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 昭和45年版 犯罪白書 第一編/第二章/三 

三 精神障害者の犯罪

 精神障害者の犯罪は,けっして新しい問題ではないが,ここのところ,精神病者の殺傷事件,精神病質者の連続殺人,精神薄弱者の連続放火,俗にいう変質者の性的非行,ノイローゼ気味の母親の嬰児殺しなど,精神障害者によってひき起こされる凶悪ないし異常な犯罪は,マスコミを騒がし,一般市民に深刻な恐怖と不安を与えている。
 しかしながら,重い精神障害者に対しては,その者が重大な犯罪を犯しても,その刑事責任を追及することができず,刑事施設に収容することができないことが多いが,精神衛生法によってこれを精神病院に強制的に入院させ,必要な治療を加えようとしても,必ずしも措置入院の制度が十分に運営されないところから,「精神病者の野放し」などと批判を招きやすいのが実情である。
 そのため,犯罪に陥り,さらに犯罪を繰り返すおそれのある社会的に危険な精神障害者の対策として,治療に主眼をおいた保安処分の制度が提案され,わが国の法制審議会刑事法特別部会においても,数年来そのあり方についてあらゆる角度から慎重な審議をすすめ,ある程度の成案が得られている。このような情勢を背景として,以下,わが国における精神障害者に対する措置状況および精神障害者の犯罪の実情などについて述べることとする。