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 昭和48年版 犯罪白書 第3編/第1章/第2節/4 

4 その他の問題点

(1) 共犯関係

 集団的な犯行は,少年犯罪における一つの特徴とされている。警察庁の統計によれば,III-32表に示すように,昭和47年の少年刑法犯(過失犯を除く。)検挙件数のうちで,2人以上の共犯によるものは,少年だけが関与した事件についてみると,33.8%に及んでいるのに対し,成人だけが関与した事件では,13.7%にすぎない。このように,少年事件では,成人事件に比べて,共犯事件の割合が著しく高い。これを主要罪名別にみると,恐喝が52.2%と最も高く,以下,強盗,暴行,強姦,傷害の順となっており,凶悪犯及び粗暴犯において,共犯率が高い傾向を示している。

III-32表 主要罪名別共犯事件の検挙件数(昭和47年)

 次に,法務省特別調査によって,昭和42年以降の共犯率の推移を年齢層別にみると,III-33表にみられるとおり,各年齢層とも起伏ある動きを示しているが,共犯率は,いずれの年においても,年齢層が低いほど高くなっている。また,42年以降の推移において,47年の共犯率は,年少少年においては最高の56.7%,年長少年においては最低の39.4%となっており,45年以後の推移においては,年少少年の増加傾向,年長少年の減少傾向と,両者は,対照的な動きを示している。

III-33表 年齢層別共犯少年の割合の推移(昭和42年〜47年)

 なお,警察庁が,昭和47年の少年刑法犯検挙人員のうちから過失犯を除いた9万9,734人について,学職別に非行集団への所属状況を調査したところによると,III-34表に示すように,総数における非行集団関連率は26.7%であり,学職別では,学生・生徒の29.1%が,有職少年の20.8%,無職少年の26.3%に比べて,やや高くなっている。また,学生・生徒のうちでは,中学生が32.8%.と最も高く,高校生,大学生の順に低くなっている。なお,理由は必ずしも明らかでないが,この非行集団関連率は,前年に比べて,平均8.1%低下している。

III-34表 犯罪少年の学職別非行集団関連状況(昭和47年)

 III-35表は,業務上(重)過失致死傷を除く少年刑法犯検挙人員のうち,非行集団と関連を持つ少年について,その関連の状況を示したもので,集団形態別及び非行形態別に,その実数及び構成比を示している。これによれば,集団形態別では,学校集団が48.4%を占めて最も大きく,地域集団の28.9%がこれに次ぎ,盛り場集団や職場集団の割合は,極めて小さい。一方,非行形態別においては,窃盗集団が55.4%を占めて最も大きく,粗暴犯集団の28.3%がこれに次ぎ,これら以外の非行形態をとる集団の割合は,極めて小さい。

III-35表 非行集団の集団形態別及び非行形態別構成比(昭和47年)

(2) 再犯少年

 犯罪少年の再犯を防止することは,犯罪対策上重要な課題の一つである。III-36表は,再犯少年の昭和36年以降における動向を,全国の家庭裁判所が取り扱った一般保護少年(業務上(重)過失致死傷犯を除く。)の終局人員についてみたものである。これによると,家庭裁判所の処分(刑事処分,保護処分,不処分,不開始など)前歴がある者の昭和46年における割合は,刑法犯については,24.4%であって,前年に比べて約2%減少し,36年以降の最低を示している。また,この割台は,道路交通法違反を除いた特別法犯については,19.1%で,前年より若干増加している。

III-36表 一般保護事件終局実人員中前処分ある者の比率(昭和36年〜46年)

 次に,一般保護少年について,前回処分の有無と罪名との関連をみると,III-37表の示すとおり,処分歴のある少年の割合は,強盗が40.6%で最も高く,次いで,殺人,強姦.詐欺,恐喝,傷害,脅迫の順となっている。再犯少年の占める割合の高い罪名が,詐欺を除いて,いずれも凶悪犯,粗暴犯であることは,注目を要する,この割合が低い罪名は,横領,放火,特別法犯で,いずれも20%に満たない。

III-37表 一般保護少年の罪名別前回処分の有無(昭和46年)

 また,法務省特別調査によって,再犯率を年齢層別にみたのがIII-38表である。これによれば,年少少年が14.9%,中間少年が23.0%,年長少年が27.6%であり,年齢層が高まるにつれて再犯率も高くなっている。これを罪名別にみると,強盗,恐喝,強姦などの再犯率は高く,窃盗のそれは低い。再犯率の高い罪名を,年齢層別にみると,年少少年では強盗及び傷害,中間少年では強盗,恐喝及び暴行,年長少年では強盗,恐喝及び強姦であり,強盗は各年齢層を通じて再犯率が高くなっている。なお,強盗の再犯率が他の罪名に比べてかなり高いことも注目される。

