前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 昭和49年版 犯罪白書 第1編/第3章/第3節 

第3節 中小都市の犯罪動向

 昭和48年における刑法犯(交通関係の業務上(重)過失致死傷を除く。)の発生件数の市・町村別構成比をみると,市における発生件数の合計は,全国総件数の86.6%を占めているが,町村における発生件数の合計は,13.4%を占めるにすぎない。また,人口(住民基本台帳に基づく48年3月31日現在の人口)についてみると,市の人口合計は,全国総人口の74.8%,町村の人口合計は25.2%であるから,一般的にいって,市における刑法犯発生件数の人口比は町村におけるそれよりも高率である。
 ところで,人口が100万人以上又はこれに近い10大都市(東京都特別区と大阪,横浜,名古屋,京都,神戸,札幌,北九州,川崎,福岡の9市)を除く市(以下,中小都市という。)における刑法犯の発生率(人口10万人当たりの発生件数をいう。本節において以下同じ。)をみると,昭和48年では1,131で,10大都市(1,644)よりも低い。しかし,同年の中小都市における刑法犯発生件数の合計は,市全体における刑法犯発生件数の64.0%を占め,量的には最も大きな部分を占めているのみならず,一部の中小都市では犯罪が増加する傾向があり,全国的な減少傾向とは異なる動きをみせているので,中小都市における犯罪対策は現下緊急を要する課題の一つとなっている。
 昭和48年版の白書では,大都市犯罪の国際比較を行いつつ我が国の大都市における犯罪動向を概観した。そこで,本白書では,これに引き続いて我が国の中小都市における犯罪動向を考察し,その実態を明らかにしたいと考える。
 まず,昭和48年における中小都市の人口及び刑法犯について,市の人口規模別に構成比をみると,I-23図のとおりである。人口では,10万未満の市の人口が中小都市総人口の40.6%を占めて最も多く,以下,人口10万以上の市が19.9%,人口20万以上の市が17.4%,人口30万以上の市が10.8%,人口40万以上の市が6.2%,人口50万以上の市が5,2%となっている。刑法犯発生件数では,人口10万未満の市における刑法犯発生件数が中小都市全体における刑法犯発生件数の32.5%を占めて最も多く,以下,人口10万以上の市の21.6%,人口20万以上の市の19.6%,人口30万以上の市の12.5%,人口40万以上の市の7.3%,人口50万以上の市の6.5%の順となっている。

I-23図 中小都市の人口規模別人口及び刑法犯発生件数の構成比(昭和48年)

 次に,中小都市の人口規模別に,昭和48年の刑法犯,凶悪犯(殺人,強盗・同致死傷,強盗強姦・同致死,放火,強姦・同致死傷),粗暴犯(兇器準備集合,暴行,傷害・同致死,脅迫,強要,恐喝),窃盗,風俗犯(賭博,強制わいせつ・同致死傷,公然わいせつ,わいせつ文書領布等)のそれぞれについて,発生率をみたのが,I-24図である。

I-24図 中小都市の人口規模別・罪種別犯罪発生率(昭和48年)

