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 昭和53年版 犯罪白書 第3編/第1章/第3節 

第3節 起訴・起訴猶予と累犯

 刑法犯の検察庁処理人員の中で,検察官が起訴又は起訴猶予処分に付した者につき,初犯者と罰金以上の前科を有する者との割合を,昭和33年から37年と43年から52年までについて示したのが,III-3表である。
 この表の示すとおり,起訴・起訴猶予人員中の前科者率は,起伏を示しながらも,全体として上昇傾向を示している。ほぼ10年間隔で見ると,33年の35.9%に対して,43年は40.2%,52年は44.1%を示しているのである。

III-3表 刑法犯起訴・起訴猶予人員中の前科者と前科者率(昭和33年〜37年,43年〜52年)

 次に,昭和48年以降最近5年間における刑法犯起訴・起訴猶予人員の年齢層別前科者率の推移を示すと,III-4表のとおりである。

III-4表 刑法犯起訴・起訴猶予

 昭和52年において,前科者率が最も高くなっている年齢層は,40歳代であって,53.3%となっている。次いで,30歳代が52.3%,25歳以上29歳未満が44.4%,50歳代が44.2%,60歳以上が37.4%となっている。
 20歳代では25歳未満と25歳以上の二群の間には,25歳以上が44.4%であるのに対して25歳未満では25.3%にすぎず,両群の前科者率には,かなりの差異が見られる。また,60歳以上の年齢層に初犯者が少なくないことも注目される。
 昭和52年の起訴人員及び起訴猶予人員のそれぞれについて,刑法犯主要罪名別に前科者の構成比とその前科内容を示したものが,III-5表及びIII-6表である。
 まず,起訴人員について見ると,起訴人員総数14万2,996人中前科者は7万8,967人であり,55.2%を占めている。前科の内容は,懲役の実刑が44.1%,執行猶予が21.6%,禁錮の実刑及び執行猶予が各0.3%,罰金が33.7%となっている。
 主要罪名中,前科者の構成比が高いのは,恐喝であり,起訴人員4,437人人員年齢層別前科者率,(昭和48年〜52年)中3,149人で71.0%に及んでいる。以下,詐欺が1万757人中6,901人で64.2%,窃盗が4万6,397人中2万8,437人で61.3%などとなっている。
 また,前科の内訳では,懲役実刑の割合が高いのは,強盗致死傷・強盗強姦の63.2%で,前科者266人中168人が懲役実刑の前科を持っている。次いで,強盗の60.3%,窃盗の59.2%などとなっている。
 これに対して,前科の中で懲役の執行猶予の占める割合の高いものは,横領であって,前科者1,023人中271人,その比率は26.5%である。
 また,罰金の前科の割合の高いものは,公然わいせつであって,1,158人中705人,その比率は60.9%となっており,賭博・富くじの56.1%がこれに次いでいる。
 次に,起訴猶予人員について見ると,起訴猶予人員8万1,564人中前科者は1万9,968人で,前科者率は24.5%である。
 前科の内容では,罰金が46.2%,懲役の実刑が31.7%,懲役の執行猶予が21.3%,禁錮の実刑及び執行猶予がそれぞれ0.4%となっている。前述のとおり,起訴人員中における前科者率は55.2%であるから,起訴猶予人員中のそれは,その半数以下である。このように,起訴人員と起訴猶予人員の間で,前科者率が著しく異なっていることは,前科の有無が,起訴・起訴猶予処分の決定に際して重要な要素となっていることを示している。罪名別に見ても,例えば窃盗では,起訴人員中の前科者率が61.3%であるのに,起訴猶予人員中の前科者率は19.3%にすぎない。

III-5表 刑法犯主要罪名別起訴した事件の前科者の種類別人員(昭和52年)

III-6表 刑法犯主要罪名別起訴猶予処分に付した事件の前科者の種類別人員(昭和52年)

 しかし,前科があっても,なお起訴猶予に付されている者も少なくなく,各事件の処理に際しては,犯人の性格,年齢,境遇,犯罪の軽重及び情状,更には犯罪後の情況等前科以外の諸事情も考慮されていることがうかがわれる。