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 昭和50年版 犯罪白書 第3編/第1章/第2節/2 

2 学校・職場

(1) 学生・生徒の犯罪

 文部省の統計によれば,近年,我が国における義務教育就学率は,ほぼ100%に達している。また,義務教育終了者の定時制を含む高等学校進学率は,昭和30年においては51.5%であったが,49年には90.8%に達しており,更に,高等学校終了者の短期大学を含む大学進学率は,30年において18.4%にすぎなかったものが,49年には34.7%となり,高等教育においても,大衆教育的段階に入ったものと思われる。このような進学率の上昇は,少年人口中に占める学生・生徒の割合の増加をもたらすとともに,少年犯罪に占める学生・生徒の犯罪動向にも影響を及ぼしている。
 III-20表は,道路交通による業務上(重)過失致死傷を除く少年刑法犯について,最近5年間における各年次別検挙人員及び構成比を学職別に示したものである。昭和49年における学生・生徒の検挙人員は,前年より更に大幅に増加して8万1,738人となり,検挙人員中に占める割合も70.8%とここ数年来の最高を示している。

III-20表 学職別業過を除く少年刑法犯検挙人員(昭和45年〜49年)

 一般に,教育の普及は犯罪の抑止に寄与するとされているにもかかわらず,学生・生徒による犯罪が我が国の少年犯罪の大部分を占めるに至っているという事態は問題であると考えられるので,以下,その内容について分析する。
 III-21表は,業務上(重)過失致死傷を除く刑法犯で検挙された少年について,学職別,学校程度別に昭和45年を100とする指数によって最近5年間の推移を見たもので,学校程度別検挙人員を併記してある。まず,学生・生徒の検挙人員総数について見ると,47年の若干の減少を除き,45年以降逐年増加を続け,49年では指数128を示し,45年の水準を大きく上回っている。学校程度別について見ると,45年以来漸増傾向にあった中学生の刑法犯は,48年に急増した後,49年では指数122となり,45年以降最も高い数値を示している。高校生による刑法犯は,46年及び47年において若干の減少が見られたものの,48年に至って再び増加に転じ,49年では136の高指数となっている。大学生及び各種学校生による刑法犯は,47年の若干の減少を除き,おおむね横ばい傾向を示している。

III-21表 学職別・学校程度別業過を除く少年刑法犯検挙人員指数の推移(昭和45年〜49年)

 次に,昭和49年における学生・生徒の刑法犯検挙人員について,罪種別の増減状況を前年との比較において学校程度別に見たものが,III-22表である。学生・生徒の刑法犯検挙人員は,すべての学校程度を通じて,おおむね全罪種で増加を示している。すなわち,中学生においては,性犯罪及び粗暴犯がかなりの高率で増加したほか,前年において急増した凶悪犯や財産犯も,低率ながら引き続き増加傾向を示している。高校生においては,財産犯の増加が著しく,粗暴犯及び性犯罪の増加率はやや低下した。また,大学生においては,前年に比較して,財産犯が増加したほか,実数は少数であるが凶悪犯及び性犯罪が増加した。これらの学校程度別を通じて,前年より減少したのは,大学生の粗暴犯及び高校生の性犯罪にすぎない。中学生における粗暴犯,性犯罪,高校生の財産犯及び大学生における凶悪犯,性犯罪等の増加は顕著であり,今後の推移に注視しなければならない。

III-22表 学校程度別・罪種別業過を除く少年刑法犯検挙人員・増減率(昭和48年・49年)

 III-23表は,昭和48年に家庭裁判所が取り扱った一般保護少年について,教育程度別に人員及び構成比を5年前の43年と比較したものである。この期間における顕著な変化として,中学校中退者及び卒業者の減少と中学校在学者及び高校在学以上の者の増加が挙げられる。すなわち,これを両年の構成比の比較において見ると,中学生については,在学者が4.1%上昇しているのに対し,中退者が0.4%,卒業者が16.7%低下している。高校生については,在学者が7.8%,中退者が0.3%,卒業者が1.2%それぞれ上昇し,高校以上の教育歴を合計すると,その構成比は50.5%と過半数に達している。このように,49年においては,一般保護少年の高学歴化の傾向に加えて,中学校在学者の増加に伴う低年齢層化の傾向が更に明らかになった。

III-23表 一般保護少年の教育程度(昭和43年・48年)

 また,法務省特別調査によって,犯罪少年の学職別構成比を年齢層別に見ると,III-24表のとおりである。学生・生徒の占める割合は,年少少年においては,前年の90.6%から89.1%へと横ばいにあるが,中間少年においては,57.3%から60.1%へ,年長少年においては,19.5%から23.8%へと,それぞれ,上昇を示しており,年齢層が低くなるに従ってその割合は大きくなっている。以上のことから,最近における少年犯罪は,学生・生徒によって敢行される比率がますます増大し,特に高校生による犯行が激増していることが明らかである。

III-24表 犯罪少年の年齢層別・学職別構成比(昭和49年)

