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 昭和54年版 犯罪白書 第2編/第3章/第2節/3 

3 保護観察における処遇

  (1)保護観察への導入
 保護観察に付された者は,直ちに保護観察所に出頭し,保護観察官によ面接が行われる。本人の資質・環境等についての調査,遵守事項の説示,担当保護司の選定,処遇計画の策定等が当初の面接時に行われる。この際,保護観察への円滑な導入とその後の効果的な実施を期して,好ましい人間関係設定に特に注意が払われている。
  (2)指導と援助
 保護観察における処遇を効果的に行うため,交通事件等一部の者を除き,保護観察に付された者を処遇の難易に応じてAとBの二段階に分類するが,処遇が困難であると予測されるA分類の者に対しては,保護観察官による計画的・積極的な処遇を行うという分類処遇が実施されている。昭和53年未現在における分類状況は,II-64表のとおりである。Aに分類された者は,保護観察処分少年では9.6%,少年院仮退院者では33.4%,仮出獄者では8.9%,保護観察付執行猶予者では5.8%であって,少年院仮退院者においてその比率が最も高いが,成人を主とする仮出獄者及び保護観察付執行猶予者での比率は低い。

II-64表 保護観察分類処遇実施人員(昭和53年末現在)

II-65表 保護観察官の定期駐在における面接実施人員(昭和53年)

 保護観察は,原則的には個別処遇が中心となっており,対象者に更生上の問題点を自覚させ,自ら問題を解決させることを目的とする個別面接に重点が置かれている。また,家族,雇主等関係者の理解と協力を得るための面接にも力がそそがれている。保護観察官は,開始時に面接した後も必要に応じ面接を行っており,往訪のほか,保護観察所,その支部又は駐在官事務所に呼び出して面接を行うほか,定期的に一定の場所に駐在する場合の面接も積極的に行っている。II-65表は,昭和53年における定期駐在での面接状況を見たものである。定期駐在の実施回数は6,001回で,対象者2万5,195人,家族,雇主等関係者6,142人に面接して指導や助言に当たり,また,処遇に関する協議のため1万6,901人の保護司と面接を行っている。保護観察においては,対象者と処遇に当たる者との緊密で継続的な接触が必要であるが,特に,保護司は,その地域性,民間性を生かして積極的に接触し,活発な処遇活動を行っている。
 なお,交通事件により保護観察に付された者やシンナー等の薬物を濫用する者など特別な者に対しては,個別処遇に加えて集団処遇が行われている。

II-66表 保護観察対象者に対する一時保護の実施人員(昭和53年)

II-67表 保護観察対象者に対する継続保護の実施人員(昭和53年)

 保護観察では,住居や職業がない等のため対象者の更生が妨げられるおそれがある場合に,特別な援助の措置をとっている。これには,食事,衣料の給与,医療の援助等の一時保護のほか,更生保護会の保護施設に収容して継続的に食事付宿泊等を供与する継続保護の措置がある。昭和53年におけるこれらの援助の措置の実施状況は,II-66表及びII-67表のとおりであり,一時保護は1,410人に対し行われたが,衣料の給与が最も多く,食事の給与がこれに次いでおり,継続保護は5,426人に対して行われている。これらの措置を受けた者を保護観察の種類別に見ると,仮出獄者の占める比率が高く,一時保護で802人(56.9%),継続保護で4,380人(80.7%)となっており,仮出獄者2万708人中の25.0%が一時保護又は継続保護の措置を受けている。
 (3)成績良好者に対する措置
 保護観察の結果,行状が安定し,更生意欲が強く,再犯のおそれもないと認められる者に対しては,保護観察の期間中であっても,保護観察を中止し,又は終了する措置(以下「良好措置」という。)がとられる。保護観察対象者の種類によってその措置は異なり,保護観察処分少年については,保護観察を終了する解除又は保護観察を一時停止する良好停止があり,少年院仮退院者については,仮退院期間を短縮して終了する退院があり,仮出獄者については,不定期刑に処せられている者について仮出獄期間を短縮して終了する不定期刑の終了があり,保護観察付執行猶予者については,保護観察を仮に解除する仮解除がある。
 II-68表は,昭和53年における良好停止を除いた良好措置の状況を見たものである。

II-68表 保護観察における良好措置の実施人員(昭和52年,53年)

 保護観察処分少年で解除を受けた者が3万4,811人,少年院仮退院者で退院の措置を受けた者が445人,仮出獄者で不定期刑の終了の措置を受けた者が9人,保護観察付執行猶予者で仮解除を受けた者が1,523人となっている。保護観察処分少年における解除が著しく多いが,これは,解除される比率が極めて高い交通短期保護観察の対象が増加したことによっている。良好措置を受けた者は,仮出獄者の不定期刑の終了を除いてはいずれも前年に比べて増加しており,解除で1万1,294人,退院で234人,仮解除で105人増加している。特に解除及び退院については,前者が48.0%,後者は110.9%の増加を見せている。
  (4)成績不良者に対する措置
 保護観察に付されている者が,指導監督に服さず,更生意欲に欠け,行状が不安定であるような場合には,保護観察所に呼び出して事情を聴取し,助言,説示を行うなどの措置をとり,また,一定の住居に居住しない場合,遵守事項に違反した疑いがあって呼出しに応じない場合などには,引致を行い,更に,必要に応じて,一定の期間所定の施設に留置するなどの措置がとられる。昭和53年において,引致された者は198人,留量された者は100人である。
 保護観察に付されている者が,保護観察の期間中守るべき遵守事項に違反した場合,現に再犯に陥った場合などには,これに対する措置(以下「不良措置」という。)がとられる。不良措置は,良好措置と同様,保護観察対象者の種類によって異なり,保護観察処分少年については,新たな処分を期待して家庭裁判所に通告する措置があり,少年院仮退院者については,少年院に再収容する戻し収容の措置があり,仮出獄者については,所在が明らかになるまで刑期の進行を止める保護観察の停止又は施設に再収容する仮出獄の取消しの措置があり,保護観察付執行猶予者については,矯正施設に収容して刑を執行する執行猶予の取消しの措置がある。
 II-69表は,昭和53年における不良措置(家庭裁判所への通告を除く。)の状況を見たものである。少年院仮退院者で戻し収容された者が27人,仮出獄者で保護観察を停止された者が888人,仮出獄を取り消された者が779人,保護観察付執行猶予者で遵守事項違反により執行猶予を取り消された者が91人であり,前年に比べて,仮出獄の取消しを除いていずれも若干増加している。

II-69表 保護観察における不良措置の実施人員(昭和52年,53年)

II-70表 保護観察対象者の所在不明率(昭和52年,53年各12月31日現在)

 保護観察を離脱し,行状が不良な状態にあると見られるものに,所在不明がある。所在不明者は,指導監督及び補導援護を行うことができず,再犯に陥る危険性が高いものといえる。昭和53年末現在における交通短期保護観察の者を除いた所在不明者は,II-70表のとおり,4,330人である。保護観察中の人員に占める所在不明率は,保護観察処分少年が最も低く2.8%で,次いで,少年院仮退院者が7.6%,保護観察付執行猶予者が7.9%,仮出獄者が20.9%となっている。仮出獄者の所在不明率が他に比べて著しく高いのは,仮出獄者が所在不明になると保護観察が停止されて刑期の進行が止まり,時効が完成するまで保護観察が終結しないため所在不明者数が累積されていくことによるものである。前年に比べて,保護観察処分少年及び保護観察付執行猶予者で若干減少し,少年院仮退院者及び仮出獄者でやや増加している。