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 昭和35年版 犯罪白書 第一編/第一章/二 

二 犯罪の原因

 人間の社会には,一方の極に,よほど環境がよくても素質的に犯罪に陥りやすい者と,他方の極には,よほど環境が悪くても,容易に犯罪には陥らない人間がいて,この両極のあいだに,環境しだいによっては犯罪にも陥る数多くの中間的存在がいるのである。このような素質的条件と環境条件の組合せと,犯罪を取り締まる法律のバランスのうえに,ある程度の犯罪の恒常性が保たれると考えられる。また,社会が進歩しても犯罪が減少しないどころか,かえって増加の傾向さえ示す理由としては,つぎのような原因があげられる。まず,第一は,犯罪の主体すなわち人口の増加である。年々増加する人口のうち,つねに何パーセントかは社会不適応をおこしやすい素質の持主がいるわけである。第二は,犯罪原因となる社会的関係や行為の増加である。社会がすすむと人間関係がますます複雑になって,取締りの法律も増加する。そのため,みずから破綻をきたすような人間関係が多くなるばかりでなく,社会関係相互の矛盾や衝突がふえてくる。第三は,犯罪を誘発する犯罪客体または刺激の増加である。このような理由によって,犯罪原因も,また,社会の進化によって増加しつつあるのである。