III-38表 年齢層別・主要罪名別再犯率(昭和47年)

 更に,昭和46年における一般保護事件の終局決定別に,それぞれの処分決定と前回の終局決定との関連をみたのが,III-39表である。これによれば,「前処分あり」の割合が大きいのは,検察官送致及び少年院送致の者であって,それぞれ67.3%,75.2%の者に前処分がある。前処分のある者について,その内訳をみると,検察官送致の者においては,少年院送致20.4%,保護観察19.0%,不処分・不開始32.0%のほか,刑事処分が27.2%となっており,少年院送致の者においては,少年院送致15.7%,保護観察40.5%,不処分・不開始40.8%となっている。また,不処分・不開始の決定を受けた少年のうち,前処分のある者について,その内容をみると,不処分・不開始69.7%,保護観察21.0%,少年院送致7.3%となっている。

III-39表 一般保護事件終局決定別前回終局決定状況(構成比)(昭和46年)

 なお,法務省特別調査によって,前回処分から再犯に至るまでの期間をみると,III-40表に示すとおり,昭和47年においては,3月未満の者が20.5%,6月未満の者では39.7%,1年未満になると65.4%に達する。すなわち,前回処分を受けた者の3分の2が,処分後1年足らずの間に再犯に陥っていることになる。これは,再犯防止対策上,特に留意を要する点である。

III-40表 前回処分後の再犯期間(昭和42年,47年)

(3) 自動車に関連する犯罪

 近年におけるモータリゼーションの進行に伴い,自動車は,最も普及した交通手段の一つとして,日常的に利用されるに至っており,身近な乗り物として,少年たちが利用しうる機会も増大している。自動車は,スピード感,スリル感,行動圏拡大の可能性などを与えるため,少年たちにとって,単なる交通手段にとどまらず,彼らの欲求充足や不満の解消手段として,魅力あるものとなっている。自動車利用の日常化とその魅力とが相まって,少年たちの間における自動車利用熱は,年々高まっており,それとともに,交通関係事犯以外の少年犯罪においても,自動車を犯罪の対象又はその手段とする傾向が認められる。
 III-41表は,法務省特別調査によって,犯行地を都市と郡部に分け,各罪名別に自動車との関連をみたものである。これによると,昭和47年におして,自動車に関連のある犯罪を犯した者は,対象少年の19.7%で,そのうち,都市を犯行地としている場合は18.4%,郡部を犯行地としている場合は25.5%で,自動車関連犯罪の割合は,都市においてよりも郡部においての方が大きい。この割合は,全体として,45年まで増加傾向を示していたが,47年においては,前年に引き続き,若干の減少を示している。

III-41表 罪名別・地域別自動車との関連(昭和47年)

 次に,罪名別に,自動車との関連をみると,全国の場合,強姦の39.5%が最も高く,自動車がこの犯罪の手段として悪用されやすいことがうかがわれる。次いで,自動車との関連率が高い罪名は,窃盗の23.9%である。この関連率が比較的低いのは,特別法犯であるが,刑法犯において低い罪名は,傷害,暴行,恐喝等,粗暴犯関係の罪名で,いずれも10%に満たない。また,これを地域別にみると,暴行など若干の例外を除いて,全般的に,都市よりも郡部において高くなっている。
 なお,一般に,自動車と犯罪との関連をみる場合,自動車を犯罪の対象とするもの,手段とするもの,及び車上窃盗や自動車交通事故にからむ傷害など何らかの形で関連があるもの,という3種の関連の仕方を考えることができる。そこで,法務省特別調査により,昭和47年における罪名別,犯行形態別の自動車関連率を示し,参考までに42年のそれを付記したのが,III-42表である。これによると,全体として,自動車は,犯罪の手段とされるよりも,その対象とされる場合が多い。そして,窃盗,詐欺,横領など財産犯においては,自動車を犯罪の対象とする場合が,殺人,強盗,強姦,わいせつなど凶悪犯及び性犯罪においては,それを犯罪の手段として利用する場合が,それぞれ多い。また,罪名別自動車関連率を42年のそれとの対比においてみると,全体としては増加を示しているが,これを罪名別にみると,罪名によって増減がみられ,増加の目立つ罪名としては,強姦(7%増),殺人(6%増),窃盗(3%増)などが,減少の目立つ罪名としては,強盗(9%減),詐欺(6%減),脅迫(6%減)などが挙げられる。

III-42表 罪名別・犯行形態別自動車との関連(昭和42年,47年)