 まず,刑法犯の発生率をみると,最も高率を示しているのが人口50万以上の市(1,415)で,以下,人口40万以上の市 (1,338),人口30万以上の市 (1,316),人口20万以上の市(1,276),人口10万以上の市(1,228),人口10万未満の市(905)の順となっており,人口規模の大きい都市ほど高い発生率を示している。刑法犯の発生率は,その80%以上を占める窃盗の発生率に支配されるといってよいが,窃盗の発生率は,おおむね刑法犯の発生率の順位と一致し,人口規模の大きい都市ほど発生率の高ぐなる傾向がうかがわれる。
 次に,凶悪犯の発生率では,人口30万以上の市(9.7)が最も高く,次いで人口40万以上の市(9.3),人口10万以上の市(9.0),人口10万未満の市(8.5),人口20万以上の市(8.3),人口50万以上の市 (8.2)の順となっており,刑法犯及び窃盗とは異なる動きを示し,中規模の都市において発生率が高くなっている。
 次に,粗暴犯では,人口40万以上の市における発生率が87で最も高く,以下,人口30万以上の市(85),人口10万以上の市(75),人口50万以上の市及び人口20万以上の市(74)の順で,人口10万未満の市の発生率が66で最も低率である。中規模の都市において発生率が高いことは凶悪犯と同様であるが,小規模の都市における発生率が特に低くなっている。
 最後に,風俗犯の発生率をみると,最も高いのが人口40万以上の市(11.4)で,以下,人口10万以上の市〈10.4),人口30万以上の市及び人口20万以上の市(9.5),人口10万未満の市(8.8),人口50万以上の市(7.6)の順となっている。中小規模の都市ではさほどの差異はないが,大規模の都市における発生率が特に低くなっている。このように,中小都市を人口10万ごとのグループに区分して各罪種別に刑法犯の発生率を考察すると,刑法犯及び窃盗は,都市の規模が大きいほど犯罪率が高くなる傾向にあること,並びに凶悪犯及び粗暴犯は,市の人口規模によって区々であるが,おおむね中規模の都市において高い発生率を示していることを指摘することができょう。
 次に,都市の特性を示すと考えられる若干の指標により市を区分して,犯罪発生率を考察してみることとする。
 まず,昼間人口比の高い市と昼間人口比の低い市とについて犯罪発生率をみてみよう。I-25図は,昭和48年3月31日現在の人口が10万ないし30万の市のうち,45年の国勢調査による昼間人口(従業地・通学地による人口)の夜間人口(国勢調査人口)に対する比率(昼間人口比)が110以上の11市(昼間人口比の高い市)と90未満の27市(昼間人口比の低い市)について,罪種別に48年の犯罪発生率をみたものである。これによると,刑法犯では,昼間人口比の高い市の発生率(1,463)が昼間人口比の低い市の発生率(958)の1.5倍となっており,罪種別でも,知能犯が3.3倍,粗暴犯及び風俗犯が1.8倍,窃盗が1.4倍,凶悪犯が1.3倍といずれも昼間人口比の高い市の方が高い発生率を示している。昼間人口の夜間人口に対する比率は,各都市の周辺都市への寄与及び依存の関係を示すものであるが,昼間人口比の高い11市は,高松,富山,福井,水戸など県庁所在地の市9市と松本,久留米の両市で,いずれも地方の中核都市であり,昼間人口比の低い27市は,松戸,高槻,市川,春日井などいずれも京浜,中京,阪神などの大都市圏のベッドタウン的性格の強い市である。したがって,見方を換えれば,地方中核都市における犯罪発生率は,ベッドタウン的都市における犯罪発生率より一般的に高率であるといってよいであろう。

I-25図 昼間人口比の差による罪種別刑法犯発生率(昭和48年)

 次に,第三次産業人口比の高い市と低い市とについて,犯罪発生率の差異をみてみよう。I-26図は,昭和48年3月31日現在の人口が10万ないし30万の市のうち,45年の国勢調査による第三次産業の就業者数の百分比が65以上の13市(第三次産業人口比の高い市)と40以下の12市(第三次産業人口比の低い市)について,罪種別に48年の発生率をみたものである。刑法犯の発生率は,第三次産業人口比の高い市が1,865,第三次産業人口比の低い市が893で,前者は後者の2.1倍の高率となっている。これを罪種別の発生率でみても,第三次産業人口比の高い市の発生率が第三次産業人口比の低い市の発生率を大幅に上回っており,凶悪犯が2.0倍,粗暴犯が2.4倍,窃盗が2.0倍,知能犯が2.9倍,風俗犯が1.9倍と,いずれもほぼ2倍ないし3倍の高率を示している。第三次産業人口比の高い13市は,盛岡,高知など県庁所在地の市6市,函館,釧路など北海道の中核都市4市,ベッドタウン的性格をもつ立川,武蔵野の両市及び温泉都市別府であり,一方,第三次産業人口比の低い12市は,一宮,豊田,日立,足利,小山,桐生,太田,市原,富士,安城,鈴鹿,和泉の各市であり,概して,第二次産業人口比の高い市が多い。第二次産業人口比が高い市は第二次産業型の都市であり,第三次産業人口比が高い市が第三次産業型の都市であるとは必ずしもいえないけれども,このことは,一般的にいって,商業的都市の方が工業的都市より犯罪発生率が高いことを示しているといってよいと思われる。

