前の項目 次の項目 目次 図表目次 年版選択 | |
|
1 国際比較 我が国における女性犯罪の動向と特質を理解するためには,同じ先進国であるアメリカ,イギリス及びドイツにおける女性犯罪の状況と比較検討することが有益である。いうまでもなく,国によって犯罪の類型や分類に差異があり,犯罪の検挙状況など警察活動も異なるうえ,統計方法も区々であるため,我が国と諸外国との犯罪現象の正確な比較は困難であるが,それぞれの国の犯罪統計を分析し対比することにより,概略的に,各国の女性犯罪の動向や特質をは握することができる。
(1) アメリカ まず,アメリカ合衆国における1961年から1971年までの主要犯罪による男女別逮捕人員の推移を示したのが,III-116表である。ここにいう主要犯罪とは,ほぼ指標犯罪(Crime Index offenses)に相当するものである。1971年における女性逮捕人員の罪名別構成をみると,最も多いのは窃盗であり,総数の78.8%を占めている。次いで,加重暴行傷害の7.7%,不法侵入の6.4%,自動車盗の3.2%,強盗の2.7%,殺人の1.0%となっている。また,男女別の逮捕人員総数の推移をみると,1971年において,男性が1961年の2.11倍に増加しているのに対して,女性は3.75倍に増加しており,男性の増加率を大幅に上回っている。そのため,逮捕者総数中に占める女性の割合(女性比)は,1961年の10.5%から1971年の17.2%に上昇している。更に,女性逮捕人員の推移を罪名別に検討すると,1961年から1971年までの間に,強姦を除くすべての罪名で増加しており,窃盗では4.27倍,強盗で3.55倍,不法侵入で3.08倍,自動車盗で3.05倍,殺人で2.36倍,加重暴行傷害で2.01倍,過失致死で1.53倍の増加となっている。中でも,窃盗,自動車盗,不法侵入,強盗及び過失致死では,女性の増加率が男性のそれよりも相当高くなっている。また,1971年における逮捕者総数中に占める女性の割合を罪名別にみると,窃盗が28.1%,殺人が16.3%,加重暴行傷害が13.3%,過失致死が12.6%と比較的高くなっているが,強盗,自動車盗及び不法侵入では6.3%ないし4.9%であり,比較的低率となっている。
III-116表 主要犯罪の男女別逮捕人員(アメリカ合衆国)(1961年,1966年,1971年) (2) イギリス 1961年から1971年までの間に連合王国(イングランド及びウェールズ)の全裁判所(治安判事裁判所,巡回・四季裁判所)において,無謀運転による致死傷を除く要正式起訴犯罪(Indictable Offences)により有罪裁判を受けた人員の罪名別及び性別の推移を示したのが,III-117表である。1971年における女性有罪者の罪名別構成をみると,窃盗が総数の80.1%で最も多く,次いで,賍物の5.7%,詐欺の4.7%,不法侵入の4.2%,偽造の2.4%の順となっている。
III-117表 要正式起訴犯罪により有罪裁判を受けた者の罪名別・性別人員(連合王国)(1961年,1966年,1971年) 次に,1961年から1971年までの間に,男性有罪者総数は1.71倍に増加しているのに対して,女性総数はこれを上回り1.87倍に増加している。これに伴い,有罪者合計中に占める女性の割合も,1961年の13.5%から1971年の14.5%に上昇している。また,同期間における女性有罪人員の推移を罪名別にみると,横領,強姦及びその他の性犯罪を除くすべての罪名について増加しているが,特に,強制わいせつが6.00倍,放火が4.56倍,強盗が2.88倍,恐喝が2.86倍,賍物が2.82倍,詐欺が2.65倍,不法侵入が1.91倍と著しい増加現象をみせており,これらの罪名では,強盗及び詐欺を除き,いずれも男性の増加率を上回っていることが注目される。1971年における有罪者総数中に占める女性の割合は,偽造で29.8%,窃盗で20.1%,殺人で17.1%,詐欺で15.4%と比較的高率であるのに対して,強盗,不法侵入及びその他の性犯罪では3.2%ないし0.8%という低い比率となっている。(3) ドイツ III-118表は,1963年から1970年までのドイツ連邦共和国における刑法犯(交通犯罪及び国家防衛法違反を除く重罪及び軽罪)の男女別検挙人員の推移を示したものである。同表により1970年における女性検挙人員の罪名別構成をみると,窃盗が総数の55.9%で最も多く,その他の罪名では,詐欺の11.7%,横領の2.8%,危険傷害の2.1%などとなっている。
III-118表 刑法犯(重罪・軽罪)男女別検挙人員(ドイツ連邦共和国)(1963年,1966年,1970年) 次に,1963年から1970年までの検挙人員総数の推移をみると,女性総数は1.33倍に増加しているのに対して,男性は1.18倍の増加にすぎない。したがって,検挙人員総数中に占める女性の割合も,1963年の15.4%から1970年の17.1%に上昇している。また,罪名別による女性検挙人員の推移については,1970年において,強盗・強盗的恐喝が1963年の2.85倍に増加しているほか,窃盗が2.08倍,放火が1.75倍,謀殺・故殺が1.42倍,犯罪庇護・隠匿が1.11倍,危険傷害が1.05倍に増加しているが,その他の罪名ではいずれも減少している。そして,強盗・強盗的恐喝,窃盗及び放火についての女性検挙人員の増加率は,男性の各増加率よりはるかに高くなっていることが注目される。1970年における各罪名別の検挙人員総数中に占める女性の割合は,嬰児殺の100%を筆頭に,堕胎の67.8%,窃盗の23.1%,背任の19.8%,横領の18.5%,詐欺の17.2%,犯罪庇護・隠匿の16.9%などが比較的高率を示している。逆に,危険傷害,放火,風俗犯及び強盗・強盗的恐喝では,女性の割合は8.8%ないし5.9%であり,低い比率を示している。(4) 日本 このような欧米諸国における女性犯罪の動向と比較するため,1962年から1972年までの我が国における業務上(重)過失致死傷を除く刑法犯の男女別検挙人員の推移を,主要罪名別に示したのが,III-119表である。これによると,1972年において,男性検挙人員総数は1962年の7.8割に減少しているのに対して,女性の総数は1.13倍に増加している。そのために,検挙人員総数中に占める女性の割合は,1962年の9.8%から1972年の13.6%に上昇している。
III-119表 刑法犯主要罪名別・男女別検挙人員(日本)(1962年,1967年,1972年) 罪名別の女性検挙人員の推移については,1972年において,賭博が1962年の2.08倍に増加しているのを始め,強盗が1.40倍,窃盗が1.30倍,わいせつが1.28倍,殺人が1.20倍,恐喝が1.10倍,放火が1.08倍に増加しているが,その他の罪名ではいずれも減少している。女性検挙人員が増加している罪名のうち,賭博,わいせつ及び放火を除く罪名では,男性検挙人員がいずれも減少しているのと比較して,極めて対照的である。 |