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 昭和49年版 犯罪白書 第3編/第3章/第2節/1 

第2節 交通犯罪の検察と裁判

1 交通犯罪の検察

 全国の検察庁における昭和38年以降の業務上(重)過失致死傷事件(その大部分は,自動車交通によるものである。)及び道路交通法違反事件の新規受理人員の推移を,全事件及び刑法犯の新規受理人員と比較してみると,III-137表のとおりである。道路交通法違反事件の全事件に占める割合は,40年には83.6%にまで上昇したが,43年7月からの交通反則通告制度の実施(少年に対する適用は45年8月から)により,45年には52.5%まで下降した。しかし,その後は再び上昇の傾向を示しており,48年には60.8%となっている。また,業務上(重)過失致死傷の刑法犯全体に占める割合は,44年以降は60%台を維持しており,48年は61.7%である。その両者を合計したいわゆる交通事犯が全事件中に占める割合は,48年にはに80.7%に達している。

III-137表 交通事犯検察庁新規受理人員(昭和38年〜48年)

 次に,道路交通法以外の交通関係法令違反の新規受理人員をみると,III-138表のとおりである。昭和48年の新規受理人員数を,47年と比較すると,道路運送法違反が増加しているほかは,いずれも減少している。38年の新規受理人員数を100とした指数でみると,自動車損害賠償保障法違反が33,道路運送法違反が41,道路運送車両法違反が16と,いずれも減少しているのに対し,自動車の保管場所の確保等に関する法律違反は1,997と増加している。

III-138表 交通関係法令違反検察庁新規受理人員(昭和38年,44年〜48年)

 ところで,このようにして受理された交通犯罪は,検察庁においてどのように処理されているであろうか。III-139表及びIII-140表は,業務上過失致死傷及び重過失致死傷について,昭和38年及び最近5年間の検察庁における処理状況をみたものである。業務上過失致死傷の起訴率は,44年には72.8%であったが,逐年わずかずつ低下し,48年には67.3%となっている。起訴の内訳をみると,起訴総数の96.3%ないし97.3%は略式命令請求であり,公判請求は,2.7%ないし3.7%にすぎない。重過失致死傷の起訴率は,44年の71.2%から48年の53.1%へと逐年下降を続けている。重過失致死傷の起訴総数に占める公判請求の比率は,15.6%ないし21.3%で,業務上過失致死傷の場合より高率であるが,これは,重過失致死傷には,業務性も認められず,かつ,運転技術の極めて未熟な無免許運転者による危険性の高い事案が含まれていることによるものであろう。

III-139表 業務上過失致死傷の検察庁終局処理人員と構成比(昭和38年,44年〜48年)

III-140表 重過失致死傷の検察庁終局処理人員と構成比(昭和38年,44年〜48年)

 次に,業務上(重)過失致死事件に限って,処理状況をみたのがIII-141表である。これによると,公判請求の比率は,昭和38年には36.5%であったが,48年には46.6%と上昇している。この比率は,業務上(重)過失傷害を含めた比率と比較すると,著しく高率となっている。

III-141表 業務上(重)過失致死の検察庁終局処理人員と構成比(昭和38年,44年〜48年)

 なお,昭和48年に業務上(重)過失致死傷によって起訴された者について,罪名別に,起訴区分の比率を示したのが,III-20図である。公判請求の比率は,業務上過失致死(46.7%),重過失致死(33.8%),重過失傷害(13.1%),業務上過失傷害(2.4%)の順となっている。罪名によって公判請求の比率にかなりの差異があることが分かる。

III-20図 業務上(重)過失致死傷罪名別起訴区分の百分比(昭和48年)

 次に,道交違反(道路交通法及び自動車の保管場所の確保等に関する法律違反)事件の処理状況をみると,III-142表のとおりである。起訴率は,昭和44年の91.2%から逐年上昇して,48年には95.9%となっている。起訴区分別の割合をみると,97.3%ないし99.4%が略式命令請求であり,公判請求は各年とも1%未満である。また,即決裁判請求の割合は逐年下降しており,48年では0.2%にすぎない。

III-142表 道交違反の検察庁終局処理人員と構成比(昭和38年,44年〜48年)

 なお,最近10年間における業務上(重)過失致死傷事件及び道交違反事件の起訴率の推移を,業過を除く刑法犯及び道交違反を除く特別法犯のそれと比較してみると,III-21図のとおりである。最近における業務上(重)過失致死傷事件の起訴率の低下傾向と道交違反事件の起訴率の上昇傾向をうかがうことができる。

III-21図 交通犯罪の起訴率の推移(昭和39年〜48年)