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 昭和46年版 犯罪白書 第二編/第三章/二/1 

二 保護観察

1 概説

(一) 保護観察の対象および期間

 保護観察は,罪を犯した者に対し,社会生活を営ませながら,適切な指導監督,補導援護の措置を講じて,その改善更生を助け,再犯の防止に寄与することを目的としている。
 保護観察の対象者およびその保護観察期間は,次のとおり定められている。
(1) 家庭裁判所の決定により,保護観察に付された者(以下,「保護観察処分少年」という。)。その期間は,保護処分言渡しの日から二〇歳に達するまで。ただし,二〇歳に達するまでの期間が二年に満たない者については二年間。
(2) 地方更生保護委員会の決定により,少年院からの仮退院を許された者(以下,「少年院仮退院者」という。)。その期間は,仮退院の決定による出院の日から,二〇歳に達するまで。ただし,二六歳をこえない範囲で例外がある。
(3) 地方更生保護委員会の決定により,仮出獄を許された者(以下,「仮出獄者」という。)。その期間は,仮出獄の決定による出獄の日から,その残刑期間。
(4) 刑事裁判所の判決により,刑の執行を猶予され,保護観察に付された者(以下,「保護観察付執行猶予者」という。)。その期間は,言渡し確定の日から,その執行猶予の期間。
(5) 地方更生保護委員会の決定により,婦人補導院からの仮退院を許された者(以下,「婦人補導院仮退院者」という。)。その期間は,仮退院の決定による出院の日から,その補導処分の残期間。

(二) 保護観察所

 保護観察の実施をつかさどる機関は,保護観察所である。保護観察所は,地方裁判所の所在地ごとに,全国で四九庁が置かれ,管轄区域内の対象者に対し,保護観察を実施している。保護観察所には,保護観察官および保護司が所属している。
 なお,八王子市,堺市および北九州市に,それぞれ,東京,大阪および福岡の各保護観察所の支部が置かれている。支部は,その所在地にある地方裁判所支部の管轄区域において,保護観察所の事務を分掌している。
 また,ほかに地方裁判所支部の所在地の小田原市など一六か所には,駐在官事務所が置かれている。駐在官事務所には,一名ないし数名の保護観察官が駐在し,一定地域内の保護観察事件等の処理にあたっている。

(三) 保護観察官および保護司

 保護観察官は,保護観察所および地方更生保護委員会に配属されている国家公務員である。その業務は,仮釈放審理の準備のための調査および対象者に対する保護観察を主とするが,ほかに施設収容者の帰住予足先の環境調査調整,地域社会における犯罪予防活動,更生(緊急)保護対象者の保護に関する事務および更生保護事業を行なう団体・組織の指導等の事務に従事している。
 昭和四五年末における保護観察官の全国定数は,八〇九人で,そのうち,八〇人が地方更生保護委員会に,七二九人が保護観察所に配置されているが,保護観察官は,その職務を行なううえに,心理学,教育学,精神医学,社会学その他の更生保護に関する専門的知識が要請されている。
 保護司は,法務大臣から委託を受けた民間篤志家で,その使命は,社会奉仕の精神をもって,犯罪者の改善更生を助けるとともに,犯罪予防のため地域社会の浄化をはかることであり,保護観察官で十分でないところを補うものとされている。
 保護司の全国定数は,五二,五〇〇人で,七六八の保護区に配属されている。その委嘱にあたっては,広く社会の各層から適任者を選んでいるが,保護司のもつ民間性・地域性等の特長は,保護観察における対象者の処遇,地域浄化活動等において,重視されている。

(四) 保護観察の方法

 保護観察の業務は,保護観察所長が,それぞれの対象者に応じて指名する主任官および担当者によって実施される。主任官は,当該保護観察事件を担当する保護観察官であり,担当者は,直接対象者の処遇にあたる保護観察官または保護司であるが,実際には,保護司が担当者となる場合が大部分であるので,保護観察官と保護司との緊密な協働態勢のもとに,対象者に対する指導監督,補導援護が行なわれる。
 保護観察における指導監督,補導援護を行なうにあたっては,本人の年齢,経歴,心身の状況,家庭,交友その他の環境等を十分に考慮し,その者に最もふさわしい方法によるものとされている。
 指導監督の方法として,本人と適当に接触を保ち,常にその行状を見守りながら,遵守事項を遵守させることを中心として,本人が社会の健全な一員となるために必要な措置がとられるが,遵守事項には,一般遵守事項と特別遵守事項の二種類がある。
 一般遵守事項は,保護観察処分少年,少年院仮退院者,仮出獄者および婦人補導院仮退院者の四種類の対象者については,犯罪者予防更生法により,[1]一定の住居に居住し,正業に従事すること,[2]善行を保持すること,[3]犯罪性のある者または素行不良の者と交際しないこと,[4]住居を転じ,または長期の旅行をするときは,あらかじめ,保護観察を行なう者の許可を求めること,の四項目が定められている。保護観察付執行猶予者については,執行猶予者保護観察法により,住居の届け出を行なうほか,[1]善行を保持すること,[2]住居を移転し,または一か月以上の旅行をするときは,あらかじめ,保護観察所の長に届け出ること,の二項目が定められている。
 特別遵守事項は,保護観察処分少年については,保護観察所長が,家庭裁判所の意見を聞いて,これを定め,少年院仮退院者,仮出獄者,婦人補導院仮退院者については,地方更生保護委員会が定める。保護観察付執行猶予者については,特別遵守事項はなく,保護観察所長において,本人の更生のために必要な具体的事項を指示することになっている。
 これらの遵守事項は,更生の指針や生活の目標とすべきものを主としてとりあげて,対象者に対し遵守の義務を負わせるもので,とくに,少年院仮退院者,仮出獄者,保護観察付執行猶予者,婦人補導院仮退院者については,これを遵守しなかった場合,保護観察所長において,それぞれ,戻し収容の申出,仮出獄取消の申請,刑の執行猶予の取消の申出,仮退院取消の申請を行なうことができるとされている。
 補導援護は,本人の性格,環境等に応じ,その更生を助けるための援助的手段を講ずるもので,その方法のおもなものをあげれば,教養訓練,医療援助,食事給与,宿泊所供与,職業補導,就職援助,環境調整等である。
 このように,保護観察は,それぞれ社会生活を営んでいる犯罪者や非行少年を対象とし,それらの者と接触を保ちながら,その間に形成される人間関係を通じて,指導監督,補導援護の措置を,適時適切に行なうものであり,社会内における処遇という点で特別のむずかしさがあり,処遇の方法等もケースに応じて個別化されるので,その業務内容は複雑多岐にわたるものである。