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 昭和44年版 犯罪白書 第二編/第三章/二/2 

2 保護観察の実施機構

(一) 保護観察所

 保護観察の実施をつかさどる機関は,保護観察所である。保護観察所は,各地方裁判所の所在地ごとに置かれ,全国に四九庁あり,管轄区域内の対象者に対して,それぞれ,保護観察を実施している。保護観察所には保護観察官および保護司が所属し,保護観察の実務を担当している。
 なお,保護観察所の管轄区域内であって,その所在地からかなり離れている地方裁判所支部などの所在地に,駐在官事務所が置かれ,保護観察開始当初の事務(裁判所との連絡,保護観察対象者に対する面接指導等)の効率化を図るとともに,駐在地などの一定地域内の保護観察事件,環境調査調整事件等の事務処理に当たっている。現在,駐在官事務所の置かれているのは,八王子市ほか一六か所であり,保護観察官は,八王子市等六市所在の事務所には各二名,そのほかの地の事務所には,各一名が,それぞれ配属されている(駐在保護観察官と呼ばれる。)。また,同事務所には,特殊事務処理(駐在)保護司が駐在していて,保護観察官に協力している。

(二) 保護観察官

 保護観察官は,保護観察所に配属されている国家公務員で,心理学,教育学,社会学その他の更生保護に関する専門的知識にもとづき,業務を行なっている。その業務は,対象者に対する保護観察を主とするものであるが,そのほかに,仮釈放準備のための環境調査調整,地域社会における犯罪予防活動,更生(緊急)保護対象者の保護に関する事務および更生保護事業を行なう団体・組織の指導等である。
 昭和四四年三月末における保護観察官の全国定員数は,七九六人で,そのうち,八〇人が地方更生保護委員会に,七一六人が保護観察所に配置されている。昭和四三年末における保護観察官(ただし,所長,次長,課長を除く。)一人あたりの,対象者の平均担当人員は,二〇三人で,その負担は軽くはない。

(三) 保護司

 保護司は,保護司法にもとづき,社会奉仕の精神をもって,犯罪者の改善および更生を助けるとともに,犯罪の予防のため,世論の啓発に努めて,地域社会の浄化をはかり,個人および公共の福祉に寄与することを,その使命とし,その数は,全国で五二,五〇〇人(定員)で,七六四の保護区に配属されている。保護司の具備すべき条件としては,社会的信望があり,職務の遂行に必要な熱意および時間的余裕を有し,生活が安定していて,健康で活動力を有することなどであり,保護観察所長が推薦した者の中から,法務大臣が委嘱する。その任期は二年で,再任を妨げない。その身分は,非常勤の公務員であり,無給で,職務を行なうにあたり要した実費の全部または一部の支給を受けるのみである。
 保護司の任務は,保護観察官で十分でないところを補うものとされ,地方更生保護委員会または保護観察所長の指揮監督を受けて,それぞれ,地方更生保護委員会または保護観察所の所掌に属する事務に従事するものである。すなわち,保護司は,実際の保護観察の仕事に関しては,保護観察所長より指名を受けて,保護観察対象者の担当者となり,直接,対象者の指導監督や補導援護に当たるとともに,また,担当を委嘱された在監,在院者の環境調査調整および地域社会における犯罪予防活動にも従事している。昭和四三年末における保護司一人あたりの保護観察対象者の平均担当人員は約二人で,ほかに,在監,在院者の環境調査調整事件約一件を担当している。
 このような保護司の活動は,その民間協力の態様において,わが国独得のものとして,その実績は高く評価されているが,犯罪者の処遇という,困難な仕事に対する十分な知識,技能を有し,かつ,定められた適格条件を具備する人材を,それぞれの地域社会に求めることは必ずしも容易なことではなく,地方更生保護委員会および保護観察所において,その人材の発見に努めているのである。
 最近,民間篤志家である保護司に過重な負担をかけてはならないという意見が,関係者の間に強くなってきており,初期特別観察,処遇分類制その他,保護観察官の直接処遇を活発化する方策がとられるようになったが,これは,専門官としての保護観察官の活動の,より積極化を図るとともに,このことにより,保護司の過重負担を軽減させ,その民間篤志家としての役割の,いっそうの活発化を図ろうとする意図によるものである。

(四) 保護観察官と保護司の役割の関係

 保護観察の業務は,保護観察所長の責任のもとに,それぞれの対象者に応じて,主任官および担当者により,個別処遇を基本形態として実施されている。主任官は,保護観察所長から,当該保護観察事件の担当を指名された保護観察官で,当該事件の保護観察業務を掌握し,担当者は,対象者の指導監督,補導援護に関する具体的な処遇にあたる者として,保護観察所長から,指名を受けた保護観察官または保護司である。実際上は,多くの場合担当者となるのは,保護司で,対象者との接触の保持,その他処遇上の効果等を考慮して,その指名が行なわれている。主任官と担当者は,ともに保護観察の実行機関として,相互に緊密な連係を保ちながら,業務を行なっているが,その状況は,次のとおりである。
 まず,保護観察事件が新たに受理されると,主任官は,地方更生保護委員会,裁判所,検察庁,その他から送付された関係書類を参照するとともに,直接本人に面接して,その心身の状況等を調査し,保護観察実施上の問題点を明らかにし,保護観察の方針を立て,これを担当者に連絡し,担当者は,主任官を通じて受けた保護観察所の指示に従って保護観察を開始し,ここに,主任官,担当者の協働が始まる。担当者は,その行なった指導監督,補導援護の状況を,毎月一回(緊急報告の必要があると認めた場合は,そのつど),保護観察成績報告書により,保護観察所長に報告し,主任官は,同報告書によるほか,通信,保護司会への出席,保護区への出張,一日駐在等の機会に担当者と連絡をとりながら,今後の保護観察の方針に検討を加え,更に事態に即応した措置がとられている。