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 昭和44年版 犯罪白書 第二編/第四章/三/3 

3 処遇の概要

(一) 処遇のねらい

 少年院における処遇は,明るい環境のもとに,紀律ある生活に親しませ,収容者を,その自覚に訴えて,社会生活に適応できる人格に矯正してゆくことが,基本方針とされている。
 少年院に在院する者の特質は,前項でふれたように,人格面でも,環境面でも,さまざまな問題を抱き,しかも,それぞれ異なった身体的・精神的能力の発達程度を示し,非行の深度も異なっている。したがって,少年院の処遇は,収容者の心身の発達程度を考慮して,個々に必要とする教科指導,職業補導,生活指導,医療などを授け,これにより,収容者の社会不適応の原因をとり除き,長所を伸ばして,心身ともに健全な少年の育成をはかるものとされている。また,処遇を適切に行なうために,医学,心理学,教育学等の専門家を職員に含め,その知識ならびに技術が活用されている。

(二) 入院と分類

(1) 施設分類

 家庭裁判所において少年院送致の決定を受けた少年はその決定において指定された種別(初等,中等,特別,医療)の少年院に収容されるが,さらに,収容と処遇が適切に行なわれることを目的として,それぞれの性格,能力,非行性の程度などの心身の条件に応じて,個々の少年に適合した少年院に分類され,収容される。
 この施設分類は,各矯正管区がそれぞれ定める保護少年分類規程によって行なわれる。

(2) 院内分類

 新たに入院した少年に対して,心身の状況,環境条件などについての分類調査と,今後の少年院の生活を受けいれる心構えをもたせるための新入時オリエンテーションとを行なう考査期間が与えられる。その期間は一四日以内であり,その後,約一か月の試行課程をへて,本来の指導,訓練課程に編入されるのが通常である。
 分類調査は,身体医学的諸検査,心理諸検査,面接問診,行動観察等の結果,家庭裁判所から送付された「少年調査記録」および少年鑑別所から送付された「少年簿」などを資料として,身体的,人格的特性,生活環境の状況などを調査するものである。調査の結果は,個々の収容者に適した教科指導の級別編入,職業補導の種目の指定,能力や性格に応じた寮室の指定などに役立てられる。
 院内分類は,入院初期に行なわれるほか,必要が生じたとき,そのつど再分類が行なわれ,常に適切な処遇が行なわれるように配慮されている。

(三) 段階処遇

 収容少年の改善,進歩の程度に応じて,順次向上した取り扱いをするため,処遇に段階を設け,これを段階処遇と呼んでいる。現行の段階は,一級の上および下,二級の上および下,三級の五種にわかれている。
 新入時には,二級の下の段階を与えられ,その後の成績によって昇進が定められる。ただし,成績が悪くなった場合には段階が降下することがある。この決定は少年院長を議長とする処遇審査会で,学業および職業補導の努力の程度と成績,生活態度などについて,その成績を審議のうえ行なわれる。
 一級の者には,単独外出,帰省の許可など,自主的な行動の尊重と,処遇の向上がはかられる。また,一級の上に達し,適当な期間を経た後,原則として仮退院が許可される。こうして,成績の向上と処遇の向上とを結びつけ,収容者の意欲を促すことに,この制度の意義が認められる。

(四) 教科教育

 義務教育未修了の収容者は,なおかなりの数を示しているが,教科教育は,これら未修了者に対する義務教育修了者の資格付与をおもなねらいとし,初等少年院を中心に,教育関係法令に準拠した中学校課程の教育が行なわれている。
 資格付与については,少年院長が,各学校の長が授与する卒業証書と同じ効力を有する修了証書を授与することができることになっているが,当該少年の入院以前に在籍した学校に,院内で受けた授業時間数を報告し,その学校長から修了証書の授与を受ける場合が多い。
 一方,義務教育修了者に対しても,おおむね中学校課程の教科教育が行なわれている。これは,II-206表で示したように,少年院収容者の学力が著しく低いので,その学力を補足するものである。以上のほか,低能力者に対する小学校,養護課程の教育や,高等学校進学予定者に対する指導も行なわれている。

II-206表 収容者の学力(昭和40年)

 矯正統計年報により,在院時における教科教育の実施状況をみると,義務教育未修了者で中学校課程の教科を受けた者の修了証明書授与率は,昭和四〇年の七七%から,四三年の八一%に上昇し,未授与者は一二六人を数えるのみとなった。
 なお,教科教育の一環として,このほか高等学校通信教育が行なわれており,昭和四二年には,公費生六八人,私費生二二人が受講している。

