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 昭和35年版 犯罪白書  

はしがき

 犯罪は,その量において増加しつつあるばかりでなく,その質においても凶悪化し,とくに,青少年犯罪にその傾向がいちじるしいといわれている。戦後すでに一五年を経過し,社会生活が一段と落着きをとりもどし,もはや戦後ではないといわれる今日,犯罪のこのような傾向を戦後の特異な現象であると安易に説き去ることは許されないであろう。
 犯罪の増加傾向は,わが国にかぎらず,欧米諸国にも見うけられ,世界的な現象だともいわれているが,諸外国には,わが国ほどの増加率と凶悪化はみられないようである。この特異な現象を招いた原因がどこにあるか,また,その対策として,どのような措置が講ぜられなければならないかを探究することは,きわめて困難な仕事で,短日月にその結論を得ることはできないであろうが,それは,犯罪の防止と処理とに関係する諸機関の当面の責務とせねばなるまい。昨年七月,法務総合研究所が新設され,実証諸科学を活用して犯罪とその対策に関する刑事政策的研究にあたっているのも,主として,右の責務の一環として理解さるべきであろう。
 これらの課題を解明するためには,その第一歩として,まず,現下の犯罪の実情と,その対策として実施されてきた諸制度ないし諸施策,換言すると,犯罪とその対策の現況を明らかにする必要があろう。本書は,このような要請にもとづいて意図されたものである。すなわち,第一編において,戦後の犯罪現象を戦前のそれと対比しつつ,その傾向を概観するとともに,犯罪原因として論ぜられているところを紹介し,第二編において,犯罪者を確定する手続,すなわち,刑事手続の現状を主として刑事政策の面からながめ,第三編において,犯罪者の処遇対策として実施されてきている行刑と保護の現況を詳述し,最後に,第四編において,昨今とくに世の注目をあつめている少年犯罪をとりあげ,その特質と対策の現況に論及した。叙述にあたっては,平明を心掛けるとともに,できるだけ客観的な観点を保持し,かつ,入手できるもっとも新しい統計その他の資料によることを期したが,何分にも,とり急いでまとめたものであるため,なかには,思わぬ誤や説明の尽くされないところが少なくないかをおそれている。今後,年ごとに版を新たにして,訂正や補充を加え,漸を追うて,完全に近いものにしたいと考えている。
 本書の成るにあたっては,法務省の刑事局,矯正局,保護局をはじめ司法法制調査部など各担当者から豊富な資料の提供をうけた。これらの援助がなければ,本書は,とうてい,誕生をみることができなかったであろう。ただ,これらの資料を取捨選択し,これを総合して記述したのは,法務総合研究所であるから,本書の内容に関する責任は,一に当研究所にあるのはいうまでもない。
昭和三五年三月
馬場 義続 法務総合研究所長