前の項目 次の項目 目次 図表目次 年版選択 | |
|
1 概 況 確定裁判を受けた者の裁判結果を最近5年間について見ると,II-11表のとおりである。昭和52年まで増加を続けていた確定裁判を受けた者の総数は,53年に至って前年より13万4,619人減少して250万8,147人となっているが,これは,例年,全体の約96%を占める罰金の減少に伴うものであり,有期懲役及び科料は,依然として増加している。58年における死刑は4人,無期懲役は36人で,例年に比べて特に顕著な変動はなく,無罪も全体の0.01%の223人にとどまった。ただし,近年においては,有期懲役・禁錮の約30%,罰金の約95%及び科料の約90%は,業過及び道路交通法違反によって占められており,この両者を除けば,毎年の裁判確定人員は,およそ20万人程度である。
II-11表全事件裁判確定人員(昭和49年〜53年) II-12表 罪名別地方裁判所終局処理人員(昭和52年) 第一審の裁判手続には,略式命令,即決裁判の3種類がある。略式命令及び既決裁判は,簡易裁判所が裁判手続で,20万円以下の罰金又は科料を科すことができるにすぎないが,近年における罰金及び科料の裁判のほとんど全部はこの手続によるものであって,通常第一審,すなわち正式裁判による処理人員は,例年,およそ7万人ないし8万人にとどまっている。昭和52年において地方裁判所及び簡易裁判所が正式裁判によって処理した結果を罪名別に見ると,II-12表及びII-13表のとおりである。地方裁判所における終局処理人員総数は6万3,176人で,その罪名別構成では,業過(1万216人)が最も多く,覚せい剤取締法違反(9,548人),道交違反(8,178人)などがこれに続いている。死刑は,殺人及び強盗(強盗致死傷を含む。)で言い渡され,無期懲役は,これらの両罪名及び放火で言い渡されている。執行猶予率は,公職選挙法違反(98.6%),競馬法違反(85.9%)などで高く,強盗(19.6%),窃盗(28.8%)などで低い。保護観察に付された者の実数が多いのは,覚せい剤取締法違反(1,121人),道交違反(964人)などである。無罪率は,平均0.2%であるが,罪名別に見ると,公職選挙法違反(1.3%)及び殺人(0.8%)がやや高くなっている。簡易裁判所について見ると,懲役言渡人員1万4,440人の93.6%は窃盗であり,罰金言渡人員2,973人の58.3%は業過及び通交違反である。無罪率は,全体として0.5%と地方裁判所よりは高く,特に,業過では5.5%,道交違反では2.2%となっている。 なお,昭和52年の家庭裁判所における懲役言渡人員は336人で,その大部分は児童福祉法違反によるものであり,罰金言渡人員は194人で,その大半は労働基準法違反によるものである。 II-13表 罪名別簡易裁判所終局処理人員(昭和52年) 昭和52年における地方裁判所の裁判に対する控訴率を見ると,全体としては12.1%であり,罪名別では,強盗致死傷(35.5%),殺人(25.9%),収賄(23.8%)などが高く,外国人登録法違反(0.8%),大麻取締法違反(4.9%),自転車競技法違反(5.6%)などが低い。同年における簡易裁判所の裁判に対する控訴率を見ると,全体として4.5%と地方裁判所より格段に低く,業過(12.7%),公職選挙法違反(11.3%),道路交通法違反(9.5%)などが高い部類に属している。なお,常習累犯窃盗等を除いた通常の窃盗は,52年において,その80%以上が簡易裁判所において処理されているが,その控訴率は,簡易裁判所で2.9%,地方裁判所で8.8%と約3倍の開きを示している。II‐14表 罪名別控訴審終局処理人員 II-14表は,昭和52年中に控訴審,すなわち高等裁判所が処理した結果を罪名別に見たものである。終局人員総数は8,567人で,そのうち13.7%は控訴人により控訴が取り下げられて終局し,62.0%は第一審の裁判が維持されて控訴が棄却され,23.5%は原判決が破棄されて改めて裁判が言い渡され(破棄自判),0.6%は原判決が破棄されて更に審理を尽くすべく第一審差し戻されている。これを罪名別に見ると,取下げは窃盗に多く(23.7%),一方,破棄自判は詐欺(32.7%)及び過失傷害(34.6%)に多く,覚せい剤取締法違反(11.7%)及び道路交通法違反(10.3%)において少ない。破棄自判で無罪となる比率は,全体では0.5%であるが,傷害(1.2%),過失傷害(0.8%)などでは,やや高くなっている。昭和52年における控訴審の裁判に対する上告率を見ると,全体では36.9%と控訴率に比べて著しく高くなっており,罪名別では,公職選挙法違反(62.0%),賭博・富くじ(59.6%)などが高く,窃盗(23.4%),強盗(23.5%)などが低くなっている。 昭和52年中に上告審,すなわち最高裁判所が処理した人員の総数は2,690人であり,そのうち13.9%は上告が取り下げられ,84.8%は上告が棄却され,1.0%は原判決が破棄されている。上告審に至って無罪となったものは2人であり,総数の0.07%にあたる。 昭和52年における地方裁判所の裁判結果によって有期懲役・禁錮の罪名別刑期を見ると,II-15表のとおりである。全体の55.7%は刑期1年未満のものが占めており,刑期が3年を超えるものはわずか4.4%である。刑期が10年を超えるものの罪名は,殺人,強盗致死傷,強姦致死傷,放火及び覚せい剤取締法違反であり,刑期が5年を超えるものの比率が高い罪名は,殺人(86.7%),強盗致死傷(41.6%)などである。強盗・同致死傷,放火などで法定刑の下限を下回る刑期のものが少なくないことは,未遂減軽,酌量減軽等が適用されることの多いことを示している。また,刑期1年未満のものの比率が高い罪名は,道交違反(99.3%),公職選挙法違反(81.5%),賭博・富くじ(73.8%)などであり,窃盗(21.1%),恐喝(24.1%)などでは低くなっている。 なお,簡易裁判所は,法律上刑期3年を超える懲役を科すことができないので,その裁判を合算すれば,短期刑の占める比率は一層上がることになる。 次に,昭和52年における略式命令等を含めた第一審裁判の結果により罰金の罪名別金額を見ると,II-16表のとおりである。総数では,10万円以上のものは2.2%にすぎず,92.3%は5万円未満である。10万円以上の比率が高い罪名は,賭博・富くじ(22.1%),業過(16.3%)などであり,100万円以上の罰金の約9割は,各種税法違反に対するものである。 II-15表 罪名別・刑期別地方裁判所有期懲役・禁錮言渡人員(昭和52年) II-16表 罪名別・金額別第一審罰金言渡人員(昭和52年) |