前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 昭和49年版 犯罪白書 第1編/第3章/第2節/1 

1 地域開発の進展

 我が国における地域開発は,その計画及び実施状況をおおむね三つの段階に大別することができよう。
 第一の段階は,昭和25年に制定された国土総合開発法に基づき,従来,全国,地方,都道府県及び特定地域の四種に分かれた開発計画を国全体の総合計画に組み込み,体系的・有機的な推進を予定した時期である。
 第二の段階は,昭和37年に策定された全国総合開発計画(以下,旧全総という。)に基づき大都市における人口及び産業の過度集中の防止,地域格差の是正,国土及び国民経済の均衡ある開発のために,新産業都市(以下,新産という。)あるいは工業整備特別地域(以下,工特という。)が指定され,その成立,発展が推進された時期である。
 また,第三の段階は,旧全総による国土利用の硬直化是正をねらいとして,昭和44年に策定された新全国総合開発計画(以下,新全総という。)により,60年を計画目標に全国を一単位とした高度経済社会の将来像を描き,国策的レベルで開発が推進されるようになった時期である。
 これらを通じて,旧全総以降の開発計画は,地域開発の拠点として,また,開発連鎖反応の中核として,開発地域における中心都市を構想し,一貫して新産及び工特の建設,整備を促進してきた。その展開状況は,おおむね次のとおりである。
 I-19図は,新産(15都市)及び工特(6地域)の全配置計画を示したものである。これによると,国土全体は,自然条件,生産条件に比較的恵まれた中央地帯,それらの条件がやや劣る北東地帯及び西南地帯の三ブロックに分類されるが,新産及び工特は,各ブロックの特性に応じ,地域開発の中核又はその地域の中心都市として機能するよう配置されている。

I-19図 新産業都市・工業整備特別地域の配置

 次に,これらの地域における開発の状況を,人口,工業出荷額等の基本計画とその進ちょく率(計画目標に対する達成の割合)からみたのが,I-82表である。

I-82表 新産業都市・工業整備特別地域の現況

 まず,開発の一指標として工業出荷額をみると,新産においては,松本・諏訪,東予,富山・高岡,岡山県南及び仙台湾,工特においては備後,東駿河湾等がいずれも計画に対して100%以上の進ちょく率を示しているのに対し,新産の秋田湾,日向・延岡,大分及び徳島は65%以下にすぎず,工特の鹿島,東三河及び周南の進ちょく率も低率となっている。また,開発の他の指標としての人口増加において,計画に対する進ちょく率の高いのは,仙台湾,中海,道央(新産,90%以上),東駿河湾,備後(工特,同)であり,低率は,日向・延岡,東予,秋田湾(以上,新産)及び鹿島,周南(以上,工特)である。また,人口及び工業出荷額において均衡のとれた進ちょく率を示している開発地域は,新産で富山・高岡,岡山県南,新潟であり,工特では備後,東駿河湾となっている。
 一方,我が国における地域開発は,一般に,都市再開発・臨海・装置産業型,都市再開発・内陸・非装置産業型,都市新開発・臨海・装置産業型及び都市新開発・内陸・非装置産業型の四種に類型化されることが多い。
 I-83表は,開発計画,開発規模,自然条件及び生産条件等の基準から上記の各類型を代表するものとして9開発地域を設定し(新開発・内陸・非装置産業型は,住宅都市等を主要内容とすることが多いので除外した。),その中心都市の工業出荷額及び人口の推移を昭和38年及び47年(人口については,48年)の比較において示したものである。なお,中心都市は,工業出荷額及び人口の大きさ及びその伸び率並びにこれらの指標と犯罪現象との関連をみる必要上,警察の管轄区域と地方自治体の行政区域の一致するものから選択し,また,開発が実質的に開始される直前の時期として,38年を基準とした。

I-83表 開発地域の中心都市における工業出荷額及び人口の推移(昭和38年,47年,48年)