I-26図 第三次産業人口比の差による罪種別刑法犯発生率(昭和48年)

 次に,昼間人口比の差及び第三次産業人口比の差による市のグループ別に刑法犯の罪種別構成比をみてみよう。I-27図は,前記の昼間人口比の高い市と昼間人口比の低い市,第三次産業人口比の高い市と第三次産業人口比の低い市のそれぞれについて,刑法犯の罪種別構成比をみたものである。これによると,昼間人口比の高い市は,昼間人口比の低い市においてよりも,粗暴犯,知能犯の占める割合が大きく,窃盗の占める割合が小さいが,その他の罪種の構成比では,ほとんど差異はみられない。また,第三次産業人口比の高い市と第三次産業人口比の低い市との比較でも,第三次産業人口比の高い市の方が,第三次産業人口比の低い市よりも,粗暴犯,知能犯の構成比が大きく,窃盗の構成比が小さいが,その他の罪種の構成比ではほぼ同じである。これらの各都市をみてみると,刑法犯中に占める粗暴犯及び知能犯の割合は,一般的にいって,地方中核都市において高率を示しているといえよう。

I-27図 昼間人口比及び第三次産業人口比の差による刑法犯罪種別構成比(昭和48年)

 ところで,昭和48年における刑法犯の発生率を全国,10大都市,中小都市,町村のそれぞれについて47年と比較してみると,I-94表のとおりである。これによると,48年の刑法犯の発生率はいずれも低下しているが,47年の発生率を100とする指数でみると,全国が96,10大都市が96,中小都市が95,町村が97となっており,それぞれの発生率の低下の割合には,さほどの差異はみられない。

I-94表 市及び町村別刑法犯発生率(昭和47年・48年)

 次に,人口規模別に,中小都市における昭和48年の刑法犯,凶悪犯,粗暴犯,窃盗,知能犯,風俗犯の発生率を47年と対比してみると,I-95表のとおりである。刑法犯の発生率はおおむね減小しているが,人口50万以上の市において減少の割合が大きい。次に,罪種別にみてみると,凶悪犯の発生率は,いずれも減小しているが,人口50万以上の市において減小の割合が大きい。粗暴犯の発生率は,人口30万以上の市及び人口10万未満の市を除き,いずれも減小しているが,人口40万以上の市及び人口50万以上の市において減小の割合が大きい。窃盗の発生率は,人口40万以上の市でわずかながら増大したほかは,いずれも減小している。知能犯の発生率は,人口40万以上の市及び人口20万以上の市で若干増大したが,その他は減小している。風俗犯の発生率は,いずれもかなりの減小を示している。各罪種な通じ,人口50万以上の市における発生率の減小が著しい。

I-95表 中小都市の人口規模別・罪種別犯罪発生率(昭和47年・48年)

 近年,京浜,中京,阪神などの大都市圏への人口集中傾向が鈍化し,県庁所在地などのいわゆる地方中核都市への人口集中の傾向が現れ始めているといわれる。例えば,昭和48年3月31日現在の中小都市における住民基本台帳による人口を47年3月31日現在の人口と比較してみると,千葉市6.0%,奈良市5.3%,津市5.2%,浦和市5.0%,大分市3.7%,水戸市2.8%,宮崎市2.7%というように人口が増加しており,中小都市のうち県庁所在地の市全体(那覇市を除く。)の人口増加率は3.6%と48年における全国(沖縄県を除く。)の人口増加率1.2%を大幅に上回っている。そして,このことは,農山村部から大都市圏へ流出していた人々が,出身県の中核都市にまでもどるいわゆる「Jターン現象」(Uターンの途中で止まるためJ字型となる趣旨)が生じ始めていることを示すものといわれている。このような人口移動に伴う都市の社会構造の変化が今後我が国の都市犯罪殊に中小都市の犯罪動向にどのような影響を及ぼすかは,極めて注目されるところである。