前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 昭和52年版 犯罪白書 第2編/第3章/第2節/4 

4 保護観察の実施状況

(1) 保護観察への導入
 保護観察が機能を発揮しその効果を挙げるうえで,保護観察開始時における本人やその環境についての調査・診断及び指導方針の設定等は,以後の保護観察にとって極めて重要な意義を有する。通常,それは,本人の出頭と,保護観察官の面接によって開始されるが,保護観察処分少年及び保護観察付執行猶予者については,当初の適切な導入に支障をきたすことが多い。特に,保護観察付執行猶予者については,言渡裁判所やその対応検察庁が判決言渡し及び判決確定の都度その旨保護観察所に通知することになっているが,保護観察所がこの通知を受理する以前に本人が釈放されるため,出頭が確保されにくい事情にある。また,保護観察所長は,判決言渡し後,確定するまでの間,保護観察の開始を円滑にするため対象者についてその環境を調整することができるが,これも本人からの申出があったときに限られ,保護観察,を忌避する者にはこれが活用できない状況にある。法務省保護局の資料によって,昭和51年における保護観察付執行猶予者の保護観察所への出頭状況を見ると,II-67表のとおりである。調査対象人員8,042人中,判決確定後1月以内に出頭がなかった者は438人(5.4%)であり,特に,管轄区域外の裁判所で言渡しのあった者においてその率が高い。これら不出頭者のうち,所在不明.の者は210人(47.9%),また,他の犯罪の嫌疑で検挙され身柄を拘束されている等の理由で出頭できなかった者は33人(7.5%)である。
 近年,保護観察所の支部(3箇所)及び保護観察官の駐在する事務所(18箇所)が設置され,その活用が図られたことにより,裁判所等の関係機関との連携が強化され,対象者の出頭の便宜等が図られているが,この体制の一層の整備が望まれる。

II-67表 保護観察付執行猶予者の出頭状況(昭和51年)

(2) 保護観察活動
 保護観察は,保護観察官と保護司との協力によって実施されている。

II-68表 保護司の保護観察事件担当数

 この保護観察の活動状況の一面を物語るものとして,昭和50年10月末に法務省保護局が行った保護司についての「更生保護制度に関する意見調査」がある。
 まず,II-68表は,保護観察事件の担当数を示したもので,現に対象者を担当し保護観察活動をしている保護司は,調査総数中70.2%を占めており,6人以上担当している保護司は4.6%である。次に,処遇上困ったことがあったかどうかについての質問に対し,721人(57.3%)の保護司が「あった」と回答しており,相当数の保護司が困った事態に立ち至った経験を有していることがわかる。また,保護観察官に処遇上のことで直接的介入を要請したことのある保護司は555人(44.1%)である。このうち,保護観察官が積極的に反応してくれたと感じている保護司は488人(88.1%)に達している。
 保護観察の効果を挙げるためには,対象者の具体的状況を的確には握し,これに応じた適切な働きかけを行うことが必要である。保護観察所においては,保護司の処遇技術の向上のため活発に研修を実施しているほか,個々の事案を通じて,保護観察官による具体的な指導を行っている。
(3) 保護観察所の特別措置
 保護観察において,対象者の実態が判明しなかったり,強い説示や助言が必要な場合には,保護観察所長は本人を呼び出し,質問し,助言・指導を行っている。また,本人が一定の住居に居住しない場合や,本人に遵守事項違反の疑いがあって,呼出しをしてもこれに応じない場合等には,裁判官に引致状の発付を求め,本人を引致することができる。なお,引致した者については,少年院への戻し収容,仮出獄の取消し,執行猶予の取消し等の申請又は申出等に関し審理の要がある場合には,一定の期間特定の施設に留置することができる。
 昭和51年中に引致及び留置した人員は,II-69表に示すとおりである。裁判所へ引致状を請求した数は304件で,実際に引致した人員は186人である。また,留置した人員は122人である。前年に比べると,引致人員は同数であるが,留置人員は若干増加している。

II-69表 引致及び留置人員(昭和50年,51年)

II-70表 保護観察対象者に対する本年新規実施の救(援)護人員(昭和50年,51年)

 次に,対象者が負傷又は疾病等のため,あるいは適当な仮泊所,住居,職業等がないために,更生を妨げられるおそれがある場合には,保護観察所長は,本人が公共の施設その他からこの種の救護が得られるように援助しており,これによって本人の緊急状態が打開できない場合には,自庁の予算で,いわゆる応急の救護(保護観察付執行猶予者の場合は「援護」と呼ばれる。
 以下,この両者を合わせて「救(援)護」という。)を行っている。
 昭和51年に新たに実施した救(援)護の状況は,II-70表に示すとおりで,総数は1万873人に達し,前年に比べて229人多くなっている。措置の種類では,食事付宿泊供与,旅客運賃割引証交付,宿泊供与,衣料給与等が多く,前年に比べて増加が見られるのは,衣料給与と,特に,委託保護の食事付宿泊供与及び宿泊供与である。また,保護観察種別のうち,救(援)護の措置が最も多く執られたのは仮出獄者で,措置総数の83.9%を占める。
 他方,保護観察の成績が良好で,指導監督や補導援護をこれ以上続ける必要がない程度に更生した者については,保護観察所長は,保護観察を中止したり,終了させる措置を執る。そのような成績良好者に対する措置は,保護観察処分少年についての保護観察9良好停止又は解除,少年院仮退院者についての退院,仮出獄者についての不定期刑の終了,また,保護観察付執行猶予者についての仮解除がある。他に刑事処分を受けた対象者に対する恩赦による特別の措置があるが,これについては,本章第4節で述べる。

II-71表 成績良好者に対する保護観察所の措置(昭和47年〜51年)

 このような成績良好者に対する保護観察所の措置人員は,II-71表に示すとおりである。これらの成績良好者に対する措置は,いずれも前年に比べて増加している。
 これに対して,保護観察実施中に,本人が遵守事項を守らず,このまま放置すれば再犯に陥るおそれがある場合や,現に再犯に陥った場合など,その成績が悪い場合には,保護観察所長は,保護観察種別ごとに所定の手続によって措置を執ることができる。このような成績不良者に対する措置としては,保護観察処分少年についての家庭裁判所への通告,少年院仮退院者についての地方更生保護委員会に対する戻し収容の申出,仮出獄者についての地方更生保護委員会に対する保護観察の停止の申請又は仮出獄の取消しの申報若しくは取消しの申請及び保護観察付執行猶予者についての検察官に対する執行猶予取消しの申出がある。

II-72表 成績不良者に対する保護観察所の措置(昭和47年〜51年)

 このような成績不良者に対する保護観察所の措置人員は,II-72表に示すとおりである。昭和51年では,前年に比べて,戻し収容申出の措置を除き,全体として幾分増加している。
 以上,保護観察で行う特殊な措置の実施状況を見てきたが,救(援)護の措置人員,特に食事付宿泊及び宿泊等供与の委託保護人員や,成績良好者及び成績不良者の双方に対する措置人員等のほとんどすべてにおいて増加していることは,保護観察の一層の充実を示すものと言えよう。