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 昭和53年版 犯罪白書 第4編/第2章/第3節/3 

3 少年院の新しい運営

 最近における少年非行の多様化,他方また処遇技術の進歩等に対応し,少年院の矯正教育を一層充実し効果あるものとするため,昭和52年6月から少年院の新しい運営が開始された。この新しい運営は,[1]少年院処遇を短期処遇と長期処遇とに大別して運用し,このうち短期処遇を拡充する,[2]家庭裁判所の少年処遇に関する意向をできるだけ処遇に反映する,[3]仮退院後の保護観察とより一貫性のある教育を実施する,[4]処遇の個別化を図り,在院期間を短縮し,弾力化を行う,[5]関係諸機関との連絡協調を図るなどを骨子とし,概要次のように行われている。
(1) 短期処遇の拡充
 短期処遇の拡充は,従来の少年院における収容期間が比較的長い期間に固定化する傾向があったため,保護処分としての保護観察と少年院送致処分との間の処遇上の較差が大きく,家庭裁判所の処分決定,当たって適切な処分選択がしにくいという事情もあったと考えられ,非行少年。早期発見,早期治療が困難となっていたことから,その改善を図ろうとしたものである。
 この短期処遇は,半開放処遇と開放処遇とを適宜組み合わせ,規律ある集団生活を営ませながら,正常な規範意識を体得させて,6箇月以内に出院させる一般短期処遇と,主たる非行が自動車等の運転にかかわる者を対象として4箇月以内に出院させる交通短期処遇とに分けられている。一般短期処遇を実施している少年院は全国に21庁あり,交通短期処遇は各矯正管区ごとに1庁ずつ,計8庁において,一般短期処遇と併せて実施されている。
 近年,少年非行が多様化していること,特に,罪質自体はさほど凶悪でなくても社会生活についての基本的な態度やしつけに欠ける少年の多いこと,遊興志向型の少年,更には学生・生徒の非行者の多いことなどにかんがみ,短期処遇施設における早期の集中的な教育がより有効に展開されることが期待されている。
(2) 処遇の個別化と分類制度
 少年院における処遇は,施設という一つの集団的教育場面における相互作用を通じて在院者各人の社会性のかん養を基本とし,それぞれの問題性に応じた処遇の個別化が図られている。具体的には,各人についての個別的処遇計画と,従来にも増して徹底した分類制度を採ることによって行われている。個別的処遇計画は,少年鑑別所から送付される処遇指針に基づき,その者に最も必要かつ有効と考えられる処遇方法を指示する具体的・実践的教育計画である。もとより,固定的なものではなく,在院者に対する教育の展開過程で,必要に応じて少年鑑別所の再鑑別を行うなどして修正を加え,常に在院者各人の特性や問題に応じて教育が行われるよう配慮されている。
 一方,このような個別的処遇計画の実施のため,各少年院について重点的な処遇課程を指定し,施設ごとに処遇内容の特色を特たせ,これに該当する者を収容することとしている。これが分類処遇制度であり,従来からも各矯正管区ごとにこの趣旨の処遇制度が設けられていたが,これを全国的見地から整理・統合し,各少年院の持つ立地条件,人的・物的諸条件,施設の伝統的風土等を勘案したうえ,生活指導,職業訓練,教科教育,特殊教育,医療措置の五つの処遇課程を設定して,各施設の特殊化,処遇内容の専門化・充実化を図り,これらの施設にそれぞれの処遇該当者を収容することとなっている。
(3) 関係機関との連絡協調
 非行少年の矯正と社会復帰は,ひとり施設における教育で足りるものではなく,処遇に直接関係する諸機関の緊密な協調,これらを通ずる一貫した処遇態勢が肝要であり,更に,広く地域社会,一般市民の理解と協力とを必要とする。このような見地から,少年院の新しい運営においては,家庭裁判所,保護関係機関,警察,検察庁等の諸機関との連絡・協調の緊密化を一層強化している。