(4) 被害者からみた特質

 近年,犯罪学の領域において,被害者の研究が重視され始めているが,これは,犯罪が単に加害者の資質や環境だけに起因するものでなく,加害者と被害者との関係によって生じることもあり,また,犯罪少年においては,被害経験が犯罪学習の契機となり,犯罪の手口を覚え,犯行に至るという事例も少なからずみられるという事情にもよる。
 法務省特別調査により,罪名別に,加害少年と被害者との関係を示したのが,III-43表である。これによると,無関係が77.7%で最も多く,次いで,顔見知りの11.6%,友人・知人の4.3%となっており,親族は極めて少ない。これを罪名別にみると,無関係が多いのは,強盗の94.7%及び窃盗の89.0%で,顔見知りが多いのは,強姦,傷害,暴力行為等処罰に関する法律違反などで,いずれも3割を超えており,このほか実数は少ないが高率を占めているものに,脅迫(58.3%),殺人(43.8%)がある。また,友人・知人の割合が他の罪名に比べて大きいのは,暴行及び暴力行為等処罰に関する法律違反であり,更に,実数ではわずかながら,殺人の被害者に親族の割合が比較的大きいことが注目される。

III-43表 罪名別にみた犯罪少年と被害者との関係(昭和47年)

 次に,法務省特別調査によって,罪名と被害金額との関係をみると,III-44表の示すとおりで,全体としては,被害金額1,000円以上1万円未満が48.0%で最も多く,次いで,1万円以上10万円未満の36.7%となっている。罪名別では,100万円を超える高額の被害は,窃盗及び強盗においてみられるが,全般的には,窃盗による被害金額が,他の罪名のそれに比べて高額となっている。これに対し,恐喝による被害金額は,比較的軽微なものが多く,1,000円未満が27.5%を占めている。

III-44表 罪名別被害額(昭和47年)

(5) 犯行からみた特質

 最近の少年犯罪においては,社会一般の享楽的風潮を反映して,享楽的な動機による犯行が目立ってきている。その例は,窃盗においては万引,自動車・オートバイ盗,自転車盗に,横領においては自転車等の占有離脱物横領に,性犯罪においては集団的な強姦事件等にみちれ,このほか,シンナー等の薬物乱用,勝馬投票券の購入による競馬法違反,オートバイ等によってスリルとスピードを楽しむサーキット族の交通犯罪など,少年犯罪の多様な側面において,享楽的な犯行が認められる。これらの犯行に共通してみられる特徴は,それが,ごく一般的な家庭の子弟によって,享楽的な刺激を求める遊びの一種として,集団的に行われていることである。以下,ここでは,法務省刑事局が,昭和48年1月から3月にかけて,少年犯罪における低年齢層化の実態を明らかにするため,全国11の地方検察庁において実施した年少少年による窃盗事犯の実態調査から,その結果の一部を利用して,最近の少年犯罪にみられる犯行の特徴につき,その一端を明らかにし,参考に供することとしたい。
 この調査の対象者は,検察庁において,窃盗事犯として受理した14歳・15歳の年少少年男女1,957人で,性別では,男子が全体の9割以上を占めている。
 まず,対象者の家庭についてみると,保護者の状況(III-45表)では,77%の者に実父母がおり,その生活程度(III-4図参照)は,普通又はそれ以上の者が78%と大部分を占めている。したがって,これらの点からみる限りにおいては,対象者の大部分は,ごく普通の家庭の出身者であるといえる。しかし,親の少年に対する態度(III-5図参照)をみると,放任(69%),甘やかし・過保護(17%),監護能力なし(6%)など,少年に対する保護者の指導監督面に欠陥のみられる家庭が多い。

III-45表 保護者の状況(昭和48年1月〜3月)

III-4図 生活程度(昭和48年1月〜3月)

III-5図 保護者の少年に対する態度(昭和48年1月〜3月)

 次に,対象者の非行前歴(III-46表)についてみると,非行前歴のない者は82%を占め,対象者による本件犯行の大部分が,習癖化した犯行ではないことを示唆している。

III-46表 非行歴の有無及び回数(昭和48年1月〜3月)

