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 昭和45年版 犯罪白書 第一編/第二章/四/1 

四 女子犯罪

1 女子犯罪の概況

 人口の半ばは女子によって占められているが,犯罪のうち女子によって犯されたものの割合は,著しく少ない。I-50表は,昭和二一年以降の刑法犯検挙人員を,男子と女子とに分けて,それぞれの人口比,男女の合計中に占める女子の割合をみたものである。これによると,昭和二四年から二六年にかけて,五万人をこえた女子刑法犯検挙人員は,その後漸減して,昭和三一年から三四年までは,三万二千人台を推移したが,昭和三五年以降,起伏はありながらも増加の傾向を示し,昭和三八年には五万人,同四三年には六万人をこえて,昭和四四年には,六五,〇六二人と戦後最高の数字となっている。また,人口比も,検挙人員の推移とほぼ同じ傾向を示し,昭和三八年から四二年まで引き続き一・四であったが,昭和四三年には一・五,四四年には一・六と上昇している。しかし,男女の合計中に占める女子の割合は,いずれの年次についても一割に満たず,昭和四四年には,その割合が,六・五%となっている。

I-50表 男女別刑法犯検挙人員の推移(昭和21〜44年)

 I-51表は,女子刑法犯検挙人員を,主要罪名別に,昭和四〇年以降最近五年間について,実数と,同年を一〇〇とする指数によってみたものである。これによると,昭和四〇年には約五千六百人にすぎなかった業務上(重)過失致死傷が,逐年激増して,昭和四四年には二万人をこえ,総数の三〇・八%に達していることが注目され,総数の増加も,主としてこの種事犯の激増によるものであることが明らかである。同表にも掲げたとおり,業務上(重)過失致死傷を除く女子刑法犯検挙人員総数は,おおむね減少ないし横ばいの傾向にあり,昭和四〇年を一〇〇とする指数でみると,昭和四四年は,九〇となっている。なお,業務上(重)過失致死傷のほか,窃盗,傷害,放火が,昭和四三年以降引き続き増加していることが,注意をひくところである。

I-51表 女子の刑法犯主要罪名別検挙人員(昭和40〜44年)

 次に,女子の特別法犯送致人員(昭和四〇年は,資料の関係で検挙人員である。)をとりあげて,最近五年間の状況を示したのが,I-52表である。昭和四四年の女子特別法犯送致人員は五三,八一三人(男女特別法犯総数の三・二%)であり,罪名別では,道交違反が,五〇・六%で最も多く,次いで,風俗営業等取締法違反が一七・三%の九,二九四人,売春防止法違反が九・三%の四,九九一人とこれに次いでいる。女子の特別法犯送致人員総数は,昭和四三年以降激減しているが,これは,主として,交通反則通告制度の実施に伴う道交違反の減少によるものである。しかし,道交違反以外の特別法犯にも減少の傾向のみられるものが多く,昭和四四年の数字を前年と比較すると,大麻取締法違反が三人増加し,麻薬取締法違反に増減のないほかは,いずれの法令違反にも減少がみられる。

I-52表 女子の特別法犯送致人員(昭和40〜44年)

 次に,刑法犯(準刑法犯を含む。)について,I-53表により,検察庁の処理状況をみると,昭和四四年には,女子の起訴および不起訴総人員は,四三,八七五人である。このうち,起訴された人員は一九,五九〇人で,起訴率は四四・六%であり,一方,起訴猶予は二一,五一六人で,起訴猶予率は五二・三%である。これを男子の場合と比較してみると,昭和四四年の男子の起訴率は六七・九%,起訴猶予率は二八・一%であるから,女子においては起訴される者の割合がかなり低く,起訴猶予が多い。しかし,最近の傾向として女子の起訴率がしだいに上昇しているが,これは主として,女子の業務上(重)過失致死傷の増加によるものである。

I-53表 刑法犯男女別起訴率および起訴猶予率(昭和40〜44年)

 次に,刑法犯通常第一審有罪人員をみると,I-54表のとおりで,昭和四三年の女子の有罪人員は二,〇三七人で,男女合計中に占める割合は三・二%であるが,女子の有罪人員数,その割合とも,ここ数年やや減少の傾向がみられる。また,この昭和四三年における女子の有罪人員のうち,懲役または禁錮に処せられた者は一,九四四人であるが,このうち七〇・二%を占める一,三六四人が刑の執行を猶予されている。女子は男子に比べて刑の執行猶予率が高いため,受刑者として,刑務所に入所する人員はきわめて少なく,昭和四四年の女子の新受刑者は六四八人であり,新受刑者総数の二・四%にすぎない。

I-54表 男女別刑法犯通常第一審有罪人員(昭和39〜43年)