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 昭和54年版 犯罪白書 第1編/第3章/第2節/1 

第2節 各国における累犯の実態

1 西ドイツ

 西ドイツ刑法は,刑罰と保安処分の二元主義に基づき,累犯者に対して,累犯加重(RuckfaII,刑法48条)並びに保安処分としての保安拘禁(Sicheru一ngsverwahrung),精神病院収容及び禁絶施設収容(同法61条)によって対処している(社会治療施設収容の保安処分は,施行が延期されている。)。
 累犯加重の要件は,故意犯による2回以上の前科があり,その前科によって3月以上服役したことのある者が,新たな故意犯を犯し,「犯罪行為の種類と事情を考慮して,その者が以前の有罪判決を警告として役立てなかったという非難をその者に加うでき場合」であり,加重刑は,法定刑において,より高い下限が定められていないときは,刑の下限が6月の自由刑とされる(法定刑の上限には影響しない。)。ただし,前の犯罪と新たな犯罪との間に5年間を経過しているときは,前の犯罪は考慮されない。累犯対策として特に重要な保安拘禁の要件は,故意犯による各1年以上の有期自由刑の前科が2回以上あり,その前科によって2年以上服役し,又は保安処分の執行を受けたことのある者が,新たな故意犯を犯し,2年以上の有期自由刑に処せられる場合に,重大な犯罪行為への性癖(Hanlg)により公共に対して危険であることが明らかになったということであり,裁判所は,判決において,刑にあわせて保安拘禁を命ずる。なお,前の犯罪が発覚しないままであった危険な連続的犯罪者に対処するため,前科及び服役の要件を必要とせずに保安拘禁を併科できる規定がある。
 刑罰が,応報・しよく罪・改善など一般予防と特別予防の多様な機能を責任主義の基礎に結合させているのに対し,保安処分は,責任主義とは無関係に,危険な犯罪者を改善し,かかる犯罪者から社会を防衛する目的を有している。したがって,西ドイツでは,精神病又はアルコール中毒等により責任無能力の状態で違法行為を犯した場合は,精神病院又は禁絶施設に収容するが,責任能力者についても,刑罰だけでは危険防止に十分でないと認められるときは,刑罰にあわせて保安拘禁を科することができる。なお,保安拘禁の法律上の長期は10年である。

I-47表 検挙人員の罪名別初犯者・再犯者の人員及び再犯者率西ドイツ(1974年)

 西ドイツの累犯状況は,統計上,次のとおりである。
 まず,1974年における検挙人員中に占める再犯者の比率を見ると,I-47表のとおり,検挙人員総数106万2,199人のうち,再犯者は45万5,012人で,再犯者率は42.8%である。主要罪名別では,強盗・強盗的恐喝(67.3%),詐欺(54.7%),殺人(52.8%),強姦(51.6%)などの再犯者率がかなり高い。

1-48表 有罪人員(刑法適用)の罪種別初犯者・前科者の人員,前科回数及び前科者率西ドイツ(1974年)

 次に,1974年における有罪人員中に占める前科者率を見ると,I-48表のとおり,刑法適用による有罪人員総数59万9,368人から前科状況の不明なものを除いた55万5,862人のうち,前科者は18万9,582人で,前科者率は34.1%である。罪種別では,強盗・恐喝(69.4%),詐欺等の財産犯(50.4%)などの前科者率が高い。
 西ドイツでは,14歳以上18歳未満を少年,18歳以上21歳未満を青年,21歳以上を成人とし,少年については少年刑法(少年裁判所法)が適用され,少年刑,懲戒処分又は教育処分が科される。青年については,成人と同様に刑法が適用されて自由刑又は罰金刑が科される場合と,「犯行時における犯人の道徳的・精神的発展状態が少年と同一」(少年裁判所法105条)と判断されるなど一定の要件のもとて少年刑法が適用され,少年刑その他の処分が科される場合とがある。I-48表は,刑法適用による有罪人員のみに関するものであるが,少年刑法適用による有罪人員中に占める前科者率を見ると,1974年における有罪人員総数9万9,830人中前科状況の不明なものを除いた9万3,017人のうち,前科者は2万5,683人で,前科者率は27.6%である。ちなみに,有罪人員に対する科刑(処分)状況を見ると,1974年において,刑法及び少年刑法による有罪人員総数69万9,198人のうち,自由刑が10万4,726人(15.0%),少年刑が1万6,088人(2.3%),懲戒・教育処分が8万3,742人(12.0%),罰金刑が49万4,266人(70.7%),その他376人であり,自由刑のうち実刑は5万863人,執行猶予は5万3,863人で,執行猶予率は51.4%である。
 次に,1974年3月31日現在における受刑者・保安拘禁者中の前科者,前科回数及び再入期間を見ると,I-49表のとおり,総数3万6,763人のうち,前科者は2万8,404人で,前科者率は77.3%である。前科回数では,前科5犯以上のいわゆるひん回累犯者数は1万712人で,前科者の37.7%を占めている。再入期間を見ると,再入受刑者2万2,924人のうち,前刑釈放後1年以内に再入した者が41.6%を占めている。
 保安拘禁者については,376人のうち,前科5犯以上の者が307人(81.6%)を占め,再入者360人のうち,再入期間1年以内の者が197人(54.7%)を占めている。

1-49表 受刑者・保安拘禁者中の初犯者・前科者の人員,前科回数及び再入期間西ドイツ(1974年3月31日現在)

 保安拘禁によって収容中の者は,1977年3月現在において271人であるが,その罪名別人員を見ると,I-50表のとおり,窃盗が133人と49.1%を占めている。1961年以降における保安拘禁者数の推移を見ると,I-51表のとおり,最近の減少傾向は著しく,1977年は10年前の約五分のーとなっている。

I-50表 保安拘禁者の罪名別人員西ドイツ(1977年)

I-51表 保安拘禁者の推移西ドイツ(1961年〜1977年)

I-52表 保護観察終了者の終了事由別人員と取消率西ドイツ(1974年)

 西ドイツでは,刑の執行が猶予されるときは,原則として保護観察官の指導・監督による2年以上5年以下の期間内の保護観察に付され,仮釈放の残刑期間についても同様であるが,1974年に保護観察が終了した者の終了事由を見ると,I-52表のとおり,刑の執行猶予では,1万2,822人の終了者のうち5,947人(46.4%)が再犯又は遵守事項違反により執行猶予を取り消されており,仮釈放では,7,080人の終了者のうち3,661人(51.7%)が仮釈放を取り消されている。総数では,1万9,902人のうち,執行猶予又は仮釈放を取り消された者は9,608人(48.3%)であり,このうち再犯により取消しを受けた者は6,763人,70.4%である。また,保護観察開始後1年未満に取り消された者は4,595人で,取り消された者全体に対する比率は47.8%である。ちなみに,1974年における保護観察の対象者は,12月31日現在で5万6,362人であり,同年中に保護観察が開始された者は,執行猶予による者が1万6,336人,仮釈放による者が8,281人,計2万4,617人である。
 最後に,犯罪を犯して保安処分を受けた精神障害者について見ると,I-53表のとおり,1977年において3,538人が裁判所によって精神病院又は禁絶施設に収容を命じられており,そのうち約1割は再収容者である。

I-53表 行刑施設以外における保安処分収容者西ドイツ(1977年)