2 欧米諸国における公衆参加の状況 まず,アメリカについて見ると,民間篤志家の犯罪者処遇に対する有効な活動実績があり,これが背景となって世界最初のプロベーション立法であるマサチューセッツ法が1878年に制定されている。その後における更生保護事業の拡充・発展にも,民間の篤志家や団体の寄与が大きい。アメリカでは,各州の独立性が強いため,一様な発展は見なかったが,更生保護事業は全体として着実に進展し,少年のプロベーション(矯正施設に収容されない保護観察)は1925手までに,成人のプロベーションは1956年までに,それぞれ全州で採用され,また,パロール(矯正施設を仮釈放された後の保護観察)は,1944年までに全州で立法化された。これらの保護観察に関する責任は,連邦,州及び若干の地方政府が負っている。概して,パロールは州単位で,プロベーションは州又はその下部組織の単位で実施されている。今世紀初頭から1920年代にかけて発達したいわゆるケースワークの影響を受け,犯罪者や非行少年の処遇は,公的なしかもケースワークの有資格者の専門職員が担当する態勢が取られてきた。しかし,戦後ますます悪化する犯罪情勢や,累犯者の増加傾向の中にあって,1967年に,刑事司法に関する大統領諮問委員会の報告書が出され,矯正処遇の代替的手段の広範な開発の必要性と,社会内処遇における篤志家の活用の必要性等が勧告された。また,合衆国司法省の警察援助局による財政援助と指導が強化されたことなどもあって,篤志家活動は一段と活発になった。近年,宗教家,学生,青年,時には刑余者の青年等の篤志家又は団体の活動が顕著である。例えば,1974年には,推定1,000以上の裁判所において,約10万人の篤志家が犯罪者や非行少年の職業,教育,技術等の援助やレクリエーションの指導,宗教上の相談等を行っていると言われる。これらの篤志家や団体の活動は,犯罪者の処遇に関する責任がほとんど公的機関によって担当されているために,犯罪者の特定の問題だけを取り扱ったり,対象者を選択して比較的問題のない者だけを援助したり,また,通常,犯罪者が公的機関から得ることのできないものや,得ようとしないものに力を集中するような方向を取っている。このような篤志活動は,主に地域別に組織された委員会によって管理され,専門家によって指導されている場合が多い。更生保護事業に参加する篤志団体は,州全体あるいは州のある地域又は都市で活動しており,その多くがアメリカ合衆国矯正保護事業連盟に加入している。 イギリスでは,犯罪者の社会内における監督や保護は,古くは民間の篤志家や団体の活動に負っていたが,プロベーションについては,1907年の犯罪者プロベーション法の制定以後公的な体制を整え,保護観察官による活動が充実強化され,これに伴い篤志家の活動が縮小された。他方,矯正施設を出た者に対するいわゆるアフター・ケアについては,その大部分を篤志団体が国の財政援助を受けて担当してきた。しかし,1963年に犯罪者の処遇に関する諮問委員会から内務大臣あてに出された答申の中で,プロベーションとアフター・ケアの事業が統合されるべきこと,及びアフター・ケアがプロベーションの場合と同様に,特別な人格,研修,経験等を有する専門職員によって担当されるべきことが勧告された。このため,長年にわたってアフター・ケアの業務に寄与してきた篤志団体(全国保護事業協会及び地方保護会)は,専門の保護観察官とは別の活動方法をもって,対象者の援助に当たることとなった。篤志家の募集は保護観察委員会の責任とされ,その活発な活用が図られた。保護観察業務の拡大と,篤志家の活動を推進する必要から,それ以後,常勤及び非常勤の保護観察官の数は急激に増加し,1975年末には,前者が4,869人,後者が129人となった。これに伴って,篤志活動も活発になってきている。都市を中心に,多くの篤志家が募集され,身元調査と研修を経て,保護観察委員会の承認の下に,各種の活動を行っている。これらの篤志家が,更生保護の活動で要した経費のうち,旅費,日当,電話代,郵便料等は内務省から弁償され,活動中に被った損害は補償される。また,帰住先のない犯罪者のために篤志団体が経営しているホステルも,その数及び種類共に増加している。これらのホステルは,内務省から認可されて財政上の援助を受けている。1974年現在,177のホステルに1,831の部屋が準備されている。ホステルには,犯罪者はもとよりその家族をも共に保護するものや,アルコール中毒者や麻薬中毒者等特殊な犯罪者だけを保護するものがある。現在,約200の篤志団体があって,全国犯罪者保護更生協会に加入している。 同協会は,篤志団体のための情報交換,相談指導,ホステル職員の研修,調査,広報宣伝活動等を行うほか,刑事政策に関し中央政府に各種の提案を行っている。 西ドイツでは,社会内処遇の業務は各州の責任となっており,具体的事案の監督は,裁判官が責任を有し,保護観察官を指名してこれに当たらせている。この際,少年の指導監督は保護観察官によって行われるが,成人の場合には,裁判官は篤志家に行わせることができる。保護観察官の数は,1964年末現在511人で,現在は約1,000人と言われており,このほか,若干の篤志家が裁判宵の指名を受けて対象者の援助活動に当たっている。保護観察官は平均50人ないし60人を担当するが,篤志家は1人ないし数人を担当するにすぎず,それも余り問題のない対象者が多い。一般に,篤志家が対象者を担当する際には,公費による実費弁償を受けるが,他に篤志団体から報酬を受ける場合がある。篤志団体の形態は様々で,ある団体は犯罪者及びその家族に活動の範囲を限定し,ある団体はこれ以外の者に対しても援助活動を行っている。これらの多くの団体は,犯罪者更生保護連盟を結成している。とりわけ,重要な組織は,約20の加盟団体を擁するプロベーション援助協会で,これは,連邦司法省から若干の財政援助を受けて,更生保護に関する広報・宣伝を行い,会議や研究会を開催し,また,加盟団体を援助している。 フランスでは,社会内処遇の業務は司法省の管轄であり,ほぼ各県単位にある約100の保護観察委員会が,行刑判事の監督の下に業務を行っている。 保護観察委員会は,比較的少数の保護観察官等の専門職員と,司法大臣から委嘱された多数の民間篤志家から構成されている。篤志家は,25歳以上であること,犯罪前歴がないこと,身元保証人があること,職務上の秘密を守ること等が要件とされている。篤志家には実費弁償がなされる。また,保護観察委員会には,司法大臣の認可を受けた篤志団体が付属しているものがあり,対象者に対して物的援助やその他の活動のほか,特別な施設,ホステル等を経営し収容保護を行っている。収容保護に要した経費は,公的機関から助成を受けている。
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