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 昭和51年版 犯罪白書 第2編/第5章/第1節 

第5章 犯罪傾向の進んだ犯罪者の処遇

第1節 概説

 犯罪者の中には,犯罪を繰り返して犯す者もいる。この種の犯罪者対策は,191F紀末葉以来世界各国における刑事政策上の重要課題の一つとされてきた。累犯者あるいは常習犯人の問題がこれである。
 累犯者とは,犯罪学的には,処罰の有無にかかわらず一度罪を犯した後再び罪を犯した者をいう。ところが,刑法は,懲役に処せられた者がその執行を終わり又は執行の免除があった日から5年以内に更に罪を犯し,有期懲役に処すべきときに,累犯加重という法的効果を与えているので(刑法56条,57条),刑法上の累犯者は,このような要件に該当する者のみを意味する。したがって,例えば,執行猶予中の再犯者などはこれに含まれない。他方,常習犯人については種々の見解があるが,一般的には,一定種類の犯罪の反覆累行に徴表される一定種類の犯罪への傾向(常習性)を有する者をいうと解されている。判例の中には「反覆累行する習癖」という文言を用いるものもあり,また,講学士は,性癖犯人,職業犯人,傾向犯人,状態犯人などの用語もあるが,必ずしも一般化したものとは言えない。このような常習犯人は,累犯者のうち特に犯罪傾向の進んだものであることが多く,両者は,密接に関連している。
 本章では,犯罪傾向の進んだ犯罪者という形で,その処遇上の問題を取り上げた。累犯者あるいは常習犯人というとらえ方をしなかったのは,累犯者では形式的に過ぎ,常習犯人では犯罪傾向の習癖化まで必要であるように解されるおそれがあるからである。犯罪傾向の進んだ犯罪者の範囲は必ずしも明確ではないが,処遇の観点からは,このような実質的なとらえ方をすることが許されるであろう。
 我が国においては,検察官による起訴猶予が活発に運用されており,また,刑の執行猶予も高い比率で言い渡されるようになっている。昭和50年における業過を除く刑法犯の起訴猶予率は38.1%,49年における懲役の執行猶予率は56.1%という状況である。このような検察及び裁判の運用は,必然的に,矯正・保護の処遇対象者に対し,量的にも質的にも影響を及ぼしていると考えられる。矯正の分野では,受刑者数の減少と犯罪傾向が進んでいると分類された受刑者の比率の増大という傾向が見られる。更生保護の分野では,法制度上の限界もあって,この種の犯罪者を処遇する場面は限られることになるが,特に更生緊急保護の対象となる満期釈放者や起訴猶予者等については,この種の犯罪者の一部として考慮すべきものがある。
 諸外国においては,いかにして刑務所人口を減らすかが当面の重要な課題とされているようであるが,我が国では,更に進んで,次の段階の施策に焦点を当てなければならない。その一つが,犯罪傾向の進んだ犯罪者の処遇である。この種の犯罪者に対する処遇を充実し,その処遇効果を向上させることは,本人の社会復帰を促進するのに必要であるが,同時に,同一人によって繰り返される犯罪を減少させ,我が国の犯罪情勢をより安定させることにも役立つのである。
 このような観点から,以下,法務総合研究所が行った研究の結果を援用しつつ,この種犯罪者の特性とその処遇上の問題点について述べることとする。