(五) 職業補導

 新収容者のうち,無職者の占める割合は五割をこえ,また,転職の経験のない者は一七%にすぎず,職業に定着していない者が多い。このことは,収容者が職業に関する知識や理解に乏しく,また,定着できるような職業的技能を有するものの少ないことを意味している。
 そこで,出院後の職業生活に適応させ,再び非行におちいる危険性を少なくするための職業教育が必要とされる。職業訓練としては,技能訓練のみでは不十分なので,まず労働を重んずる態度と習慣を養わせ,そのうえに,職業に関する基礎的な知識・技能を授け,職業選択の能力を伸ばしてゆくことによって,社会生活への適応性を養っていく指導が行なわれている。
 職業補導は,職業適性および職業意欲をもつ者に対する職業訓練課程(後述「職業訓練専門施設における処遇」の項参照。)と,それ以外の者に対する職業補導課程との,およそ二種に分けられる。後者の課程は,義務教育修了者で,犯罪傾向の比較的進んでいない者に,応用範囲の広い職業補導を施すものである。
 職業補導の種目としては,II-207表に示すように実施されているが,このうち,ブロック建築,タイル張りなどは,最近に新設されたものであり,建築大工,機械,溶接,電工などの種目は強化されつつある。

II-207表 職業補導種目別実施状況(昭和42年12月31日現在)

 このほか,職業補導に関連して,通信教育制度がある。昭和四二年四月一日から四三年三月三一日までの間に,通信教育を受講した者の総数は一,七二三人である。自動車,書道・ぺン習字,孔版などの講座が,多く受講されている。
 また,院外委嘱補導が,一級生について,住込みまたは少年院から通勤の形で実施されている。これは職業補導とともに,社会生活に適応させる訓練の意味もあり,施設内処遇と社会内処遇のかけ橋として期待され,活発化してきている。なお,昭和四二年内に院外委嘱補導を終了した人員は,八四六人を数えた。
 職業補導の成果の一つとして,各種の資格,免許の試験を受けた者,ならびにその合格者の状況は,II-208表のとおりであるが,現在のところ,その大半は珠算で占められており,ついで自動車運転の進出がみられる。今後は,職業訓練種目の充実とともに,各分野での資格取得者の増加が期待されている。

II-208表 資格又は免許を取得するための受験結果(昭和42年)

(六) 生活指導

 少年院における生活指導の目標は,収容少年の個性の理解の上に立って,生活の具体的な場面に即した適切な指導をすることにより,各少年の個性を伸ばし,健全な社会人として必要な考え方,行動様式,態度などを身につけさせることにある。この社会性を発達させる教育としては,教科,職業補導などの教育活動もその一つであるが,とくに諸種の活動を補足し,深化し,統合する役割が,生活指導に与えられている。
 こうした生活指導は,少年院の生活のすべての場面で行なわれなければならないが,とくに生活指導に重点をおいた活動として,社会教育講話,クラブ活動,篤志面接,集団心理療法,集会活動などが行なわれるほか,道徳教育が,学校教育法施行規則に準じて,教育課程に繰りこまれている。
 クラブ活動実施状況の一端は,II-209表のとおりである。一般に文化系統のクラブが,クラブ数,所属人員,実施回数ともに多く,職業技能系統が少ないが,一クラブ当たりの活動状況は,逆に職業技能系統が多く,年間平均六六回を数えるのに対し,運動系統では三七回,文化系統では三三回程度となっている。

II-209表 グラブ活動実施状況(昭和42年)

 篤志面接委員制度は,活発化してきており,昭和四二年では,面接委員総数で五八〇人,面接総回数で七,二〇〇回を数えている。面接の内容は,精神的はんもんが最も多く,教養,家庭相談,職業相談がこれに次いでいる。
 また,在院者が,少年院内で紀律をみだし,少年院の教育活動の円滑な進行を妨げる場合が少なくない。ちなみに,紀律違反行為のため,懲戒処分をうけた者の数は,昭和四二年中に延べ一三,六五五人であり,少年間の暴行がとくに多いほか,口論・けんか,不正物品所持授受,喫煙,自傷,逃走(未遂・企図が大半)などが,おもな行為としてあげられる。
 このような少年に対して,院内生活への適応,ひいては出院後の社会生活への適応を促進させることを目的とした,個別・集団カウンセリング,精神分析,心理劇,遊戯療法,精神筋肉運動療法など,各種の心理療法が実施されている。これらの療法は,新入者の施設生活への早期適応,問題少年の心情安定,その他一般に人間関係の緊張緩和に,かなりの効果をあげている。さらに最近では,後述するように,集団自体の雰囲気を改善してゆくことによって,個々の少年を矯正してゆこうとする試みがなされており,院内の雰囲気の安定に役立っている。そのほか,映画,講演,演劇などの行事,社会見学,社会奉仕,遠足,帰省など,社会との接触の機会を多くし,社会生活に順化させる試みも行なわれている。

