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 昭和54年版 犯罪白書 第1編/第3章/第2節/2 

2 フランス

  (1)前科者
 フランスでは,法律上,犯罪を重罪(crime),軽罪(delit)及び違警罪(contravention)の3種に分類しているが,違警罪については,そのうちの第5類(刑法施行令40条その他に規定されており,加療8日以下の傷害など,軽罪に準ずる罪質を有するものをいう。)を除くその他のものは,犯罪の動向を見るうえで重要性がないとされ,一般的にこのその他の違警罪は除外して論じられているので,ここでもそれに従い,重罪,軽罪及び違警罪中の第5類を対象として,1973年における有罪人員中の前科者(犯罪記録になんらかの有罪の記載のある者をいう。)率を罪名別に見ると,I-54表のとおりである。
 なお,入手し得た統計としては1975年分が最新のものであるが,1974年に広く恩赦が施行されたため,同年以降の有罪人員及び前科者率に関する統計は,1973年以前と著しく様相を異にしており,犯罪動向の実相を見るのに適していないと思われるので,やむを得ず,1973年についてその前科者率等を見ることとしたものである。

I-54表 有罪人員の罪名別前科者率フランス(1973年)

 罪種別の前科者率は,重罪で41.7%,軽罪で34.4%,違警罪で21.6%と罪質が軽くなるにつれて低下しており,罪名別では,無銭飲食(無賃乗車を含む。)が57.2%と最も高く,強盗及び放火が50.0%でこれに次ぎ,以下,小切手犯罪(軽罪),家族遺棄,詐欺などの順となっている。
 次に,1973年の重罪による有罪人員中の前科者率を年齢層別に見ると,1-55表のとおりであり,前科者率は,20歳代前半において47.3%と最も高く,18・19歳,20歳代後半及び30歳代前半においても,いずれも40%以上の高率となっている。

I-55表 重罪有罪人員の年齢層別前科者率フランス(1973年)

 (2)再入率
 国立矯正研究所(CNERP)は,毎年刑務所を出所する者について,10年間にわたる追跡調査を実施しており,1978年における調査結果を見ると,I-56表及びI-57表のとおりである。これは,1963年の全出所者から抽出した6,667人のうち,死亡又は所在不明となった者を除いた5,990人について,再び有罪裁判を受けて刑務所に入所した者の比率(再入率)を数個の角度から見たものであるが,10年後の1973年までの全再入者は2,668人に達し,再入率は44.5%となっている。本刑(出所者が服役していた刑)の刑期別に再入率を見ると,刑期6月以上1年未満のものが59.4%と最も高く,刑期5年以上のものが23.5%と最も低い。出所事由別では,満期釈放者の方が,仮釈放者よりも再入率が高く,出所時年齢別では,16・17歳が最も高く,年齢が上がるにつれて再入率は低下している。出所時年齢が同じでも,本刑の刑期が6月以上の者は,6月未満の者より全般的に再入率が高く,特に,その差は,30歳代までの者において顕著である。過去の入所度数別に再入率を見ると,入所なし,つまり本刑で初めて刑務所に入所した者では,およそ30%から40%であるのに対して,入所度数が多い者ほど概して高率となり,本則刑期が6月以上で,入所度数5度の者及び6度以上の者は,実に80%近い再入率を示している。
 また,再入年次を見ると,出所の翌年までには再入者全体の50%以上が再び入所しており,再入度数では,出所後10年間に2度以上入所した者が,再入者全体の60%以上に達している。なお,同調査によれば,再入者のうち,本刑の犯罪が身体犯であった者の17.4%は,再犯も身体犯であり,本刑の犯罪が財産犯であった者の81.4%,風俗犯であった者の31.5%は,それぞれ再犯も財産犯,風俗犯となっている。

I-56表 1963年出所者の出所後10年間の刑期等別再入状況フランス(1973年)

I-57表 1963年出所者の出所後10年間の再入年次別・再入度数別再入状況フランス(1973年)

  (3)累犯対策
 フランスでは,重罪の刑を受けた者が再び重罪を犯せば,その間経過した期間にかかわらず,原則として累犯者とされ,軽罪の刑を受けた者が5年以内に同一の軽罪を犯したとき,並びに違警罪の刑を受けた者が1年以内に同一裁判所の管内で違警罪を犯したときも,それぞれ累犯者とされる。累犯者に対しては,必要的又は裁量的に法定刑の長期に処すること,並びにその長期を2倍まで加重することができることなどが規定されている。
 更に,10年間に重罪により2回刑を受けた者,及び重罪又は一定の軽罪(傷害,公然わいせつ,売春仲介,窃盗,詐欺,背任,賍物隠匿,恐喝,偽造など)により刑期6月以上の刑を4回受けた者に対しては,主刑とともに刑事後見(tutelle Penale)を言い渡すことができる。刑事後見は,多累犯者を国家の監督の下に置いてその再犯を防止し,善良な市民として社会復帰させることを目的としており,主刑の執行に引き続き,10年間刑務所に拘禁するものである。ただし,1年間に1回(10日間)の一時帰休が許され,夜間だけ拘禁して日中は刑務所外に自由に通勤させる半開放処遇もあり,仮釈放も許可され,更に,65歳に達すると,刑事後見は当然終了する。刑務所外で再犯すれば更に裁判を受けるほか,行状が悪い場合にも仮釈放は取り消されて収監される。この制度は,従来の流刑(relegation)に代わって1970年に創設されたものであり,必要的言渡しではなく裁量的であること,施設外処遇も許されること及び終身制ではなく年限があることに特徴がある。1971年から1975年までの各年末現在の刑事後見付き在監者数は,I-58表のとおりである。この在監者はおおむね逐年増加し,1975年末には252人(受刑者総数の約1.5%)が在監しているが,主刑服役中の者を除けば183人(うち女性2人)となり,これには,旧流刑者約80人を含む一方,刑務所外での再犯により現に訴追されている約60人を含まない。同年末には,ほかに156人が仮釈放制度の下で保護観察を受けているが,毎年許可される仮釈放者及びその取消し人員を1971年以降5年間について見ると,I-59表のとおりである。仮釈放者は,この5年間に増減を繰り返しているのに対し,取消し人員は,1975年には1971年の2倍以上に増加している。なお,矯正当局の1974年における分類調査によると,刑事後見に処せられた者185人の56%は,窃盗の判決に伴って言い渡され,19%め詐欺及び背任がこれに次ぎ,以下,性犯罪(13%),強盗(10%),売春仲介(2%)の順となっており,平均9回目の裁判で刑事後見を言い渡され,言渡時の平均年齢は31歳となっている。1975年の同調査によると,主刑の刑期は,総数45人の47%が1年以下であり,1年を超えて2年以下が36%,2年を超えて3年以下が7%,3年を超えるものが11%となっている。

I-58表 刑事後見付き在監者フランス(1971年〜1975年各12月31日現在)

I-59表 刑事後見受刑者に対する仮釈放及び同取消しフランス(1971年〜1975年)