前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 昭和44年版 犯罪白書 第一編/第六章/二/1 

二 女子犯罪

1 女子犯罪の概況

 女子の犯罪は,男子の犯罪に比べて,著しく少ないとされ,これに関しては,女子の道徳性や,生理学的特性とそれに基づく社会的役割,あるいは保護された社会的地位など多くの面から説明が試みられている。
 まず,最近の刑法犯検挙人員を,男女別に示すと,I-119表のとおりである。最近五年間における,男子一〇〇に対する女子の割合は,約七ないし九である。女子の刑法犯検挙人員は,昭和三九年から昭和四二年まで五万人台で,ほとんど横ばい状態にあったが,昭和四三年には六〇,八一〇人を記録し,昭和三九年に比べると一一%の増加となる。これに対して,男子の検挙人員は,昭和三九年から昭和四一年まで六〇万人台,昭和四二年には七〇万人台,そして,昭和四三年には八六二,六八一人と増加の一途をたどり,最近五年間に約三八%の増加がみられる。

I-119表 男女別刑法犯検挙人員および人口比(昭和34,39〜43年)

 また,刑法犯検挙人員の人口比(有責人口一,〇〇〇人に対する型法犯検挙人員の割合)も,検挙人員の推移とほぼ同じ傾向を示し,女子のそれが,昭和三九年から昭和四二年まで,引き続き一・四と変動を示さなかったものが,昭和四三年には一・五に上昇している。最近五年間の推移において,とくに注目されることは,実人員,人口比のいずれも,昭和四三年が最高を記録していることである。
 次に,主要罪名別に,女子の刑法犯検挙人員の推移をみると,I-120表のとおりであって,昭和三九年と昭和四三年とを比較すると,最も増加の著しいのは,約四倍に増加した業務上(重)過失致死傷であり,次いで,賭博(約二三%増),殺人(約一八%増),傷害(約六%増)の順となっており,わずかとはいえ殺人の増加が注目される。罪名別構成比では,窃盗が最も高く,昭和四三年には三四,六一四人で総数の五六・九%を占め,次いで,業務上(重)過失致死傷の一五,三一四人で,二五・二%となっている。その他の罪名では,検挙人員がきわめて少なく,したがって,構成比も三%未満にとどまっている。このように,最近五年間にわたって,女子検挙人員の七〇%以上を,窃盗と業務上(重)過失致死傷とで占めているが,窃盗の構成比は減少傾向を示し,これに対して,業務上(重)過失致死傷が著しい上昇傾向にあって,女子においても,自動車の交通に起因する業務上過失致死傷の増加が,検挙人員の構成比を大きく変えている。

I-120表 主要刑法犯罪名別女子検挙人員(昭和39,42,43年)

 次に,女子の特別法犯送致人員(昭和三九年は資料の関係で検挙人員である。)をとりあげて,最近の状況を示すと,I-121表のとおりである。昭和四三年の送致人員総数は八九,六七一人であり,罪名別では,道路交通法違反が,六二・六%にあたる五六,一三九人で最も多く,次いで,風俗営業等取締法違反が一三・八%の一二,四一〇人,売春防止法違反が七・三%の六,五一〇人の順となっている。また,特別法犯の送致人員について,男子一〇〇に対する女子の割合をみると,総数では三・一を示しているが,売春防止法違反が四六八・七,風俗営業等取締法違反が一八〇・九であり,男子のそれをはるかにこえている。最近五年間における,女子の特別法犯送致(検挙)人員の動きで,最も特徴的なのは,昭和四二年に比較して,昭和四三年の送致人員が大幅に減少していることである。これは,おもに交通反則通告制度の実施に伴う道路交通法違反の減少などによるものである。

I-121表 主要特別法犯女子送致人員(昭和39,42,43年)

 次に,刑法犯(準刑法犯を含む)について,I-122表により,検察庁の処理状況をみると,昭和四三年には,女子の起訴および不起訴総数は四〇,二二二人である。このうち,起訴された人員が一七,三五九人で,起訴率は四三・二%であり,一方,起訴猶予は一九,九八九人で,起訴猶予率は四九・七%である。これを,男子の場合と比較してみると,昭和四三年の男子の起訴率は六八・四%,起訴猶予率は二六・一%であるから,女子においては,起訴される者の割合がかなり低いことになる。しかし,最近の傾向として,女子の起訴率も,しだいに上昇しているが,これは,おもに業務上(重)過失致死傷の増加によるものである。

I-122表 検察庁における刑法犯既済事件の男女別起訴率および起訴猶予率(昭和39〜43年)

 次に,刑法犯通常第一審有罪人員をみると,I-123表のとおり,昭和四二年の女子の有罪人員は二,〇八〇人で,男子の有罪人員一〇〇に対する割合は,三・三であるが,有罪人員数,男子に対する割合とも,ここ数年間たいした増減はみられない。また,昭和四二年に,刑法犯により,通常第一審で有罪となった女子二,〇八〇人のうち,懲役または禁錮に処せられた者は,一,九九五人であるが,このうち,六九・八%を占める一,三九二人が,刑の執行を猶予されている。女子は,男子に比較して,刑の執行を猶予される割合が高いため,受刑者として,刑務所に入所する人員は,きわめて少なく,昭和四三年の女子新受刑者は七七六人で,男子新受刑者に対する割合は,二・六%にとどまっている。

I-123表 男女別刑法犯通常第一審有罪人員(昭和38〜42年)