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 昭和44年版 犯罪白書 第二編/第三章/二/4 

4 保護観察の新しい動向

 保護観察は,通常の場合,保護観察官と保護司の協働態勢により,保護観察官の専門性,保護司の民間性,地域性を,それぞれ十分に発揮し,その実効をあげることが,期待されているのであるが,現状は保護観察活動の大部分を保護司に依存し,保護司に過重負担をもたらす結果となっている。この現状を打開して保護観察官の活動のいっそうの積極化を図り,保護観察官をして,そのあるべき姿に近づけるとともに,保護司の過重負担をいくらかでも緩和し,保護司をしてその特性を十分に発揮させ,もって保護観察を充実強化するため,種々の工夫が試みられている。
 また,最近における保護観察対象者についてみると,都市化の進展その他社会状勢の変動に伴い,地域住民相互の連帯感が失われ,また,青少年の孤独感,疎外感が増大しつつあることとも関連して,保護観察対象者に対して採られるべき保護観察の具体的な方法にも検討を要すべきものがあると考えられる。

(一) 初期特別観察

 これは,一定の保護観察対象者について,保護観察の初期の期間(保護観察開始後おおむね二か月間)において,保護観察官をして,保護観察の実行に当たらせるものである。その趣旨とするところは,保護観察開始当初の重要な時期に,保護観察官の専門性を発揮させようとするもので,保護観察官が直接に,対象者,家族,雇主等に,保護観察の趣旨を十分理解させ,必要な指導監督,補導援護の措置を講ずるとともに,対象者の人格,環境を的確には握することにより,保護観察実施上の問題点を明確にし,その後の保護観察への適正かつ円滑な移行を図ろうとするものである。
 右の処遇方法は,昭和四〇年四月一日から,東京,大阪,名古屋の各保護観察所において,東京都の特別区,大阪市,名古屋市に,それぞれ住居を有する保護観察処分少年,少年院仮退院者,保護観察付執行猶予者のうち,二三歳未満の者について,行なわれている。
 昭和四三年末における初期特別観察実施中の人員は,保護局の調査によると,三二〇人で,その内訳は,東京保護観察所一四〇人(同庁係属人員の一・二%),大阪保護観察所八〇人(同庁係属人員の〇・九%),名古屋保護観察所一〇〇人(同庁係属人員の一・六%)であり,それらの者に対する保護観察を担当する保護観察官の数は,東京保護観察所六人,大阪,名古屋両保護観察所は,各五人,計一六人である。
 昭和四三年中における保護観察官一人当たりの月平均面接回数は,三四・一回となり,初期特別観察における保護観察官の活動が,活発化していることがうかがわれる。この初期特別観察の方法は,保護観察開始当初における保護観察の重要性にかんがみ,今後の発展が期待される。

(二) 処遇分類制

 従来一部の庁においては,組織暴力関係者,精神障害者その他処遇困難な対象者に対して,保護観察官と保護司との協働態勢のもとに,その指導監督を強化するなど,いわゆる重点観察を実施してきたのであるが,この経験を参考にし,かつ,これを発展させたものとして,昭和四二年九月から,処遇分類制が全国的に実施されている。
 これは,保護観察官と保護司との協働態勢のもとで,保護観察官が,常時の処遇活動をどの程度まで積極的に行なうかの度合に応じて,三種の処遇形態を予定しておき,個々の対象者について,資質,環境上の問題を勘案し,その者に適切な処遇形態を選択し,保護観察官による処遇を重点的に行ない,保護観察の実効を高めようとするものである。
 この制度は,保護観察所長が,保護観察所の所在地の属する都市(または,当該都市の属する保護区)の全域またはその一部区域を実施地域に指定し,当該地域内に居住する受理時二三歳未満の対象者(ただし,道路交通法違反により保護観察に付された者および更生保護会収容者を除く。)について実施されている。ちなみに,この処遇分類制により,保護観察官の積極的な処遇を受けている保護観察対象者の数は,昭和四三年末で五三五人である。
 この処遇分類制は,実施後まだ日は浅いが,個々の保護観察対象者の特性に応じ,最もふさわしい方法による処遇を行なうことの必要なことは,いうまでもないところであり,今後の発展が期待されている。

(三) 駐在保護観察官

 駐在保護観察官は,駐在官事務所において執務する保護観察所の職員である。
 その事務は,
(1) 駐在地の裁判所(地方裁判所支部,簡易裁判所,家庭裁判所等)との連絡を図る。
(2) 右裁判所において言渡しを受けた保護観察付執行猶予者,保護観察処分少年等と面接して,事情を調査し,保護観察への導入を図る。
(3) 地方更生保護委員会から,駐在保護観察官のもとに出頭するよう指示を受けて,少年院,刑務所等から仮釈放を許された者と面接して,事情を調査し,保護観察への導入を図る。
(4) 右の者が,駐在保護観察官の駐在する地域に住居を有する者である場合には,引き続き主任官として,保護観察を行なう。
(5) 右駐在地など一定地域内に帰住地のある在監または在院者に対する環境調査調整事件ならびに共助事件を処理する。
(6) 更生緊急保護法にいう更生(緊急)保護の対象者から,保護措置の申出のあった場合,その事情を調査し,適宜の措置をとる。
等である。
 昭和四三年末における駐在保護観察官一人当たりの,平均担当人員は二四七人で,一般の保護観察官一人当たりの平均担当人員(二〇三人)を上回っている。
 駐在官事務所は,その取り扱う保護観察人員の数も本庁に迫るものがあるばかりでなく,保護司や対象者からも好意をもって迎えられており,また,犯罪予防活動,地域組織化活動等の拠点としての重要性も,ますます高まりつつあるところから,その拡充,強化が望まれる。

(四) 一日駐在等

 これは,保護観察所の管轄区域内で,駐在保護観察官の置かれていない保護区に,保護観察官が一定の日,一定の場所に駐在して,区域内の保護観察の実効をあげようとするものである。
 一般の例では,月一回ないし二回,市,区,町,村役場,公民館等に出向き,対象者に対する面接指導,保護者への助言,雇主等との話し合い,対象者の家庭訪問,担当保護司との処遇の打ち合わせ,関係機関・団体との連絡などの業務が行なわれている。
 昭和四三年一〇月中の一日駐在等の状況について,法務省保護局が行なった調査によると,その開催回数は,この一か月間に一庁平均一三・七回となっている。
 保護観察所の管轄区域が相当広域であり,また,駐在官事務所も特殊な区域にのみ認められている現状では,保護観察官の一日駐在のもつ意義は大きい。

(五) 集団処遇

 集団処遇が,保護観察における一つの処遇形態として採り上げられるようになったのは,道路交通法違反により保護観察に付された少年の激増に伴い,これら少年に対する処遇としては,一般保護観察少年に対するものと異なる方法が効果的ではないかと考えられるに至ったことによる。道路交通法違反少年に対する保護観察の方法として,集団討議,共同学習,座談会,講習会など,いろいろの形で実施されるようになったが,他方,このような試みは,一般保護観察少年に対しても,少年若干名を,定期的に集合させ,自由に話し合いをさせる。集団自由討議方式等によって,保護観察への導入が図られている。