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 昭和49年版 犯罪白書 第3編/第1章/第3節/3 

3 少年審判

 家庭裁判所の審判の対象となる少年は,犯罪少年,触法少年及び虞犯少年で,これら対象少年の年齢の下限は,原則としては14歳であるが,触法少年と14歳未満の虞犯少年については,都道府県知事又は児童相談所長から送致されたときに限って,審判の対象となる。また,年齢の上限は,原則として19歳11か月であるが,家庭裁判所で保護観察に付する旨の決定を受けた少年が,保護観察継続中に少年法3条1項3号に掲げる虞犯事由があるとして保護観察所長から通告された場合には,その者が20歳以上であっても審判の対象となり,また,本人に対し審判権がなかったこと等を理由とする保護処分取消事件,少年院から退院させるのが不適当と認められる場合の収容継続申請事件及び少年院仮退院者を再収容するための戻し収容申請事件においては,20歳以上の者も審判の対象となる。これらの事件を準少年保護事件と呼ぶが,昭和48年における準少年保護事件の既済人員は,355人であり,このうち,保護処分取消申請は皆無で,収容継続申請が333人(93.8%),戻し収容申請が22人(6.2%)で,これら355人のうち332人(93.5%)が認容されている。

(1) 事件受理

 昭和48年における少年保護事件の全国家庭裁判所の受理人員総数は,III-51表に示すとおり,45万5,376人であり,そのうち,道路交通保護事件(道路交通法違反及び自動車の保管場所の確保等に関する法律違反事件をいう。)が56.6%を占めている。一般保護事件(少年保護事件のうち,道路交通保護事件を除いたもの)としては,刑法犯が38.8%,特別法犯が3.9%,虞犯が0.7%という割合になっている。

III-51表 家庭裁判所における少年保護新受事件の受理人員(昭和44年〜48年)

 前年に比べて,受理総数は,248人の増加を示しているが,このような増加は,刑法犯が6,192人減少した一方,特別法犯(2,836人の増),道路交通保護事件(5,231人の増)が,これを上回る増加を示したことによるものである。
 次に,受理経路別に,事件受理状況をみると,III-52表のとおりである。検察官からの送致(14歳以上20歳未満で禁錮刑以上の罪を犯した者)が89.1%,司法警察員からの送致(14歳以上20歳未満の虞犯少年及び罰金刑以下の罪を犯した犯罪少年)が3.2%であり,他の家庭裁判所からの送致又は回付は7.4%で,都道府県知事又は児童相談所長からの送致,一般人又は保護観察所長からの通告あるいは家庭裁判所調査官の報告によるものは,いずれも0.1%以下にすぎない。

III-52表 少年保護事件の家庭裁判所受理経路別人員(昭和48年)

(2) 調査

 家庭裁判所は,受理した少年事件について,審判を行うため,少年の個性・環境並びに行状等を調査しなければならない。この調査に当たるものとして,家庭裁判所に家庭裁判所調査官が置かれ,また,家庭裁判所の請求により,少年の資質的,環境的要因を総合した科学的診断をする法務省所管の少年鑑別所が全国に置かれている。
 最近5年間の終局決定総数中で,家庭裁判所の行う調査の一環として少年鑑別所で心身の検査を行った者の一般保護事件終局総数に対する割合は,昭和39年の18.3%以後,逐年減少の傾向にあり,47年においては8.2%(沖縄県を除く。)にすぎない。
 また,家庭裁判所は,少年に対する保護処分を決定するため必要があると認めるときは,相当の期間,少年を家庭裁判所調査官の観察に付し,併せて,遵守事項を定めてその履行を命じたり,条件を付して保護者に引き渡したり,適当な施設,団体又は個人に補導を委託したりすることができる。これが,いわゆる調査活動の一環としての試験観察の制度である。
 この試験観察に付された少年の数は,III-53表に示すとおりである。最近5年間の受理総数に対する比率は,逐年上昇し,昭和47年においては,43年の約4倍となり,10年前の37年の試験観察決定総数1万5,286人(受理総数に対する比率1.4%)に比べれば,その決定総数は約6倍であり,受理総数に対する比率においては,ほとんど14倍近い比率に上昇していることが注目される。更に,一般保護事件と道路交通保護事件の試験観察決定人員がそれぞれの新受人員に対する百分比の最近5年間の推移をみると,一般保護事件では,47年の比率は43年の比率のほとんど2倍になっているのに対し,道路交通保護事件における比率は,同じ期間に5倍以上の上昇を示している。このことから明らかなとおり,最近の試験観察決定の増加は,道路交通保護事件に対する決定比率の上昇に主として基づくものである。また,一般保護事件を,業務上(重)過失致死傷事件と,これを除いた一般保護事件とに分けて試験観察を経た少年の比率をみたのが,III-54表である。これによると,43年には,一般保護事件で試験観察決定を経た少年の比率は,業務上(重)過失致死傷事件とその他の一般保護事件とは,ほとんど相半ばしていたが,業務上(重)過失致死傷事件の比率は逐年増大し,47年には,ほとんど80%近くの比率にまで増大している。このことから明らかなとおり,最近における一般保護事件の少年に対する試験観察決定の増加は,業務上(重)過失致死傷事件の少年に対する試験観察決定の比率の増大に主として基づくものである。

