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 昭和50年版 犯罪白書 第1編/第2章/第6節 

第6節 選挙犯罪

 昭和48年以前に全国的規模で行われた選挙犯罪の詳細については,従来の白書においてその都度検討してきたところであるので,ここでは,49年7月施行の参議院議員通常選挙の際に発生した選挙犯罪を中心に解説することとする。
 まず,過去5回の参議院議員通常選挙に際し,全国の検察庁が受理した選挙犯罪の人員と違反態様別の比率を見ると,I-61表のとおりである。参議院議員選挙に際しての選挙違反受理人員は,昭和37年の選挙の際の受理人員2万7,581人から,毎回5,000人ないし7,000人の減少を示し,46年の選挙の際の受理人員は1万432人となっていたが,49年の選挙では,前回より5,743人(55.1%)の増加を示している。違反態様別の百分比を見ると,49年の選挙では,買収(饗応,利害誘導,言論買収,その他の買収を含む。)が63.4%と最も高い率を占めていることが注目される。

I-61表 参議院議員通常選挙の選挙違反検察庁受理人員と比率(昭和37年,40年 43年 46年,49年)

 昭和49年7月施行の参議院議員通常選挙に際して受理された選挙違反の態様と前回分のそれとを比較してみると,I-62表のとおりである。49年の選挙では,買収が最も多く(全国区で56.0%,地方区で79.8%),文書違反(全国区29.2%,地方区9.4%)がこれに次いでいる。49年の選挙において,全国区で買収の受理が最も多かったことは,前回の選挙において全国区で文書違反の受理が最も多かったこと及び全国区における買収の比率が地方区でのそれをかなり下回っていたことと比較して特徴的である。これは,全国区の特定候補者の関係者多数が買収事犯によって検挙されたためである。前回の約1.9倍に増加した買収事犯についてその態様を見ると,後援会,会社,事業団体,組合等の組織を利用した選挙運動者間の現金買収事犯が多く,また,地方においては,議会の議員等地域の有力者を中心とした現金買収事犯が発生している。ここで,最近全国的規模をもって施行された衆議院議員,参議院議員及び統一地方選挙に際しての検察庁における選挙違反受理人員と買収事犯の比率を見ると,I-23図のとおりである。参議院議員選挙に際しての受理人員は,衆議院議員選挙及び統一地方選挙の場合よりも少なく,買収事犯の占める比率も小さい。

I-62表 参議院議員通常選挙における選挙違反態様別検察庁受理人員(昭和46年・49年)

I-23図 選挙違反の検察庁受理人員と買収事犯の比率(昭和42年,44年,46年,47年,49年)

 次に,昭和49年の参議院議員通常選挙に際して検察庁で受理された選挙違反事件の処理状況を違反態様別に見ると,I-63表のとおりである。起訴された者は4,438人,不起訴処分に付された者は7,740人で,両者の合計に占める起訴の割合は,36.4%となっている。起訴された者のうち最も多いのは,買収の3,019人(起訴総数の68.0%)で,文書違反の820人,戸別訪問の330人がこれに次いでいる。

I-63表 昭和49年7月施行の参議院議員通常選挙の際の選挙違反態様別処理人員(昭和49年12月31日現在)

 次に,選挙犯罪の裁判結果を最高裁判所事務総局の統計で昭和44年から48年までの5年間における第一審有罪人員によって見ると,I-64表のとおりである。第一審有罪人員のうち,懲役又は禁錮に処せられた者は約9%ないし33%であるが,その97%以上に執行猶予が付されているので,選挙犯罪により第一審で有罪の裁判を受けた者のうち,自由刑の実刑に処せられた者は,最近5年間では約519人に1人の割合となっている。

I-64表 選挙犯罪第一審有罪人員(昭和44年〜48年)

 ところで,一部の軽微な選挙犯罪を除き,選挙犯罪で罰金刑以上の刑に処せられた者は,原則として,一定期間公民権が停止されるが,裁判所は情状により公民権を停止せず,又はその期間を短縮することができることになっている(公職選挙法252条)。I-65表は,昭和44年以降48年までの第一審における公民権の不停止・停止期間の短縮の規定の運用状況を見たものである。公民権の不停止は,通常事件で7.0%以下,略式事件で2.7%以下にとどまっているが,停止期間の短縮は,通常事件で25.6%ないし36.1%,略式事件で70.6%ないし88.7%となっている。略式事件では,公民権停止期間を短縮される者の比率が上昇の傾向を示している。

I-65表 第一審における公民権不停止・同停止期間短縮の有罪人員に占める比率(昭和44年〜48年)

 迅速な裁判が要請されるのは,選挙犯罪の審理に限られることではないが,選挙犯罪の中でも,当選人等に係る選挙犯罪に関する刑事事件の審理については,公職選挙法に特に規定を設け,裁判所は,事件を受理した日から百日以内に判決するように努めなければならないとしている(同法253条の2)。そこで,通常第一審における選挙違反事件のうち,いわゆる百日裁判事件に係る事件の審理状況を最高裁判所事務総局の資料によって見ると,昭和44年から48年までの5年間に既済となり同裁判所事務,総局刑事局に報告のあった229人中,100日以内に既済となった者は19人(全体の8.3%)で,400日を超すものが全体の33.6%あり,平均審理日数は401.6日となっている。
 次に,I-66表は,昭和44年から48年までの5年間に終局裁判のあった通常第一審全事件と公職選挙法違反事件とについて審理期間を比較したものであるが,選挙違反事件の被告人一人当たりの平均開廷回数は8.3回で,全事件の4.2回のほぼ2倍に当たっているのに対し,その平均審理期間は13.9月で,全事件の5.6月の約2.5倍となっていて,この種事件が審理に手間取っていることを示している。

I-66表 通常第一審全事件と公職選挙法違反事件の審理期間の比較(昭和44年〜48年の累計)