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2 イギリス イギリスにおける要正式起訴犯罪(Indictable Offences)とは,原則として正式起訴状により起訴される犯罪を言い,ほぼ我が国の刑法犯に当たるものである。
I-81表は,イギリスにおける1960年から1975年までの要正式起訴犯罪の発生件数の推移及び1975年における罪名別構成比を見たものである。イギリスでは,窃盗処罰法(Theft Act,1968)が1969年1月1日から施行され,また,刑事毀棄法(Criminal Damage Act,1971)が1971年10月14日から施行されたことにより,財産犯・刑事毀棄犯の一部についてはその前後を正確には比較することができなくなった。しかし,これが統計数字に及ぼす影響はさほど大きくないものと考えられるので,1975年における要正式起訴犯罪の罪名別発生件数を,1960年のそれを100とする指数で見ると,最も増加率の高いのは放火で838となっており,次いで強盗の562,その他の暴力犯罪の460,駐物の390などの順となっている。また,発生件数の総数も1960年以降おおむね増加傾向を続けていると言える。 要正式起訴犯罪等の動向から最近における犯罪現象の特徴を見ると,[1]主要犯罪は全般的に増加傾向にあること,[2]強盗その他の暴力犯罪の増加が著しいこと,[3]都市部を中心に犯罪が多発していること,[4]銃器を用いた犯罪が増加していること,[5]麻薬犯罪が急激な増加を示していること,[6]少年犯罪が増加していること,[7]性犯罪は近年おおむね横ばい又は減少傾向にあることなどが挙げられる。 アメリカにおけると同様に,イギリスにおいても暴力犯罪の増加が最も問題とされている。1975年までの最近10年間に限って暴力犯罪の推移を見ると,強盗は約2.5倍,殺人は約1.6倍,その他の暴力犯罪は約2.7倍にそれぞれ増加しており,特に,最近の強盗の増加率の高いことが注目される。強盗の形態では,路上あるいは駅頭で無警戒の者をいきなり襲う手口の強盗(mugging)が目立っている。また,いわゆるパンダリズムの増加傾向も特に注目すべき傾向である。過激派の犯罪としては,1975年中に,テロ活動に関連して10件の殺人事件が発生しているが,その大部分が爆発物によるものてあり,治安上の重要問題となっている。 要正式起訴犯罪の人口10万人当たりの発生率を地域別に見ると,概してロンドンを含む人口密度の高い都市部において高率であり,地方では低率である傾向が認められる。しかし,これも罪種によって異なり,例えば,性犯罪は不法侵入や強盗などの他の犯罪に比べて地方及び都市部に均等に拡散しているが,強盗は他の犯罪に比べて都市部に集中している。 銃器が犯罪に用いられる割合は,アメリカに比べると少ないが,最近数年間では増加する傾向にある。1975年について見ると,犯行に銃器を用いたものは,殺人では9.6%,強盗では8.4%,その他の暴力犯罪では3.0%となっている。また,銃器使用事件の約50%は,21歳以下の若年層を中心とする空気銃使用の事犯である。罪名別に見ると,殺人で最も使用ひん度の高いものは,長銃身の散弾銃であり,強盗ではピストルである。 麻薬犯罪のうち大麻の濫用について見ると,この種事犯はかって外国からの出かせぎ労働者を通じて国内の若年層に広がったものと言われているが,最近では,学生等の間でも流行している。国連麻薬委員会報告資料(United Nation : Reports of Commission on Narcotic Drugs,1973〜1975)によると,イギリスにおける大麻・大麻たばこの押収量は,1970年から1974年までの間におよそ18倍にも増加しており,そのまん延ぶりがうかがわれる。 一般に犯罪が増加傾向にあるイギリスにおいて,性犯罪の動向だけは特異である。強姦は,最近数年間は横ばいの傾向を示しており,強制わいせつ及びその他の性犯罪は1974年以降減少傾向にある。この傾向には,後に述べる西ドイツ及びフランスにおける性犯罪の動向と軌を一にするものがある。 I-81 表要正式起訴犯罪発生件数 イギリス(イングランド及びウェールズ) |