 開発の進展を示すこれらの指標によると,すべての中心都市は,昭和38年以降約10年の推移において,その指標は全般に伸長し,開発の進展を示していることが理解できよう。
 すなわち,この期間の開発経過において,全中心都市の工業出荷額は大幅に増加しているが,これを昭和38年を100とする指数でみると,鹿島3町(指数約8,000)を初めとして大分,倉敷,加古川の伸長が著しく(いずれも指数500以上),概して装置産業型が高率の増加を示している。また,人口の推移において,すべての中心都市はゆるやかな増加傾向を示しているものの,特に地域別,類型別の特徴はみられず,わずかに加古川,鹿島3町等の工特や新産の苫小牧の増加が目立つが,いずれも開発直前に比し約1.6倍以内の増加であるにすぎない。工業出荷額及び人口からみて,開発地域の中核として全般に開発の進んだ中心都市は,工特の鹿島3町,加古川及び新産の大分,倉敷,苫小牧であるといえよう。
 以上の類型の中から,開発の規模(進出企業数,同種別,工業用地規模,工業出荷額等)や人口等の基準において,更に開発が集中的に進められている代表的な地域として,新産の岡山県南,道央及び常磐・郡山,工特の鹿島及び播磨の5地域を取り上げることとする。
 I-84表は,この5地域における工業出荷額と人口の推移を前同様の比較において示し,開発の経過をみたもので,誘致決定企業数及び一工場当たりの敷地面積を参考までに付記した。

I-84表 代表的な開発地域における開発の現況(昭和38年,47年,48年)

 約10年の経過では,全般に工業出荷額は大幅に増加しており,播磨の1兆8,109億円を初めとして,岡山県南,道央及び常磐・郡山がこれに次ぐが,特に開発前の約43倍,2,988億円に達している鹿島の急激な出荷額の増大には関心を払う必要があろう。昭和38年を100とする指数でみると,鹿島の4,269を初めとして,岡山県南,常磐・郡山,播磨,道央の順となっている。また,人口の推移においては,いずれの地域も漸増しているものの,特に大きな増加に至らず,道央(指数138),播磨(同124)が多少増加しているにすぎない。
 I-20図は,これらの代表的な開発地域の中心都市(I-83表と同様基準による。)における昭和38年以降約10年間の開発の推移を工業出荷額指数と人口指数との関連で回示したものである。これによると,すべての中心都市においてかなり急激に開発が進行していることを示している。まず,工業出荷額の推移を38年を100とする指数からみると,倉敷,加古川の約600,郡山,苫小牧の約400に対し,鹿島3町は約8,000となり,5地域の全般的増加傾向の中でも特に顕著な増加を示している。また,人口についてみると,38年に比較して47年には,加古川,苫小牧及び鹿島3町が約1.5倍,倉敷が約1.3倍,郡山が約1.1倍の増加となり,全般に中心都市におけるゆるやかな人口増加がうかがわれるに至った。

I-20図 代表的な開発地域の中心都市における工業出荷額指数及び人口指数の推移(昭和38年〜47年)

 以上を総合して,これらの開発地域の特徴は,次のように推論されよう。
 まず,工特の鹿島においては,中心都市の開発は急激に進展しているが,開発地域全体としての進ちょく率はさほど高くない。誘致企業数は少ないが,その大部分を重化学工業で占めていること,一工場当たりの敷地面積(単位敷地面積)が大きく工業出荷額の伸び率が大きいこと等からみて産業開発が集中的に推進されたことを示唆している。
 同じく,工特の播磨は,誘致企業も多く,重化学工業の占める割合や単位敷地面積も少なくないが,進ちょく率は工業出荷額で91%,人口で88%と均衡のとれたものとなっており,再開発・内陸・非装置産業型の開発類型として興味のある傾向を示している。
 次に,新産,再開発・臨海・装置産業型の道央についてみると,誘致企業は5地域中最も多いが(221),重化学工業の占める比率や単位敷地面積はむしろ小さい。工業出荷額は,開発規模が大きいところから75%の進ちょく率にすぎないが,人口は,昭和38年より55万人増加して93%の進ちょく率を示しており,その人口移動に特徴がみられるに至った。
 同一類型の岡山県南においては,開発規模はやや小さく,誘致企業数や単位敷地面積もむしろ小さいが,重化学工業の占める割合は高く,進ちょく率は工業出荷額で110%,人口で81%となり,産業開発重視がうかがわれる。
 最後に,新産,再開発・内陸・非装置産業型の常磐・郡山についてみると,誘致企業数及び重化学工業の占める比率は小さく,単位敷地面積も5開発地域中最も狭小である。進ちょく率は工業出荷額で71%,人口で81%となっているものの,中心都市における人口の伸び率は5地域中最も少なく(指数110)一つの特徴となっている。