(七) 給養

 在院者の日常生活に必要な衣類,寝具,学用品などは,貸与または給与することになっている。ただし,紀律や衛生に害がない限り,自弁品の使用が許される場合もある。衣類は,制式が定められているが,白のほか,黒,霜降,濃紺などに着色され,社会で一般に使用されているものと,なるべく区別がつけられないように配慮されている。日用品,学用品は,給与基準を定め,官給をたてまえとしている。
 食糧給与については,対象者が心身の発達途上にあるため,健康管理上とくに重視されるところであって,成人受刑者などに比べて,多くの給与が受けられることになっている。昭和四三年における一日の食糧費は,主食六〇・四三円,副食費四〇・五三円,計一〇〇・九六円であり,熱量は,主副食あわせて三〇〇〇カロリーが確保されている。熱量では,民間のそれと比較してそん色はないが,副食費の割合が低いため,副食として要求される六〇〇カロリーを維持し,また,献立に変化をもたせるために努力が払われている。なお,病人や外国人の給食については,費用と献立に特別な配慮がなされている。食費については,十分とはいえないが,年々増額されており,昭和四四年度では,心情安定食も認められ,在院者の食生活も,漸次充実されてゆくものと思われる。

(八) 医療衛生

 昭和四三年末現在,傷病による休養者(一般の入院患者に当たる。)は,二三〇人,非休養者(一般の通院患者に当たる。)は,一,〇二八人であって,病名別にみると,精神・神経系の疾病が多く,ついで非伝染性の呼吸器系,消化器系の順となっている。休養者のうちでは,呼吸器系の疾病が多く,結核性の呼吸器疾病も含めると,休養者総数の約半分を占めて,最も多くなっている。このほか,女子在院者では性病のり患率が高く,在院者総数の五・六%,傷病者総数の二一%を占めている。
 少年院は集団生活を行なう場所であるため,在院者の健康管理には,細心の注意が払われているが,なかでも伝染病の予防については,特段の配慮がなされている。
 一般の病院に当たるものが,医療少年院であって,ここでは,長期にわたる疾病の治療,および日常生活に支障をきたすような,心身障害者に対する専門的治療処遇がなされる。それ以外の少年院にも,医務課が設置され,常勤あるいは非常勤の医師を中心として,傷病者の診断と治療,健康管理が行なわれている。

(九) 出院

 少年院の在院者が出院する形式としては,退院,仮退院,保護処分の取消し,同じくその執行停止などがある。
 退院は,在院者が二〇歳に達したときに出院する満齢退院(ただし,少年院法第一一条第一項但し書により,送致後一年を経過しない場合は,送致の時から一年以内収容を継続することができるものとされている。),裁判所の決定による収容継続・戻し収容の定められた期間を満了したとき出院する期間満了退院,および在院者が矯正の目的を達したと認められるとき,少年院長が申請して,地方更生保護委員会が決定する退院の三種にわかれる。このうち最も多いのは,期間満了退院で(少年院法第一一条第一項但し書による場合を含む。),昭和四三年では一,四二一人で,出院者総数の一八%を数え,次いで,満齢退院の四〇五人,五%であり,委員会の決定による退院は一〇人にすぎない。
 出院の形式として最も多いのは仮退院である。仮退院は,在院者が処遇の最高段階に向上し,仮退院を相当と認めたとき,少年院長が申請し,地方更生保護委員会の決定により行なわれるものである。昭和四三年における仮退院者の数は五,〇〇八人で,出院者総数の六二%を占めている。
 出院前には,特別な寮室で処遇するなどして,種々のオリエンテーションを与え,また,前述の院外補導や帰省なども,出院時教育の一環として,一部の施設で行なわれている。
 出院者の平均在院日数は,II-210表で示したが,昭和四三年の仮退院者の全平均は四四六日,退院者で三八八日であり,少年院の種別では,医療少年院の在院期間が最も長く,中等少年院のそれが最も短い。

II-210表 少年院種類別の退院・仮退院平均在院日数と人員(昭和39〜43年)