III-53表 試験観察人員(昭和43年〜47年)

III-54表 一般保護事件における試験観察人員(昭和43年〜47年)

 次に,昭和47年に試験観察に付された少年8万8,284人のうち,遵守事項を定めてその履行を命じたり,条件を付して保護者に引き渡したりする措置をとられた者は3万6,058人(40.8%),適当な施設,団体又は個人に補導を委託された者は5万2,226人(59.2%)となっている。5年前の43年には,遵守事項を定めてその履行を命じたり,条件を付して保護者に引き渡したりする措置をとられた者が,68.4%で,補導を委託された者は31.6%であったが,後者の比率は逐年上昇し,45年には両者の比率は相半ばし,46年以後は,補導委託の比率が,その他の試験観察を大きくしのぐに至ったものである。
 更に,一般保護事件の少年で試験観察を経た者を試験観察の種類別に比較したのが,III-55表である。これによると,一般保護事件の中でも,業務上(重)過失致死傷事件の少年は,家庭裁判所調査官の観察に併せて適当な施設,団体又は個人に身柄付きで補導を委託された者がその他の一般保護事件少年と比べて著しく多くなっており,事件によって試験観察の種類,態様が著しく異なることが注目される。

III-55表 一般保護事件試験観察種類別人員比較(昭和47年)

 次に,昭和47年に試験観察を終了した少年について,試験観察の期間をみると,III-56表のとおりである。3月以内で終了した者が,一般保護事件では65.9%,道路交通保護事件では81.2%となっているが,6月以上1年以内という比較的長い期間の試験観察を受けた者が,一般保護事件,道路交通保護事件を合わせて3,907人もあり,1年を超える長期間にわたって試験観察を続けられていた者が469人に及んでいる。

III-56表 試験観察の期間(昭和47年)

 試みに,昭和47年における一般保護事件の試験観察を経た少年2万5,805人に対する終局処分についてみると,III-57表のとおりで,検察官送致0.9%,保護観察6.5%,少年院送致1.6%,不処分87.3%,審判不開始1.4%などとなっており,9割近くが不処分となっている。

III-57表 試験観察を経た少年の終局区分別処分状況(一般保護事件)(昭和47年)

 最近5年間の試験観察を経た少年の終局処分の年次別構成比の変遷をみると,検察官送致は,0.9%ないし1.2%で横ばい状態であるが,保護観察は昭和43年の12.7%から47年の6.5%へ,少年院送致は4.2%から1.6%へ,いずれも逐年下降し,不処分のみが43年の73.4%から47年の87.3%へと逐年上昇の一途をたどっている。審判不開始は43年の3.8%から逐年下降し,47年には1.4%となっているが,その多くは試験観察中に所在不明となったため審判に付することかできなくなった者であるが,その数は,47年では244人となっている。

(3) 処分の状況

 家庭裁判所は,少年事件について調査を行った結果,所在不明その他の理由によって審判に付することができない場合,又は非行が極めて軽微等のために審判に付することが相当でない場合には,審判を開始しない旨の決定をする。調査の結果,審判を開始するのが相当と認められる場合には,家庭裁判所は,その旨の決定をして,直接審理をする。その結果,児童福祉法の規定による措置を相当と認めるときは,都道府県知事又は児童相談所長に送致し,16歳以上の少年について刑事処分を相当と認めるときは,検察官に送致する旨の決定をする。また,保護処分に付するのが相当と認めるときは,(1)保護観察所の保護観察に付すること,(2)教護院又は養護施設に送致すること,(3)少年院に送致すること,のいずれかの保護処分を決定し,保護処分に付することができないか又はその必要がないと認められる場合には,不処分の決定を行う。なお,調査又は審判の結果,本人が既に20歳以上であることが判明した場合には,決定で,検察官に事件を送致しなければならない。
 これらの処分状況を,少年保護事件の統計によってみると,昭和25年以来45年までは,終局決定総数中に占める割合のうち最も多い処分は審判不開始で,不処分がこれに次いでいた。しかし,29年以降,不処分決定の占める割合は逐年漸増の傾向を示し,III-58表にみるとおり,46年に至って,不処分と審判不開始の順位が入れ替わり,48年では終局決定総数中,不処分が50.6%,審判不開始が28.3%となっている。この両者を合計すると,終局決定総数の78.9%に達する。46年以降,審判不開始の割合が減少し,不処分と順位が入れ替わったのは,45年8月から交通反則通告制度が少年にも採用されたためと思われる。これら二つの決定に次いで高率の終局決定は,刑事処分相当を理由とする検察官送致決定で,48年では14,0%であるが,47年に引き続き減少の傾向にある。

III-58表 少年保護事件の終局決定別家庭裁判所処分状況(昭和44年〜48年)

