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 昭和53年版 犯罪白書 第1編/第2章/第5節/2 

2 犯罪を犯した精神障害者の取扱い

(1) 心神喪失・心神耗弱者
 犯罪を犯した精神障害者のうち,検察の段階で心神喪失と認められ不起訴となった者及び裁判の段階で心神喪失又は心神耗弱と認められて無罪となり,又は刑を減軽された者の数を,昭和48年以降の5年間について見ると,I-48表のようになっている。検察段階での不起訴人員は,漸増の傾向にある。
 全国の地方(区)検察庁で処理された事件及びそれに対応する裁判所で判決ああった事件で,心神喪失により不起訴若しくは無罪となり,又は心神耗弱により刑の減軽を受けた者についての昭和50年と51年の精神診断結果及び52年の罪名別精神診断結果を法務省刑事局の調査によって見たのが,I-49表である。心神喪失・心神耗弱者数は年々増加の傾向にあり,52年においては594人で,前年に比べて50人増加している。52年の594人について,罪名別に見ると,殺人の180人(30.3%)が最も多く,続いて傷害・暴行,放火,窃盗などとなっており,精神診断結果では,精神分裂病が307人(51.7%)と半数以上を占めている。
 更に,この594人について,初犯者・再犯者別の精神病院入院歴の有無をI-50表に示した。これによると,再犯者が260人(43.8%),精神病院入院歴のある者が299人(50.3%)となっている。

I-47表 一般保護事件終局人員中精神障害者の非行名別人員・比率(昭和51年)

I-48表 心神喪失・心神耗弱者の人員(昭和48年〜52年)

(2) 精神衛生法による取扱い
 精神衛生法(23条ないし26条)は,精神障害者又はその疑いのある者を知った場合の都道府県知事への申請並びに警察官,検察官,保護観察所長及び矯正施設長の通報義務を規定している。I-51表は,昭和43年以降の10年間におけるこの申請・通報件数及び精神衛生鑑定医によって精神障害者と認定された者の数を示したものである。申請及び通報の総数は,36年の5万1,529件をピークとして,年々減少傾向にある。警察,検察,矯正及び保護の各機関からの52年の通報件数は,6,412件である。通報を受けた者のうち4,513人が精神障害者と認定されているが,その中で入院の措置を執られた者は,2,315人(51.3%)である。

I-49表 心神喪失・心神耗弱者の罪名別精神診断結果(昭和50年〜52年)

I-50表 心神喪失・心神耗弱者の初犯・再犯者別精神病院入院歴の有無(昭和52年)

I-51表 精神衛生法による申請・通報件数及び精神障害者数(昭和43年〜52年)

 なお,前述の法務省刑事局の調査による不起訴処分又は無罪の裁判等を受けた心神喪失・心神耗弱者について,精神衛生法の規定により措置入院となった者の人数及び比率を見ると,昭和50年が536人中284人(53.0%),51年が544人中272人(50.0%),52年が594人中296人(49.8%)となっており,その比率は年々低下している。
(3) 矯正施設における精神障害者
 昭和52年における刑務所又は少年院の収容者中の精神障害者は,I-52表に示すとおりである。刑務所では約11%で,ここ10数年来では最も高かった46年の15.0%から年々わずかずつではあるが減少の傾向にあり,少年院では9.5%で,40年代以降では最も高かった42年の18.7%の約半分の割合まで減少している。刑務所や少年院に収容されている精神障害者に対しては,医学的治療はもとより,作業療法,心理療法などの矯正処遇が行われている。
 例えば,八王子医療刑務所では,精神障害者のうち主として精神病者を収容し,入所当初は居房内作業であるが,段階を追って,窯業,印刷等の屋内作業から,園芸,農耕等の屋外作業まで,開放的ふん囲気の中で実施するとともに,個別カウンセリング,週1回の集団カウンセリングの実施など,種々の治療処遇が行われている。

I-52表 矯正施設収容中の精神障害者(昭和52年12月20日現在)