前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 昭和46年版 犯罪白書 第一編/第二章/五/1 

1 精神障害者に対する措置状況

 わが国における最近の精神障害者数は明らかでないが,昭和三八年に,厚生省の行なった精神衛生実態調査によれば,全国推定数は一二四万人とされている。この精神障害者の入院状況を調べるために,昭和四四年一〇月に,厚生省が全国の精神病院および一般病院併設精神科病室のうち,九九・五%に当たる一,三二五施設を実態調査した結果によれば,精神科病床数二三四,八九一床に対して,入院患者数は二四八,八二六人で,差し引き一三,九三五人の過剰入院がみられ,精神科病床数の不足は,依然として解消されていない。
 精神衛生法により,都道府県知事は,医療および保護のために入院させなければ,その精神障害のために自身を傷つけ,または他人に害を及ぼすおそれがあると認めた精神障害者を,本人および関係者の同意が得られなくても,強制的に病院に入院させることができることになっている(同法第二九条,以下,これを「措置入院」という。)。この措置入院による入院患者は,昭和四六年二月末日現在で,七六,四七〇人であるが,前年同期に比べて,四九人減少しており,昭和四六年二月末の精神科病床数二四八,一七二床の三割強を占めていることになる。
 次に,精神衛生法によれば,精神障害者またはその疑いのある者を知った場合は,誰でも,その者について,精神衛生鑑定医の診察および必要な保護を,都道府県知事に申請することができる(第二三条)とされている。また,警察官は,職務執行中に,精神障害のために自身を傷つけまたは他人に害を及ぼすおそれがあると認められる者を発見したとき(第二四条),検察官は,精神障害者またはその疑いのある者について,不起訴処分をしたとき,または,自由刑の実刑の言い渡し以外の裁判が確定したとき等(第二五条),保護観察所の長は,保護観察の対象者がこれらの者であることを知ったとき(第二五条の二),矯正施設の長は,これらの者を釈放・退院または退所させようとするとき(第二六条),それぞれ都道府県知事に通報の義務を負っている。
 右に述べたような申請または通報について,最近一〇年間の統計を示すと,I-48表[1]および[2]のとおりである。昭和三六年以降,一般からの申請は,しだいに減少の傾向を示しているが,警察,検察,保護,矯正関係からの通報件数は,昭和四一年の八,〇七六件まで増加し,その後は,七,〇〇〇件台を上下している。申請または通報に基づいて精神障害者と認定された者の数も同様の傾向をもって増減している。通報件数の内訳をみると,警察官によるものが最も多く,昭和四五年では通報総数の八割近くを占め,次いで,検察官,矯正施設の長,保護観察所長の順となっており,昭和四五年の通報件数については,矯正施設の長によるものを除いて,いずれも増加がみられる。

I-48表 精神衛生法による申請・通報件数および精神障害者数