点で犯罪傾向のある者は少ないと言えよう。

III-89表 交通短期保護観察処分少年の非行名別人員構成比(昭和53年2月20日〜28日)

III-90表 交通短期保護観察処分少年の犯罪による処分歴別人員構成比(昭和53年2月20日〜28日)

III-91表 交通短期保護観察処分少年の行政処分歴別人員構成比(昭和53年2月20日〜28日)

 交通短期保護観察処分少年に対しては,安全運転に関する研修討議を主とする集団処遇に参加させ,かつ,毎月1回,生活状況を報告させることとしている。保護観察開始後3,4箇月を経過して,その間に車両運転による再犯がなく,集団処遇に出席し,生活状況の報告を行い,かつ,本人の更生上特段の支障がなければ,保護観察を解除する。保護観察を解除できない場合は,更に集団処遇への参加・生活状況の報告を促し,できる限り保護観察開始後6月以内に保護観察を解除することとされている。ただし,保護観察開始後6箇月を超えてもなお解除できる見通しのたたない者については,当該処分をした家庭裁判所の意見をきいて交通事件で一般の保護観察処分に付された者と同様に処遇する。III-92表は,交通短期保護観察処分少年に対する集団処遇の実施状況を見たものである。また,保護観察を解除された交通短期保護観察処分少年について,保護観察実施期間別の人員構成比は,III-93表に見るとおり,4箇月以内で解除される者が93.4%となっている。

III-92表 交通短期保護観察処分少年に対する集団処遇実施状況(昭和52年,53年)

III-93表 解除された交通短期保護観察処分少年の保護観察実施期間別人員構成比(昭和52年,53年)