 最後に,本件犯行の状況についてみると,犯行の態様(III-6図参照)においては,万引き(35%),自動車・オートバイ盗(22%)及び自転車盗(15%)が多く,これらだけで全体の72%を占めている。これらの犯行態様別に,犯行の動機との関連をみたのが,III-47表である。これによると,万引き,自動車・オートバイ盗及び自転車盗においては,「その物が欲しかった」という動機からの犯行が多く,侵入盗及びその他においては,「こづかい銭かせぎ」という動機からの犯行が多い。このことは,万引き,自動車・オートバイ盗及び自転車盗とこれら以外の犯行態様とが,犯行の動機において,異質な側面があることを示している。また,犯行の態様とその計画性との関連をみると,万引き,自動車・オートバイ盗及び自転車盗には偶発的な犯行が多く,これら以外の犯行態様においては計画的な犯行が多い。更に,III-48表により,犯行の態様別に,被害回復率をみると,万引き,自動車・オートバイ盗及び自転車盗の被害回復率は,いずれも90%を超え,これら以外の犯行における被害回復率を大きく上回っており,この点からみても,これら3種の犯行態様とそれ以外の犯行との間には,異質な側面があるといえる。

III-6図 犯行の態様(昭和48年1月〜3月)

III-47表 犯行の態様別犯行の動機(昭和48年1月〜3月)

III-48表 犯行の態様別被害の回復率(昭和48年1月〜3月)

 前述の諸点からみて,万引き,自動車・オートバイ盗及び自転車盗の多くは,利得を目的とした計画的な犯行というよりも,むしろ犯行のスリルを求めたり,犯行の対象物に対する興味や欲求からの衝動的な犯行であると考えることができる。そして,これら3種の犯行が年少少年の窃盗事件の大部分を占めるものであり,窃盗が年少少年による犯罪の大部分を占めている現状から考えて,これら3種の犯行にみられる特徴は,いわば,年少少年の犯罪行動にみられる一般的な特徴のーつと考えることができよう。
 また,本件犯行の共犯関係について,共犯者の状況(III-49表参照)をみると,共犯者のある者は76%を占めており,大部分の犯行が集団的なものであることを示している。更に,対象者の不良集団との関係をみると,85%の者は不良集団とは無関係で,本件における集団的犯行の大部分は,不良集団によるものではなく,遊び仲間による集団的犯行であると考えられる。このことは,共犯者のある対象者の79%が同年輩の共犯者と犯行をしており,78%の者が,犯行において,共犯者と同等の役割を果たしていることからも推察することができる。

III-49表 共犯者の状況(昭和48年1月〜3月)

 なお,本件の犯行時刻についてみると,対象者の自由時間帯と考えられる午後から夕方にかけての犯行が66%と最も多く,本件犯行の多くが,対象者の余暇行動における遊びの一形式として行われていることを示唆している。
 さて,最近の少年犯罪においては,享楽的な犯行が目立ち始めているが,その社会的背景として,少年をめぐる社会環境の悪化,特に,少年の健全育成に有害と考えられる享楽的,せつな的な社会的風潮を挙げることができる。以下,警察庁の資料により,このような社会的風潮の一端を示すことにする。
 III-50表は,風俗営業としての深夜飲食店及びモーテルについて,最近5年間における,その推移を示したものである。これによれば,最近5年間に,深夜飲食店は2倍近くの増加を,モーテルに至っては実に4倍以上もの増加を示している。これらの風俗営業の増加が,社会一般の享楽的風潮を反映していることはいうまでもない。

III-50表 享楽的・娯楽的営業の推移(昭和43年〜47年)

 III-51表は,地方自治体が制定している青少年保護育成条例(昭和47年末においては,33都道府県が制定している。)により,青少年の健全育成上好ましくないものとして,有害指定を受けた映画,雑誌等の指定件数の推移を,昭和37年以降隔年ごとに示したものである。これによれば,映画等については,有害指定を受けた件数は,47年には1万874件で,これは37年の21倍以上の増加に当たり,雑誌等については,47年には8,590件の有害指定を受けており,これは37年の6倍以上の増加となっている。映画,雑誌等にみられるこのような有害指定件数の増加は,いわば少年をめぐる社会環境の汚染状況を示すものといえよう。

III-51表 青少年保護育成条例による有害指定件数(昭和37年,39年,41年,43年,45年,47年)

 風俗営業の増加や映画,雑誌等にみられる有害指定件数の増加は,社会の享楽的風潮と少年をめぐる社会環境の悪化を示す一例にすぎない。そして,これらの状況は,少年犯罪の直接的誘因であるとはいえないにしても,少年の生活環境を汚染させ,ひいては,間接的に少年たちに悪影響を及ぼしていることは否定できない。しかも,このような生活環境の悪化は,人格的に未成熟で,判断力に乏しく,自制力を欠いている低年齢の少年ほど,その影響をより強く受けやすいと考えられる。このことは,最近の少年犯罪においてみられる低年齢化の現象及び享楽的な犯行の増加傾向などとの関連において,注意を要するところであろう。