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 昭和52年版 犯罪白書 第1編/第3章/第1節/3 

3 西ドイツ

 I-82表は,西ドイツにおける1960年から1975年までの主要刑法犯(重罪及び軽罪)の発生件数の推移及び1975年の罪名別構成比を見たものである。
 1975年の罪名別発生件数を,1960年のそれを100とする指数で見ると,最も増加の著しい犯罪は麻薬犯罪で,3,254に上り,次いで,強盗・強盗的恐喝の352,放火の295,殺人の243,窃盗の223などの順となっている。最も減少率の高いのは,堕胎で,1975年の指数が15となっており,そのほか,傷害致死が32,横領が61,■職が61とそれぞれ減少している。
 主要刑法犯の動向から最近における犯罪現象の特徴を見ると,[1]犯罪は全体として増加傾向にあること,[2]強盗・強盗的恐喝,放火及び殺人等の凶悪犯の増加が著しいこと,[3]強姦はここ十数年間横ばいの傾向にあり,堕胎は激減していること,[4]都市部を中心に犯罪が多発していること,[5]外国人犯罪が増加傾向にあること,[6]麻薬犯罪が急激な増加を示していることなどが挙げられる。
 増加の著しい強盗の中で,その類型として目立っているのは,銀行その他の金融機関における強盗及びひったくり強盗などである。1975年に発生した銀行強盗のうち,銃器が脅迫用に用いられている事件が61.7%を占め,また,銃器が発砲されている事件が4.3%となっており,その悪質性がうかがわれる。ちなみに,その他の犯罪について銃器が用いられたものの比率を見てみると,殺人では21.8%,傷害では4.8%などとなっている。
 また,放火については,14歳未満の児童によるものが17.9%,14歳以上18歳未満の少年によるものが15.5%であり,この両者で33.4%を占めており,少年層に問題のある犯罪であることがわかる。
 次に,殺人,強盗,窃盗などの主要犯罪が増加傾向にあるのに,強姦の発生率が1960年以降横ばい状態にある点が注目される。西ドイツでは,以前から公娼制度があり,わいせつ犯罪に対する規制が緩やかであるが,こうした性風俗,性道徳のあり方が強姦の発生に何らかの影響を及ぼしているか否かは検討に値する。堕胎罪については,1920年ころから自由化の方向で改正の動きがあり,1974年6月5日成立の第5次刑法改正法で,妊娠初期の一定期間の堕胎が刑罰の対象から除外されるに至っている。堕胎の急激な減少は,こうした法改正の経過とその背景にある社会的現実を反映したものと見ることができよう。
 1975年における主要刑法犯の人口10万人当たりの発生率を地域別に見ると,人口50万人以上の大都市での発生率が最も高く,人口2万人以下の町村のそれの2.7倍となっている。しかし,1975年までの最近5年間を取って見ると,町村における発生率の増加が都市部のそれより著しく,犯罪が地方へ拡散していく傾向が認められる。
 14歳以上18歳未満の少年犯罪者の検挙人員は,1960年では検挙人員総数の7.8%であったが,逐年増加して1975年では13.5%を占めるに至っている。
 また,外国人が検挙人員総数中に占める比率を見ると,1960年には総数の2.3%にすぎなかったのに,在留外国人の増加の影響もあって,1975年には12.4%にまで増加している。
 最も増加の著しい麻薬犯罪については,若年層が大きな比重を占めており,1975年では,14歳未満の児童及び14歳以上18歳未満の少年が総数の13.5%,18歳以上21歳未満の青年が36.4%,21歳以上25歳未満の成人が32.9%となっており,これらの者が全体の82.8%を占めている。また,この麻薬犯罪検挙人員の年齢別構成比の推移を見ると,1960年では,成人が97.2%,青年が2.3%,少年が0.5%となっていたが,青年層以下の比率が増大し,1975年では,成人が50.1%,青年が36.4%,少年が13.4%,児童が0.2%となっている。
 なお,過激派の犯罪は,ハイジャック事件,強盗,爆発物を用いた犯罪などの重大犯罪の形で発生しており,本年4月7日に発生した連邦検事総長殺害事件のように大胆かつ悪質なものも見受けられる。