 他方,保護処分のうち,最も多いのは保護観察の決定で,終局決定総数中に占めるその割合は,37年の2.4%から逐年上昇傾向にあり,48年では5.4%となっている。次に多い保護処分は少年院送致決定であるが,35年の1.3%から逐年下降傾向にあり,48年では0.6%となっている。
 家庭裁判所の終局決定のうち,道路交通保護事件を除いた一般保護事件について,昭和48年における処分状況を前年と対比してみたのが,III-59表である。これによると,48年においては,一般保護事件の終局決定総数中に占める割合は,保護観察が7.5%,少年院送致が1.3%,刑事処分相当を理由とする検察官送致が7.2%である。これらは,いずれも逐年減少の傾向にあるものである。

III-59表 終局決定別処分状況(一般保護事件)(昭和47年・48年)

 ちなみに,10年前の昭和38年の一般保護事件の処分状況と比較したのが,III-8図である。この10年間における保護処分の減少と不処分の増加が明らかであろう。

III-8図 終局決定別処分状況(一般保護事件)(昭和38年・48年)

 昭和47年に終局決定のあった一般保護事件のうち,刑法犯及び特別法犯並びにその主要罪名について処分状況をみたのが,III-60表である。これによると,刑法犯総数のうち最も多い決定は,不処分と審判不開始で,これらを合計すると78.6%を占めていることが認められる。罪名別にみると,暴行の92.1%,窃盗の88.5%,傷害の81.7%は,不処分又は審判不開始の決定を受けている。刑法犯のうちで不処分・審判不開始の決定を受けた割合が最も低いのは,殺人の20.3%である。

III-60表 罪名別・終局決定別処分状況(一般保護事件)(昭和47年)

 刑事処分相当を理由とする検察官送致の決定を受けた刑法犯は,刑法犯総数の10.1%である。罪名別にみると,殺人の42.3%,業務上(重)過失致死傷の22.4%,強姦の11.6%,強盗の9.2%が,この決定を受けているが,業務上(重)過失致死傷を除いた刑法犯は,わずかにその1.2%が検察官送致になっているにすぎない。
 保護観察に付された者は,刑法犯総数の8.6%であるが,罪名別にみると,強姦の37.2%,強盗の34.0%,放火の23.5%,恐喝の18.1%,殺人の13.0%,傷害の12.8%などが,この処分を受けている。
 少年院送致となった者は,刑法犯総数の1.6%であるが,罪名別にみると,放火の26.5%,強盗の22.5%,殺人の22.0%,強姦の17.5%などが,この処分を受けている。
 次に,特別法犯について処分状況をみると,やはり不処分,審判不開始を合わせた比率が最も高くて94.1%を占め,保護観察が4.0%,刑事処分相当を理由とする検察官送致が1.0%,少年院送致が0.6%となっている。罪名別にみると,銃砲刀剣類所持等取締法の74.1%が審判不開始,19.7%が不処分,4.4%が保護観察,少年院送致は0.8%,刑事処分相当を理由とする検察官送致は0.5%である。売春防止法の42.9%が不処分,32.7%が保護観察,14.3%が審判不開始,8.2%が少年院送致,2.0%が刑事処分相当を理由とする検察官送致となっている。
 昭和47年において,刑事処分相当を理由として検察官送致のあった刑法犯の少年のうち,主要8罪名(窃盗,強盗,恐喝,傷害,強姦,殺人,放火,業務上(重)過失致死傷)について,年齢層別に検察官送致決定の比率をみたものが,III-61表である。これによると,16歳・17歳の中間年齢層の少年については,全刑法犯のわずかに5.0%の者が検察官送致となっているのに対し,18歳・19歳の年長少年のそれは,20.1%の高率を示し,年齢層によって,検察官送致決定に大きな差異がある。このような年齢層別にみた検察官送致決定率の差の大きいものを,罪名別に比べてみると,殺人において最も大きく,次いで,強盗,業務上(重)過失致死傷,放火の順になっており,差異の最も小さいのは窃盗である。

III-61表 主要罪名別・年齢層別検察官送致決定率(昭和47年)

 なお,検察官は,事件を家庭裁判所に送致する際,少年の処遇に関して意見を付けることができることとされているが,III-62表は,昭和48年中に,家庭裁判所で終局決定がなされた少年事件について,検察官の処遇意見と家庭裁判所の終局決定とを,刑法犯,過失傷害を除いた刑法犯,特別法犯,道交違反に分けて対比し,その合致率をみたものである。これによると,総数では,刑事処分相当の意見を付した事件の31.8%,少年院送致相当の意見を付した事件の27.6%,保護観察相当の意見を付した事件の16.5%がそれぞれ合致している。刑法犯では,刑事処分相当は33.1%,少年院送致相当は27.9%,保護観察相当は20.0%の合致をみているが,刑法犯のうち過失傷害を除外した場合においては,刑事処分相当の合致率は26.4%となる。もっとも,少年院送致相当と保護観察相当の合致率は,過失傷害を除外しなしい場合と大差はない。

III-62表 検察官の処遇意見と家庭裁判所終局決定との合致率(昭和48年)