前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 昭和52年版 犯罪白書 第2編/第2章/第4節/2 

2 最低基準規則の充足状況

 最低基準規則は,いずれの国も準拠しなければならない被拘禁者処遇の国際的基準として,国際連合がその完全実施を勧告しているものであり,その充足度は,被拘禁者の人権面及び処遇面についての各国の水準を測定するための共通的尺度とされている。
 II-54表は,国際連合が1974年に調査し,翌1975年の第5回国際連合犯罪防止及び犯罪者処遇会議に資料として配付したものを基礎に作成したものである。この表は,最低基準規則の各項目ごとに充足の程度,該当国の数及び我が国の充足状況を示している。
 55箇国全体の充足の程度を百分比(調査対象国数55に調査の項目数30を乗じた数1650を100とするもの)で見ると,「十分に充足されている」(以下「充足」という。)の74.3%が最も多く,「一部だけ充足されている」(以下「一部充足」という。)の19.3%がこれに続き,このほか,同表では省略してあるが,「何ら充足されていないが,状況が許すならば,充足されるであろう」の4.2%,「故意に充足されなかった」の0.5%があり,更に,「非該当」が1.6%,無回答が0.1%となっている。

II-54表 最低基準規則の充足に関する55箇国回答(1974年国連調査)

 次に,上記の充足程度別に,項目ごとの該当国数を見ると,「充足」では,「登録」(被拘禁者の身上に関する情報等を記入した登録簿の備付け)及び「拘束具」(懲罰の手段としての使用の禁止。製式・用法の中央当局における指定)の54箇国が1位を占め,「基本原則」(人種・性別・言語・国籍・社会的身分等による差別適用の禁止)の53箇国がこれに次いでいる。逆に少ない方では,「未決被拘禁者」(無罪の推定にふさわしい処遇,受刑者からの分離,単独室の原則,食糧自弁の許可,自衣着用の許可,就業の機会供与,書籍・新聞紙等の購入許可,自己の医師等による受診・治療の許可,弁護人との交通権の保障等)の25箇国,「居住設備」及び「作業」の各28箇国などが目につく。特に,「未決被拘禁者」の項目についての充足は,半数を割っている。
 また,「一部充足」では,前出の「未決被拘禁者」の25箇国が最も多く,以下,「居住設備」,「施設職員」及び「作業」の各22箇国が続いている。これらの項目について,「充足」までには至らない国でも,「一部充足」には該当する国がかなり多数を占めていることがわかる。

II-55表 最低基準規則の国別の充足程度(1968年)

 この観点から,「充足」と「一部充足」を合わせることにより,最も充足度が高くなる項目を見ると,「登録」,「食糧」,「規律及び懲罰」,「外部との交通」,「死亡等についての通知」の各項目で,いずれも55箇国全部が該当して1位を占め,次いで,「基本原則」,「被拘禁者の分離」,「個人衛生」,「医療」,「拘束具」及び「被拘禁者の移送」の各項目で,いずれも54箇国が該当している。
 これを我が国について見ると,「充足」では,表中※印の23項目(76.7%)が,また「一部充足」では,同じく6項目(20.0%)が,それぞれ該当している。なお,「非該当」では,我が国には存在しない「民事上の被拘禁者」の1項目(3.3%)がある。これを55箇国全体の平均充足率(前述のように,「充足」は74.3%,「一部充足」は19.3%)に比べてみると,我が国の充足率は,わずかに高くなっている。
 なお,国別に充足状況を見たものに,1970年京都で開かれた第4回国際連合犯罪防止及び犯罪者処遇会議の際配付された国際受刑者援助協会(International Prisoners Aid Association,I.P.A.A.)の資料(Pilot Study on Standard Minimum Rules,1970)がある。これは,経済的な視点から3グループ9箇国(日本は含まれていない。)を選定し,他方,最低基準規則の方も内容的に162項目に細分化し,一部充足の態様にも,数個の評価段階を設けて,その充足状況を調査したものである。この調査を基にした欧米の幾つかの国の充足状況と,これと同じ技法による我が国の充足状況の調査結果とを比較対照したものがII-55表である。これによると,我が国の充足状況は,欧米先進諸国のそれとほぼ同程度と言えよう。