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 昭和52年版 犯罪白書  

はしがき

 この白書は,昭和51年を中心とした最近の犯罪の動向と犯罪者処遇の実情を概説するとともに,新たな試みとして,国際的視野から見た我が国の犯罪と犯罪者処遇の実情及び贈収賄事件など最近における注目すべき若干の犯罪の実態についての調査結果を取り上げている。
 犯罪の増加傾向に悩む欧米先進諸国から見て,我が国における最近の犯罪の減少傾向は,極めて特異な現象として注目されているが,我が国においても,今後,社会的・経済的・文化的諸条件の変化に伴い,犯罪も欧米型の増加に転ずるおそれがないとは言い切れない。これら先進諸国の例を他山の石として自戒するためにも,欧米諸国の犯罪動向に対する十分な検討が要求されるであろう。このような観点から,この白書では,アメリカ,イギリス,西ドイツ,フランスなどの諸国と我が国の犯罪の動向を,1960年(昭和35年)から1975年(昭和50年)までの推移を中心として国際比較を試み,また,犯罪者処遇の実情についても大まかな国際的比較・検討を行っている。昭和35年と言えば,当研究所が初めて犯罪白書を世に問うた年であり,同年の白書冒頭の「はしがき」には,「犯罪の増加傾向は,我が国に限らず,欧米諸国にも見受けられ,世界的な現象だとも言われているが,諸外国には,我が国ほどの増加率と凶悪化は見られないようである。この特異な現象を招いた原因がどこにあるか」と記されている。その後15年間の犯罪動向の推移を見ると,欧米先進諸国では依然として増加傾向が続いているのに,ひとり我が国だけは,減少し,全体として沈静化しているように見受けられる。この実態とその由来については,本文によって承知されたいのであるが,今この白書を世に送るに当たり,彼此考量し,今昔の感に堪えないものがある。
 なお,本書の編成は,例年どおり,全体を3編に分け,第1編では,昭和51年を中心とした最近の犯罪動向を概観し,贈収賄事件等の最近における注目すべき犯罪の実態を考察するとともに,犯罪動向の国際比較を行っている。第2編では,検察,裁判,矯正,保護の各段階における犯罪者処遇の実情を国際的視点をも考慮しつつ概観し,また,第3編では,特殊性の強い少年非行,交通犯罪及び女性犯罪の問題について,国際比較を含む検討を加えている。
 終わりに,この白書を作成するに当たり,法務省各部局はもとより,最高裁判所事務総局及び警察庁から協力と援助を受けたことに改めて謝意を表するとともに,この白書に関する責任は,専ら当研究所にあることを明らかにしておきたい。
昭和52年10月
山 根 治 法務総合研究所長