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 昭和35年版 犯罪白書 第一編/第二章/七/1 

七 選挙犯罪

1 選挙犯罪の推移

 選挙犯罪の多いのは,わが国の犯罪現象にみられる一つの大きな特色である。わが国の選挙犯罪は,すでに,明治二五年の衆議院議員選挙の当時から問題となっているが,多数発生するようになったのは,大正時代以降のことである。大正一四年にいわゆる普通選挙法が成立したさい,当時の識者は,普通選挙になれば,有権者がふえて買収が困難となり,選挙の腐敗は是正されると期待した。ところが,昭和三年二月の普選第一回の衆議院議員総選挙では,まったくこの期待をうらぎって,多数の買収が行なわれ,その後も同様の状態がつづいた。
 昭和初年は,警察の政党色が濃く,警察は与党関係の選挙違反の検挙には消極的だというそしりをうけるのがしばしばであった。戦後には,この点は改善されたが,刑事訴訟法の制約などによって,検挙はむずかしくなっている。また,国連加盟恩赦,講和恩赦などをはじめ,戦後四回の大赦にはいつも選挙犯罪がその対象の一つにされており,裁判における刑の量定も一般に寛大で,選挙についての国民の遵法精神は低く,最近にも選挙犯罪はきわめて多く発生しているが,取締当局の努力にもかかわらず,その一部が検挙されるにすぎないようである。