 そこで,学生・生徒,なかんずく,高校生による犯罪の特質を更に明確にするために,法務総合研究所が昭和47年に実施した「高校進学歴のある非行少年の特質に関する研究」を参考としながら,その問題点の二,三について考察することとする。
 調査は,少年院及び少年鑑別所に収容された男子の中卒者及び高校進学歴のある者を対象に,初発非行年齢,処分歴,問題行動歴等を指標とする非行特性,学力検査等による能力特性,学校生活に対する意識・態度及び家族観等を指標とする環境特性等を比較したものであるが,その概要は次のとおりである。
 まず,非行特性について見ると,初発非行年齢では,中卒者が14歳・15歳時(中学2年・3年相当)に多発しているのに対し,高校生では16歳・17歳(高校1年・2年相当)が最も多く,14歳・15歳がこれに次いでいる。処分歴では,両者ともに処分歴のある者がそれのない者より多くなっているが,審判不開始・不処分を除いた実質的な処分は中卒者に多く,高校生には少ない。また,問題行動の内容等を見ると,文身(いれずみ)は中卒者にそれがやや多く,家出経験は両者ともに有経験者が多い。シンナー等の吸引は,両者ともに未経験者が多くなっている。
 次に,中学校生活に対する態度及び対人関係等を考察すると,学校への帰属意識及び学習意欲は中卒者に比べて高校生が相対的に高く,学校に一応の意義を認めているものの,高校進学後は,勉学等への興味を失っている者が少なくない。級友との人間関係も,高校生にやや安定した傾向が認められている。
 なお,広義の能力特性を理解する指標としての学力について見ると,学力が普通以上の者は,中卒者で18.3%,高校生で40.7%となり,高校生では一応の学力水準に達しているものが少なくない。
 最後に,少年の家庭に対する意識や対家族態度を見ると,両者ともにおおむね家族との心理的連帯は保たれており,家庭に同一化しているものの,親への親和感や信頼感は中卒者に比べて高校生の方が強いものとなっている。
 最近における犯罪を犯した高校生の諸特徴を要約すると,まず,非行特性については,非行初発年齢は比較的高く,保護処分歴や問題行動歴のある者が少ないなど,一般に非行の深度はさほど深化していないこと,能力的側面では,総体的には標準学力よりやや劣っているものの,普通以上の学力を有し,知的適応能力において一応の水準に達している者が少なくないこと,環境特性としての学校の領域では,中学校生活への帰属意識や学習意欲が比較的高かったのに対して,高校進学後はそれらが低下していること,家庭,家族の関係では,一般に親の態度を直接的に受容しており,家庭生活に問題のある者が少ないことなどの諸点が挙げられる。高校教育のいわゆる義務教育化現象に伴って,今後はこのような人格的及び環境的に問題の少ない,いわば普通一般の高校生による犯罪に焦点を当てる必要があり,その対策が重要な課題である。

(2) 勤労少年の犯罪

 近年,産業の若年労働力に対する需要の増大にもかかわらず,少年人口の減少ないし停滞傾向に加えて,上級学校進学率が年々上昇しているため,勤労少年の数は減少する傾向にある。このような事情を反映して,勤労少年による犯罪は,最近,次第に減少を示しつつある。
 前掲III-20表によると,昭和49年における勤労少年の刑法犯検挙人員(交通関係による業務上(重)過失致死傷を除く。)は2万3,413人で,45年に比較して1万1,841人の減少となっている。また,少年刑法犯検挙人員中に占める勤労少年の割合も,45年には31.1%あったものが,49年には20.3%に激減し,学生・生徒におけるその割合の増大とは対照的な動きを見せている。
 更に,この推移について,昭和45年を100とする指数で示したIII-21表によると,49年は66で,最近5年間における最低の数値となり,大幅な減少となっている。
 III-25表は,法務省特別調査によって,昭和49年における有職犯罪少年の職業別分布を5年前の44年と対比したものである。実数では,いずれの職種も大幅な減少をみせているが,構成比では,事務員,店員が上昇を示しているのに対し,農林・漁業,工員,運転手・助手,職人及びサービス業が低下し,44年とは若干異なる動きとなっている。また,49年において最も多数を占めている職種は工員の36.6%で,店員,職人がこれに次ぎ,一方,最も少ない職種は農林・漁業の3.4%で,運転手・助手,事務員がこれに次いでいる。

III-25表 有職犯罪少年の職業別構成比(昭和44年・49年)

 次に,法務省特別調査により,就職経験のある犯罪少年の転職の有無について見ると,III-26表のとおりである。転職経験のある者は,前年より若干減少して,全体の44.9%となり,詐欺,脅迫,恐喝及び強姦などの罪を犯した者にそれが多い。最近においては,犯罪少年に限らず,一般少年の間にも転職経験者は多くなっており,転職経験をそのまま職業上の不適応や問題行動と見ることは必ずしも適当でないが,一般に,犯罪少年は,一般少年と比べて転職の頻度が多く,加えて,転職によって労働環境や労働条件が悪化する場合も少なくないので,勤労少年の非行化防止対策上これらの点に十分配慮する必要がある。

III-26表 罪名別転職の有無(昭和49年)

 一方,無職少年の刑法犯検挙人員は,昭和49年において,実数では前年より495名増加しているものの,構成比では8.9%と数年来の最低の数値(III-20表参照)を示し,全体として,引き続く減少傾向をうかがうことができる。最近においては,進学や就職の機会が増加してきているだけに,減少傾向にあるとはいえ,無職・徒遊の犯罪少年がなおこのような割合を占めていることは注目を要する。