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2 犯罪を犯した精神障害者の処遇 精神障害者が犯罪を犯した場合,その精神障害のため責任能力がないときは,心神喪失を理由として不起訴又は無罪となり,その能力が著しく低いときは,心神耗弱を理由として刑が減軽される。検察の段階で心神喪失と認められて不起訴となった者,裁判の段階で心神喪失により無罪となった者及び心神耗弱により刑を減軽された者の数を見ると,I-45表のようになっている。検察段階での不起訴人員は,ここ10年来増加傾向にある。
I-45表 心神喪失・心神耗弱者の人員(昭和46年〜51年) I-46表 矯正施設収容中の精神障害者(昭和51年12月20日現在) 次に,刑務所又は少年院の収容者中の精神障害者は,I-46表に見るとおり,受刑者,少年院在院者共に約11%となっている。受刑者については,昭和46年の15.0%から逐年減少傾向を示し,少年院在院者については,44年の18.3%から減少している。刑務所や少年院に収容されている精神障害者に対しては,医療刑務所や医療少年院を中心に,治療を主とする矯正処遇が行われている。ところで,精神衛生法(第23条ないし第26条)は,精神障害者又はその疑いのある者を知った場合の都道府県知事への申請又は通報を規定している。この規定による申請・通報の件数及び精神衛生鑑定医の診察で精神障害者と認定された者の数は,I-47表のとおりである。申請・通報件数共に減少傾向にある。このうち,昭和51年の通報件数6,538件の内訳を見ると,警察官によるものが5,022件(約77%)を占め,検察官によるもの1,131件(約17%),保護観察所長によるもの49件(約1%),矯正施設長によるもの336件(約5%)となっている。鑑定の結果,精神障害者と認定された者は,4,680人であり,その中で入院の措置を執られた者は,2,469人(約53%)である。この措置入院者の内訳を通報機関別に見ると,警察官によるものが2,047人,検察官によるものが353人,保護観察所長によるものが13人,矯正施設長によるものが56人となっている。 I-47表 精神衛生法による申請・通報件数及び精神障害者数(昭和42年〜51年) このような措置入院制度は,もともと本人の治療面に主眼を置いた行政処分であって,犯罪性の強い危険な精神障害者に対する措置としては十分ではない。もちろん,精神障害者のすべてが危険であるとは言えないが,危険な者がいることは否定できない事実である。そこで,精神障害者がある程度以上重い犯罪に当たる行為をし,同様の行為を繰り返すおそれがある場合にその者を特別の施設に収容して,医療・矯正の措置を講ずるとともに社会の安全を保護するという新たな司法処分を設けることが考えられる。これが犯罪性の強い危険な精神障害者等に対する保安処分新設の問題であり,法務大臣の諮問機関である法制審議会が昭和49年5月に答申した改正刑法草案では,精神障害者に対する治療処分など,保安処分制度の新設が提案されている。 |