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 昭和35年版 犯罪白書 第四編/第二章/二/2 

2 教護院

 教護院は,非行児童,すなわち,「不良行為をなし,またはなすおそれのある児童を入院させて,これを教護する」施設である。
 教護院の設置は,各都道府県と五大市とに義務づけられているが,昭和三四年一二月一日現在で,国立一(ほかに建設中一),都道府県立五〇,市立三,私立二,合計五七で,収容定員は五,六九五人(実人員五,二〇九人)である。
 教護院における教護は,つぎの点に目標をおいている。
一 開放的かつ家庭的な雰囲気のなかで,男子職員とその妻である女子職員とが少人数(一〇人から一六人ぐらいまで)の少年とともに生活するシステムを中心とする(夫婦制によるコッテージ・システム)。
二 生活指導,学科指導および職業指導は,すべて児童の不良性をのぞくことを目的としている。
三 塀もなく,鍵もなく,監視もない,したがって行動の自由を制限しない環境のもとで指導する方式をとっている。ただ,家庭裁判所の決定によって,強制措置を必要とするケースや,院内での取扱い上,発作的に他人に危害を加えたり,いちじるしい異常性格のため他人と共同生活のできないケースにかぎって,いちおう,鍵をもちいている。しかし,その場合も,外形的には強制措置であるが,実質的には,親の子弟に対する情愛にもとづいてとる手段という範囲にとどまるので,その内容は,精神医学的な治療教育をともなうものであることが強調されている。そこで,家庭裁判所によって強制措置の必要を決定された少年は,国立教護院のほか,特定の教護院(一〇カ所)に収容している。
四 少年の取扱い方の基本として,「個々の少年に対する指導の仕方は,千差万別であっても,それらの基本的な共通性として,指導者と少年との心の接触を第一とする」(教護院運営要領)立場が強調されていること。
 現在,教護院の在院期間は約二年であるが,もっとも性情不良な男子児童を収容している国立武蔵野学院(収容定員一五〇人,うち六〇パーセントは,強制措置の決定をもっている)が,昭和二九年九月一日現在で,退院生一,三七五人について,退院後五ヵ年の経過を調査したところ,非行のなかった者が五三パーセント,軽度の非行のあった者が一七パーセント,“少年院,刑務所または精神病院に収容された者が三〇パーセントであった。他の教護院は,もっと軽度の非行児童を収容しているので,退院生の経過は,これよりも一そうよいものとみられよう。