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 昭和47年版 犯罪白書 第一編/第二章/五 

五 精神障害者の犯罪

 最近においても,精神障害者による犯罪には,その犯行に凶悪なものが目だち,またその動機に不可解なものがみられることなどの事情から,一般市民に深刻な不安を与えている。
 精神障害者が重大な犯罪を犯しても,その者が重篤な精神障害のため,刑事責任能力のないときには,刑事責任を追及することができないから,結局,刑事施設に収容することは不可能であるが,このような精神障害者は,精神衛生法によって,強制的に精神病院に入院させ,必要な治療を加えることとなっている。
 戦後,精神障害者に対する薬物療法は長足の進歩を遂げ,新しい作業療法,精神療法,生活指導の導入とあいまって,治療効果のいっそうの促進が図られている。
 しかし,精神衛生施設の現状には,なお多くの問題点があるとされ,強制的な入院措置のとられた場合にも,精神科病床数の不足や精神障害者の治療効果,社会復帰などの観点から,一般の予想よりかなり早目に退院させている実情もみられる。したがって,再び犯罪を犯す危険のある多数の精神障害者が,社会から隔離されず,しかも,必ずしも十分な医療や適切な指導を受けないまま,一般社会において,日常生活を送っているうちに犯罪を反覆する場合が少なくない。
 そこで,刑事政策的立場から,犯罪に陥りさらに犯罪を繰り返すおそれのある精神障害者(およびそれと関係の深いアルコールその他薬物中毒ないし嗜癖者)を対象とする保安処分を,改正刑法草案の中に設けることが,法制審議会刑事法特別部会において決定され,法制審議会に報告された。
 この保安処分は,裁判によって,刑事責任能力がないか,またはその能力が著しく低い精神障害者を,一定期間保安施設に収容し,治療および看護を行なう治療処分と,アルコールその他薬物中毒ないし嗜癖者の習癖矯正をねらいとする禁絶処分の,二種類の処分を含んでいる。
 このような情勢を背景として,以下,昭和四六年のわが国における精神障害者に対する措置状況,および精神障害者の処遇の実情について述べることとする